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第62話 突入、ヴァンパイア城

 深夜にプレミエ村を襲ったヴァンパイアの群れ。

 ガレスさんとカエデと共に撃退したが、犠牲者は出てしまう。


 それに襲って来たヴァンパイアも壊滅したリフィス村の住民だろう。

 これ以上犠牲者を増やす訳にはいかない。


 夜中に戦ったばかりではあるが、プレミエ村を昼前には出発した。


 もぬけの殻となったリフィス村を通り、こつ然と現れた城があるという森へ突入。

 静かな森だが、ヴァンパイアが潜んでいるかと思うと何だか怖い。


「あ、そうだ。村の人達がマドレーヌ作ってくれたんですよ」


 カエデは村の人から、焼き菓子をもらったようだ。


「食べる?」


「今はいいかな」

「今はいい」


 緊張をほぐそうとしてくれたのだろうが、僕もガレスさんもそういう気分じゃない。


 でも、村の人達の気持ちは嬉しい。

 夕べのヴァンパイア撃退に関しては感謝されたし、今日も豪勢な朝ごはんを作って接待してくれた。

 期待されているのが分かる。

 プレミエ村の人達のためにも、必ずヴァンパイアロードを討伐しなければ。


 ほどなく城が見えてきた。

 防壁や庭園はない、あくまで石造りの城だけだった。

 周囲に倒された樹木があるのが、最近、急に現れた城である事を物語っている。


 意外と小さな、三階建てくらいの城だ。

 遠目に見えなかったのは、このサイズ感のせいもあるのだろう。


 大きな木製の扉があるが、押しても引いても開かない。

 戸締りがしっかりしているのは結構な事だが、こっちはそれでも侵入するつもりだ。


「ぶち割るか」


 ガレスさんは大斧を構えたが、


「いえ、僕に任せて下さい」


 前に出た僕は両手の拳を握りしめる。


 まずは左手を開き、前に突き出す。


「マジックバリ……!」


 そして、次に右手を広げ、突き出す!


