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第52話 道場破り現る

「道場主を決める試合で、お父さんとお兄さんを傷付けたのは、君なんだろう、モミジ」


 僕の目の前にいるのはカエデの別人格、モミジ。

 この状態になるとカエデは相手が生身でも構わず攻撃できる。


 そして、そのポントー術は協力無比なのだ。


「粋だねえ」


 ふんぞり返って、あごに手を当てて、不敵な笑みを浮かべるモミジ。

 いくらカエデが積極的な性格になってきたと言っても、こうはならない。


「君は以前、僕の魔法での人格の入れ替わりを、二回目だと言った」


 ルナテラスさんを交えて、モミジと話した時の話だ。


「なら一回目はその試合の時なんじゃないかってって思ったんだ」


「粋だねえ、旦那。

 その通りでさあ」


「君はカエデを守るために現れたのか?」


「と、言うよりは、弱く見せるために抑えていた自分、って事ですかねえ」


 以前、幼い時からのストレスって話があった。

 お兄さんであるアサガオさんを立てるために、手加減をしていたことも聞いた。

 それが怒ったお父さんに暴力を振るわれた時に爆発したのだろう。


「カエデが話すと決めたなら、お答えしましょう」


「でも、その話し方は? 結構変わってると思うんだけど」


 怒りを爆発させてこうなるだろうか。


「あっしはカエデの中の強さのイメージ」


 あごに当てていた手の親指で自分を指差す。


「強いって事は、粋って事でさあ」


 いい事を言ってるつもりなんだろうが、意味が分からない。

 カエデの中ではこういう人物がかっこいいのかも知れない。


「あの時はまだ加減が分かってなかったんでさあ。

 やり過ぎたなあ、とは思ってやす」


 でも、あの状況は止むを得ないと思う。

 お兄さんまで攻撃したのはやり過ぎかも知れないけど。


「こんな事を言えた筋合いじゃあないのかも知れやせんが」


 改まって、真顔になって、モミジは言った。


「カエデを助けてやってくだせえ」



 そして、モミジはカエデに戻った。


「あれ? わたし……」


 びっくりして辺りを見回している。


「モミジにも話を聞いたんだ」


「そうですか……」


 予想だけど、カエデもあの試合の時に初めてモミジの人格に入れ替わった可能性を、考えた事はあるはずだ。


「カエデ、言っちゃ何だけど」


 その話を聞いた上で考えた事だ。


「もう帰ろう」


「な、何を言ってるの?」


「カエデのお父さんも、お兄さんも、勝手過ぎるよ。


 あの人達のためにカエデが苦労するのは見てられない。

 もうマイリスに戻ろうよ」


「ううん、もう一息なの。もう一息でお兄ちゃん、やる気を出してくれる。

 馬車の停留所にするなんて本心の訳ないもの」


 必死にまくし立てるカエデだが、僕は全く得心が行かない。


「な、何言ってるの……」


 カエデは目を剥いて固まっている。


「道場を……、道場を守らなきゃ……」


「カエデ、とにかく落ち着こうよ」


 何とかなだめようしたが、


「リンクスの馬鹿!!」


 カエデは駆けだして、道場を出て行ってしまう。


「待つんだ! カエデ」


 こうなると僕の脚力では追いつけない。

 結局見失ってしまった。


 道場の門のところに座って、カエデを待つ。

 月明かりを頼りに目を凝らしていると、ウガガウがやって来た。


「それ、似合ってるね」


「オレもそう思うぞ」


 サイズを合わせてもらった着物。

 緑色は彼女の希望だろう。

 普段はぼさぼさのセミロングの髪も、きれいにすいてもらっている。


「カエデにも見せたいぞ」


 そう言って、クルっと一回転。

 こう見るとバーサーカーだなんて思えない。

 すっかり普通の女の子だ。


 しかし、二人で待っていても、なかなかカエデは姿を現さない。

 ウガガウが何度もあくびをしていたので、その日は屋敷に戻ったのだった。



 次の日、カエデのお母さんと一緒に朝ごはんを作った。


 港町マイリスも海の幸が豊富だが、この辺りは新鮮な野菜が手に入る。

 ヘルシーないい料理ができた。

 カエデの分はお弁当にした。


「肉食いたいぞー!」


 とウガガウは言うが、


「野菜も残しちゃダメだからね」


 と言い含めた。


 食卓にはカエデのお父さんもいた。


「カエデは冒険者としてどうなのだ?」


 改まって僕に尋ねて来た。


「あいつはポントーの才能はあるが、人付き合いが苦手で、いつも兄の後ろに隠れておってな。

 家を出て生活できるなどと思っていなかったが」


「そうですね。

 伸び悩んでいた時期もあります。


 でも、元々頑張り屋なんです。

 最近はあの子に引っ張られてる事もあります。


 とっても面白い子です」


「うむ、そうか」


 難しい顔に刻まれた皺は、笑顔だったように見えた。

 ちょっと厳しすぎる、酷い人だなあと思ってたけど、カエデの事を気にかける言葉は本心からだったと思う。


 僕も言い過ぎたかなあ。

 お弁当を渡すときに謝ろうか。


 そう思っていたら、


「頼もうーーー!」


 大きな声が聞こえて来る。

 と、言うか聞き覚えのある声だった。


 カエデのお父さん、お母さん、ウガガウと共に外へ。


 道場の中にサムライの姿が。

 と、言うか休業中の道場なので、門は閉ざされている。

 結局、勝手口から入ったはず。


「この道場の看板、頂きに参った!」


 ポニーテールの女性のサムライだった。


 民族衣装の羽織りもの。

 下は長いパンツルック。

 ポントーの入った鞘を持っている。


「わた……、あっしはモミジ。

 道場破り、であるぞ!」


 再現度の低いモミジだった。


「い、粋じゃねえ?」


 ふんぞり返り方もぎこちない。


「面白いぞ、カエデ」


「ウガちゃん、カエデじゃないから!」


 て、言うかカエデだった。

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