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第49話 カエデの故郷へ

 カエデのお願いで、彼女の故郷、サマラ村にやって来た僕達。


 セントレールの一般的な町や村と変わらない農村だった。


「空気のいい村だね」


 心地よい風が吹く。

 そして、一面の青空が広がっている。

 帝国領は湿地が多く、曇りがちだった。

 日差しも暖かくて気持ちいい。


「でっかい木だぞ!」


 村の中心の大きな木にウガガウが駆け出して行く。

 そして、瞬く間に太い枝のところまでよじ登る。


「よかった、ウガちゃん。元気になって。

 連れて来た甲斐があった」


 カエデはその様子を見てほほ笑んでいる。


「ルキアさんの事で落ち込んでいたから、心配だったんです」


 皇帝との謁見前に立ち寄った旅館、デュークジューデン。

 そこで、ステータスウィンドウの使い方をレクチャーしてくれた、ルキアさん。

 しかし、彼女は殺人事件の犯人で、僕にその罪をなすりつけようとした、張本人だった。


 そのショックで、落ち込んでいたようだ。

 僕はうかつにも、気付かなかった。


「もしかして、ウガガウが落ち込んでたから、ここに来たの?」


 首を傾げるカエデ。


「リンクスもでしょ?」


「えっ?」


「ずうっと難しい顔してました」


 そう言えば、皇太子殺害以降、先行きを気にしてばっかりだった。


「きっと疲れてるんですよ」


 考えてみると、魔王が倒されても、ルナテラスさんの代わりの仕事を引き受けたりしてた。

 ちょっと張り詰め過ぎていたのかも知れない。


「それに、ウガちゃんがわたしの着物、着てみたいって言ってたんです」


 そう言えば以前、ウガガウはカエデに着せられたフリフリのドレスは嫌がっていた。


 着物とは、カエデの着ている、胸元で布を合わせ帯で巻いた民族衣装の事だろう。

 ドレスと違ってごわごわしてない、さっぱりした感じだ。

 こっちの方が、ウガガウには会っているのかも知れない。


「うちにわたしのお古があるから、この機会に戻ろうかなって」


 僕とウガガウのために、故郷に寄る事を決めたのか。

 そんな事をするなんて、考えていなかった。


 出会ったばかりの頃は、いつも脅えていて力んでいたけど、この子も変わったなあ。


「ウガちゃん、行くよー!」


 気が付いたら、木の上のウガガウに呼びかけているカエデを見ながら、そう思った。


 さらに村を進むと大きな門が近づいて来る。


「リンクスも何かやりたい事があったら言って」


「そうだなあ。久しぶりに料理をしてみたいかな」


 以前は副業で酒場に勤めていた。

 帝国の料理は、ちょっと味付けが強くて苦手だった。


 自分で作る料理が懐かしい。


「素敵!

 リンクスの料理、わたしも食べたいです」


 そんな会話をしながらのどかな村を歩き、カエデの実家へ。


 さらに村を奥に進むと、白い石壁に囲まれた建物があった。

 正面に大きな門。

 いかにも道場らしい感じだ。


 しかし、門は閉じている。


「なんだか静かだね」


「今日はお休みなのかな?

 でも、看板も掲げてないなんて」


 そう、この建物には看板がなかった。

 しかし、壁に汚れの少ない、長方形に釘が打たれた部分がある。

 これが看板のあった痕跡だろう。


 そして、門は開かなかった。

 かんぬきが降ろされているのかな。


 裏の勝手口に回ってみると


「おやまあ、カエデかい?」


 黒髪の、優しそうな顔立ちの女性が。

 例の民族衣装、着物を着ている。


「お母さん!」


 カエデのお母さんだった。

 そう言えば面影がある。


「里帰りかい?その人達は?」


「わたしの冒険の仲間なんだ。


 それより、どうして道場が閉まっているの?

 看板まで外しちゃうなんて」


 道場が休みだとしても、看板まで外すのは確かに大事の感じがする。


「ああ、看板なら玄関に置いてあるよ」


 駆けだしていくカエデ。

 彼女を追って、僕とウガガウも庭を玄関に回る。


 壁に立てかけられた看板があった。


「なんじゃ、ドタドタうるさい」


 木の床をゆっくりと歩く音がする。


「……あ」


「なんじゃ、カエデか」


 そこにいたのは、白い長髪の初老の男性だった。

 やはり例の民族衣装。


 細い目の、眼光の鋭さがとにかく印象的だ。


「お、お父さん」


 カエデが言うまでもなく、この人が道場の主に違いないと感じる。

 武術の達人の雰囲気を醸し出していた。


「冒険者になるなどと言いおって、出戻りか?」


「ううん。ちょっと帰って来ただけ。

 この二人が冒険者の仲間」


 いぶかしそうにこっちを見る、カエデのお父さん。


「お父さん、それより、なんで道場の看板が外してあるの?

 門も閉まってるし」


「道場をもう閉鎖するからじゃ」


「ええっ!」


 驚愕しているカエデ。


「お、お兄ちゃんは?

 お兄ちゃんは何て言ってるの?!」


 初耳だが、カエデにはお兄さんがいるようだ。


「あ奴が、アサガオがここを馬車の停留所に変えると決めたのじゃ」


「えええええーーーっ!」

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