「アンロック!」


 扉の奥で重いものが落下する音が。

 閂が落ちた音だろう。


 自分に魔法の障壁をかけつつ、目の前の扉を開ける。

 魔法の罠のかけられた扉でも安心な、極めて便利な連続魔法だ。


「あ! これ、密室殺人の容疑者にされた時の奴!」


 カエデが叫んだ。


「嫌な事を思い出させないでよ……」


 確かにこの前。これを使用した時は、大変な目に遭ったけど。


 ともあれ僕らはヴァンパイア城に踊り込んだのだった。


 入ってすぐに広間があったが、こじんまりした外見通り、それほど広くはなかった。

 狭い中でのヴァンパイアの急襲は危険なので警戒して辺りを見回したが、そうはならなかった。


 広間にいたのは石でできた巨人、ストーンゴーレムだった。

 こちらを姿を見かけると突進して来た。


 ストーンゴーレムは以前、魔王軍四天王のゴーレムマスター、メルティと戦った時に出会っている。

 その時はマリスさんのウィンドカッターで撃破した、のだが。


「うーん、ウィンドカッターか」


 僕は習得魔法だけは多いので、ウィンドカッターの魔法も習得している。

 しかしこの魔法、始まりが「ウィ」で、終わりが「ー」。


「使えないのか?」


「はい、ごめんなさい」


 しりとり魔法とは相性が悪く、覚えていても使用ができない。


「わたしのポントーも厳しいです」


 斬撃とも相性はよくないだろう。


「仕方ねえ。補助魔法でもかけろ」


「はい!」


 僕はガレスさんの方を向いて、両手の拳を握りしめ、しりとり魔法を使った。


「ディフェンストレングス!」


 攻撃力と防御力を高める、攻守一体のしりとり魔法だ。


「じゃあ軽く行ってくるか」


 大斧を担ぎ上げるガレスさん。

 一人に任せてしまうのが忍びない。

 軽くなんて言っているが、石の巨人が相手で軽く済む訳がない。


 そう思っていたが、


「おらあああ!」


 ゴーレムの脳天に斧が突き刺さると、細かいひび割れが無数に生じ、次の瞬間には粉々になってしまった。


「なかなかの補助魔法だ」


 床に刺さった大斧を拾い上げ、担ぎ上げたガレスさん。

 しかし、これは補助魔法の力というより、ガレスさんの元々の腕力によるものだろう。

 やはりさすがは勇者一行。


 しかし、大きな足音が続々と聞こえてきた。


 正面には開け放たれた扉が二つあり、それぞれ上りと下りの階段が付いている。

 下りの階段から巨人の姿が続々と現れる。


 土でできたクレイゴーレムと、氷でできたアイスゴーレムだった。


「土ならなんとかできます!」


 カエデがクレイゴーレムに向かって行く。


「ならアイスゴーレムは僕が」


 ポントーを鞘に納めたまま、突進していくカエデ。

 そしてすれ違いざまにポントーを抜き、斬りつける。


 バランスを崩すクレイゴーレム。

 そして、カエデがポントーを鞘に納めると、上半身と下半身で真っ二つに。


 粋だねえ、とモミジなら言っていたであろう、鮮やかな戦い方だった。


「じゃあ僕も続いて」


 アイスゴーレムなら以前、相手をした事がある。


「パイロックブラスト!」


 炎と石つぶての同時攻撃がアイスゴーレムを粉砕した。

 これで先に進める。


「上にも下にも行けます」


 上下の階段、どちらへ向かうべきか。


「下だな」


 ガレスさんは即答した。


「ロードは上の可能性が高いが、挟撃されたら厄介だ。

 先に下の敵を倒しておく」


 僕も異論はない。まずは地下に向かった。


 そこはひんやりとしていた。

 木箱や樽がいくつも置かれている。


「ワインだ」


 僕は木箱を開けた。

 緑色のビンに入った赤い液体。


「実はワインに見せかけて、血が入ってるなんてないですよね」


 カエデのつぶやきに僕は思わず後ずさった。

 ヴァンパイアだけに、その可能性がないとも言えない。


「いいや、ワインだな」


 ガレスさんは手近な樽を破壊して、言った。

 床に赤い液体が広がると、お酒の香りが漂って来る。

 色合いや質感も血液ではなさそうだ。


「敵がいないなら上に行くぞ」


 地下には部屋もなく、敵が隠れていないのは一目瞭然だった。

 全体的に狭い構造だし。

 あくまでワイン倉庫だったようだ。


 二階の広間にも、またゴーレムがいた。


 今度のゴーレムは鋼鉄でできていた。

 アイアンゴーレムだ。


 アイアンゴーレムはゴーレムの中では最も強力な部類だ。


 攻撃力も防御力も圧倒的だ。

 その上、魔法でも倒しづらい、厄介なモンスターだ。


 しかし、僕にとっては、しりとり魔法にとっては、恐るるに足らない。


「僕が行きます」


 初めてのしりとり魔法で倒したのも、このアイアンゴーレムなのだ。

 金属と石の床がぶつかる、耳障りな音と共に、突進してくるアイアンゴーレム。


 しかし、僕は落ち着いて両手の拳を握りしめた。


「ライトニングラビティー!」


 重力波で動きを止めたゴーレムに電撃が走る。

 それでも全身を止めないゴーレムだが、僕は慌てない。


「ライトニングラビティ!」

「ライトニングラビティ!」

「ライトニングラビティ!」


 初めて戦った時のように連続攻撃を浴びせた。

 すると、アイアンゴーレムはひしゃげていく。


 電熱で溶解した鉄の身体が重力波で歪んでいっているのだ。

 何発も魔法を食らわせると、やがてアイアンゴーレムはぺしゃんこになった。


「行きましょう」


 僕達はいよいよ三階へ。

 そこは最上階の玉座の間だった。


 そして、玉座には黒マントの初老の男がいた。

 ウェーブのかかった長髪に、青白いと言ってもいい肌をした人物。


 玉座の隣に置かれた小さな丸テーブルには、ワインが置かれている。


「アイアンゴーレムまで倒すとは。

 貴様らか、わがしもべ達を全滅させたのは」


 男はワインを一口飲むと、立ち上がった。


「招かれざる客人だが、まずはようこそと言っておこう」


 青い瞳が妖しく輝く。

 深い深淵のような瞳が。


「我はフローズン。ヴァンパイアロードなり」

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