第59話 ヴァンパイア出現
僕達のパーティを名指しで依頼をして来たのは、魔王を倒した勇者一行の戦士、ガレスさんだった。
「急ぎで解決したい依頼があったんだが、エレインもマリスも都合が付かなくてな」
エレインさんは、ルナテラスさんと結婚して、故郷に戻っている。
いずれはまた二人とも、王都で冒険者をやるという。
それは知っていたけど、
「マリスさんも一緒じゃないんですか?」
勇者が試練を受けていた時も、二人で行動していたし、一緒かと思っていた。
「あいつは最近、国王の命令で魔王城の調査をしている」
魔王ティフォンの城は西のノルエスト山脈にある。
調査をすると言うのは分からない話ではないが、結構時間が経っている気もする。
「そんなに調査する事があるんですか?」
「かもな」
ガレスさんは多くを語らなかった。
口数は元々少ないが、何かを知っているようにも聞こえる。
「とにかくそんな訳で、依頼をこなす仲間が欲しい」
「僕らでいいんですか?」
マリスさんもガレスさんもルナテラスさんもAランク冒険者。
エレインさんに至っては世界でただ一人のSランク冒険者だ。
つり合いが取れるとは思えない。
「少なくともマリスは、お前が自分の代わりになると思っているみてえだな」
どうやらマリスさんに、僕達を連れて行くよう言われたらしい。
光栄な事ではある。
「でも実は今、一人いないんですが」
僕はウガガウがいない状況を話した。
イネスさんの時と同様に、里帰り中と説明した。
「バーサーカーの小娘か。
確かにあの怪力は並じゃあねえな」
ファフニル戦でウガガウの強さは知っているようだ。
「だが、斧に関してはオレだってちょっとしたもんよ」
壁に掛けられたガレスさんの得物。
その大斧はウガガウのものより二回りは大きい。
「代わりにくらいはなれる」
代わりなんてとんでもない。
それどころかこの大陸にガレスさん以上の斧使いなどいないだろう。
「それで何の依頼なんですか?」
こうなっては依頼を引き受けるしかない流れだろう。
カエデもやる気出してくれるかなあ。
「ヴァンパイアだ」
真顔になるガレスさん。
僕にも緊張が走る。
「一つの村が突然壊滅した。
そして、その村にヴァンパイアが現れた」
ヴァンパイアとは吸血鬼だ。
元人間の、人の生き血をすするモンスターとして広く知られている。
ポピュラーではあるが、極めて厄介で、恐れられているモンスターだ。
「それで、『ロード』の存在は確認されたんですか?」
ヴァンパイアとは理性を持たずに、血の気配を感じると、手当たり次第に襲いかかって来るモンスターだ。
そして、その大本となる、言うなれば感染源とも言うべき存在が『ロード』だ。
ヴァンパイアロードは下位のヴァンパイアとは異なり、高い知性と魔力を持った魔物だ。
ロードを倒さないと、ヴァンパイアは新たに作られてしまう。
ロードの手掛かりがあるかどうかは重要だ。
「本体は確認されていない。ただ……」
「ただ?」
「壊滅した村の近くに突然、石造りの城が現れたらしい」
冒険者ギルドで勇者一行の戦士、ガレスさんから依頼への協力をされた僕。
ヴァンパイアによって滅ぼされた村があり、そのそばに忽然と城が現れたという。
「その城にヴァンパイアロードがいる可能性は高い」
僕もそう思った。
ヴァンパイアは太陽の光に弱い。
日中の隠れ家が必要なのだ。
「さらに、ロードの野郎は魔界から来た可能性が高い」
魔界には人間界より強力な魔物が住んでいる。
それどころか、同種の魔物でも、魔界に住むものの方が強力な可能性がある。
「城を突然出現させるような奴だ。
只者とは思えねえ」
確かにそんな事ができるなんて、計り知れない能力だ。
「さらに周辺の村に被害の出る前に手を打たなきゃならねえ」
どうやらAランク冒険者のガレスさんに回されるだけあって、緊急事態のようだ。
「城に突入するのが夜にならないようにしたい。
今日出発して、周辺の村に泊ればちょうどいいはずだ」
確かにヴァンパイアとの戦いが夜になるのは避けたい。
「今から支度できるか?」
急な話だが、僕は構わない。
問題はカエデだ。
下手をしたらまだ寝ているかも。
「ふええ、今日はお休みですよぉ」
カエデの家を訪ねると、ちゃんと起きていて寝ぐせも直していたが、やはりテンションは低かった。
ちょっと泣いているような感じもする。
「実は救援の依頼に指名されたんだけど、どうする?」
「うーん……」
ウガガウと離れたショックは大きいようだ。
今日は休みたい気持ちも分かる。
逡巡しているカエデ。
「カエデは今回はお休みする?
僕は受けるけど」
しかし、
「それなら支度する」
そう言うと扉を閉めるカエデ。
ちょっとすると、
「行きましょう」
着物のような上着と、パンツルックのいつもの民族衣装で現れた。
もう表情もキリっとしている。
「わたしとリンクスはパーティなんだから」
やる気になってくれた。
ガレスさんと合流しよう。
「お前も何だか見違えたな」
ガレスさんもカエデの変化に気付いたようだ。
カエデはサマラ村の一件で、大きく成長した。
ウガガウと過ごした事も影響しているだろう。
今のカエデなら、きっと頼りになる。
こうして、ガレスさんとカエデと僕の三人は吸血鬼討伐に向かう事になった。




