第47話 解決、そして
僕のグラビティで動きを封じた後で、縄で拘束されたルキアさん。
「ネックレスがありました!」
騎士団が広間に入って来る。
タンザナイトのネックレスが、ルキアさんの部屋から、発見されたのだった。
「金目当ての犯行だったのか」
問い詰めるヘルマンさんに、ルキアさんは吹き出して答えた。
「お金目当て?
目当てはそのネックレスそのものよ」
だとしても殺人事件を起こすなんてまともじゃない。
「話してもらおう。
なぜヘックラーさんを殺したんだ?」
「わたしの父親は宝石商だった。
しかし、部下のヘックラーは店をだまして、乗っ取って、武器の店に変えてしまった。
それでたっぷりもうけたようね。
父は死の間際まで、先祖代々の店が、戦争の道具を作る店になった事を悔やんでいた。
しかもあいつは守り神として飾られていたタンザナイトまで売ろうとした。
あいつだけは絶対に許さない」
「僕に罪を着せようとしたんですか?」
魔法で開錠するよう促したのはルキアさんだ。
「あんたが魔法使いだと知ったからね」
それで、ヘックラーさんの部屋を開けるように言ったのか。
「僕の得意魔法がグラビティだっていつ知ったんです?」
「そんな事は知らないわ。
火を点けたりしないで殺せるのがグラビティだっただけ。
本来は魔法で目を見えなくする事で、容疑がかからないようにするつもりだった」
僕に罪を着せようとしたのはその場での思いつきだったようだ。
「上手くいったと思ったけど、余計な事をして、失敗してしまったようね」
いや、実際かなり上手くいっていて、あと少しで犯人にされていた。
ステータスウィンドウに関する知識がなければ危なかった。
今回ばっかりは考古学者の父に感謝するしかない。
今まで真面目に聞いてなかったけど、今度は古代文明の話をじっくり聞いてみたい。
「さあ、騎士団の詰所で詳しく話を聞かせてもらおう」
連行されるルキアさん。
もちろん目は見えるし、杖がなくてもきちんと歩ける。
その途中で、ルキアさんはウガガウと目が合った。
「うう……、オレ、オレ……」
「被り物のお嬢ちゃんか」
ウガガウはとっさにルキアさんに言葉がかけられなかった。
彼女は殺人事件の犯人で、その本性を見てしまった。
しかし、優しくステータスウィンドウの使い方を教えてくれ、クッキーをご馳走してくれた人でもある。
「あたしのステータスウィンドウは青紫。
あのタンザナイトの色。
幸せだった頃の思い出の色なんだ」
ルキアさんはそれだけ言うと、疲れたようなかすかな笑みを浮かべた。
そして、前を向いてきびきびと連行されて行った。
どちらが本性と言うものでもないのだろう。
復讐したかったのも、宝石のペンダントを取り戻したかったのも、幸せだった記憶があったからだ。
それが大切な記憶だったからこそ、ウガガウにもその気持ちは伝わったのだ。
ルキアさんが大広間を去った後、クレーヴェ公爵は言った。
「もう武器の需要は減ってきている。
ヘックラー氏は資金繰りに困って、宝石を売ろうとしていました。
これも戦争の起こした悲劇だったのかも知れませんな」
首を横に振って、公爵は、タンザナイトのネックレスを手に取った。
「これは彼女が罪を償って、戻ってきたら返しましょう」
みんなが部屋に帰って行く。
「わたしも帝都への旅を急がねばなりません。
陛下と共に、王国との和平交渉について会議します。
あなた方ともあちらで再会するかも知れない。
……またお会いしましょう」
公爵は一旦自分の領地に戻ってから、帝都へ向かうとの事だった。
僕らは別れ、それぞれに帝都を目指す。
別れる直前、クレーヴェ公爵がウガガウに目くばせをしたようにも見えた。
それから、半日遅れで出発した僕達は翌日、帝都ツェンタームに到着した。
栄えていて、人が多いのはセントレール王国の王都セントスと同じ。
しかし、農業が産業のメインである王国の都が、文化的な建造物や、宿泊施設が多い。
王城の他にも、セントレール大聖堂のような壮麗な建物が有名だ。
対して、商業メインのノルドステン帝国ではツェンタームに商業の拠点も集中している。
活発に行きかうのは働いている人たちだ。
と、言う様子が、かつて帝都に住んでいた僕の記憶の中の光景。
だったのだが、僕らが辿り着いた時の帝都は、その光景とも違った。
何と言うか騒然となっていた。
怒号すら行きかっていた。
もめ事や事故が起こっている風でもないのにちょっとしたパニック状態だった。
足を止めて茫然となっている人もいた。
馬車が通っているのにどかない人もいた。
苦労して、王城にたどり付いても城門の前で他の場所も足止めを食らっていた。
当然、僕達も立往生してしまう。
「おお、リンクス殿!」
そうこうしている内にクレーヴェ公爵の馬車も到着した。
「これは一体、何が起こっているんです?」
公爵は顔を真っ赤にしていた。
急いで駆け付けて来たようだ。
一瞬、ためらう様子が見られた。しかし、
「わたしも領地に戻ってから聞いたのです」
額を押さえて狼狽しているクレーヴェ公爵。
「東の大陸に赴任されていた、皇太子殿下が殺害されたのです……!」
事件に次ぐ事件。
しかも今度は国を揺るがす大事件だ。
魔王が倒され、平和に向かおうとしていた大陸に、何かが起きつつあった。




