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第46話 華麗なる逆転

 僕は騎士団に左右を囲まれ、護送される形で大広間に通された。

 殺人容疑の魔法使いなんだから、仕方がない。

 話を聞いてもらえるだけでもありがたい。

 扱いに文句を言うより、無実を証明したい。


 再び大広間。

 僕とカエデ、ウガガウ、エーメさん。


 ヘルマンさんとこの街の騎士団と、旅館の従業員。


 そして、僕達を除いた、宿泊客の三人。


 クレーヴェ公爵。

 ハンナさん。

 ルキアさん。


「犯人が分かったというなら教えてもらおう」


 ヘルマンさんが近づいて来る。

 憮然とした表情だった。

 僕の言い分を信じてなどいない。


「間違っていたらそのまま、投獄するぞ」


 脅しではないだろう。

 これは最後のチャンスだ。


「はい、犯人はこの中にいます。

 もちろん、僕ではありません」


 僕はその人の方を向いた。


「ルキアさん」


 僕は杖を持った、目の見えない若い女性の方を向いた。


「リンクスさん。いくら何でもその人は目が見えない」


「あなたが生まれつき目が見えないと言うのは事実ではありません」


「リンクス、さすがにそれは……」


 カエデも異論を唱える。


「ルキアさんが杖をついて、歩いてる様子は、みんな見ています」


「恐らく彼女は自分の目を見えなくしている。


 魔法によって」


 ルキアさんは落ち着いていた。

 怒るでも、取り乱すでもなかった。


「なぜそう思うのです?」


 一言そう言った。


「これです」


 僕は自分の目を指差した。


「何だ?

 お前の目が何だと言うんだ?!」


 ヘルマンさんがイライラして声を上げる。



「僕達が日常用いているステータスウィンドウですが、これは別名『網膜投影型ディスプレイ』と言うのです」


 僕の父親が言ってるだけだけど。


「網膜……、何だって?」


 もちろんみんな聞き覚えがない。

 でも問題ない。

 呼び方なんてどうでもいい。


「ステータスウィンドウは他人には見えません」


 ライブラリの魔法をつかわなければ、だけど。


「それはなぜか?

 瞳に映し込まれるだけだからです」


 これはみんな納得している。


「僕の祖母は晩年失明しました。

 その後は『ステータスウィンドウが見えない』と嘆いていました」


「おお、わたしの父親もそうでした」


「クレーヴェ公爵が手を叩いた。


「元軍人でしてな。退役後もトレーニングを欠かさなかった。

 鍛えた身体のステータスを見るのが楽しみでしたから、ショックを受けていたものです」


「ルキアさん。

 あなたはウガガウに、ステータスウィンドウの使い方を教えて下さったそうですね。


 ありがとうございます」


 ここまで言うと、みんなも僕が言いたい事が分かったようで、ルキアさんに注目していた。


「あり得ないんですよ。

 生まれつき目の見えないあなたが、ステータスウィンドウの使い方を知っている事は」


 やはりルキアさんは何も答えない。


「加えて言うなら、ウガガウに教えたのは、ステータスウィンドウの色を変える方法です。

 生まれつき目の見えない人が、色の事を理解するのは、極めて困難な事です」


「困難でも、できない事ではありません。

 それに……」


 ルキアさんは落ち着いたままだ。

 笑みを浮かべてすらいた。


「ステータスウィンドウの別名が『何とかディスプレイ 』だとか言うのも俗説に過ぎません。


 わたしが目が見える根拠にはならない」


 その通りなのだ。

 僕は父親の受け売りを述べただけだ。

 ステータスウィンドウと視力の関連性も、指摘される事はあるが、証明はされていない。


「公爵様。彼の発言は、とても有力な証拠とは言えません。

 話がこれだけならもう終わりにしましょう」


 ルキアさんは杖に手をかけ、立ち上がろうとする。

 しかし、


「わたしの祖父もそうだった……!」


 ヘルマンさんは愕然としていた。


「祖父は戦場で片目を失い、結果としてもう片方の目を酷使し過ぎて、晩年失明した。

 その時、確かに、ステータスウィンドウを失ったと言っていた」


 50年前から戦争をしている帝国では、戦いで傷を負った人は多いだろう。

 ヘルマンさんの祖父もまたそうだったようだ。


「部下の魔道士にライブラリ使いがいます。

 ルキアさん、あなたのステータスを確認させて頂きたい。


 第三者である彼の判断なら信じられる」


 ルキアさんに近づいて行くヘルマンさん。


「わ、わたしを疑っているのですか?」


 狼狽しているルキアさん。


「あなたがグラビティとロックの魔法を所持していない事が確認ができればいいのです。

 さあ、座って下さい」


 両手を広げてルキアさんを制止するヘルマンさん。


 そのまま、動かないルキアさん。

 杖を持つ手が震えている。


「お、お断りします」


「何ですって! 断るですと!

 これでは犯行を認めているようなものですよ!」


「ぐっ……!」


 ルキアさんは何も答えない。

 ただ歯ぎしりしていた。

 そして……


「お前がっ! お前があああああっ!」


 唐突な金切声が広間に響く。

 放り投げられた杖が床に落ちる音がする。


 目を見開いて僕に飛びかかって来るルキアさん。


「お前が大人しく犯人になっていればっ!」


 飛びかかると言っても彼女は武器を持っている訳ではなかった。


「グラビティーーーッ!」


 魔法で攻撃して来るルキアさん。

 その瞬間、僕は上からの強烈な圧力を受ける。


「ルキアさん、あなたはやはり魔法をっ!」


 ヘルマンさんが叫ぶ。

 そして、その場の全員が騒然となる。


「死ねーーーっ!」


 言葉だけではない。

 彼女はすでにこの魔法でヘックラーさんを殺している。


「身動きすらできまい!

 身動きすら……」


 ところが僕は魔法を使うために、両手を握りしめていた。


「な、なぜそんな涼しい顔をっ!?

 あたしの魔法を食らって!」


「僕はあなたが魔法で抵抗する展開を想定していた。

 だから先手を打っておいたんだ」


 僕は薄い魔法の幕に守られていた。

 マジックバリアルファウェーブの魔法だった。


 魔法に対する防御壁を作る、マジックバリアの魔法。

 そして、アルファ波を増加させ、リラックス効果を得る、アルファウェーブの魔法を組み合わせた、強力なしりとり魔法だ。


 奇襲を受けたにしては、リラックスした涼しい顔をしていたはずだ。


 僕を囲む騎士団にも了解を得ている。

 魔法を使う犯人が抵抗してきたら離れるようにとも。


 そして、


「ライトニングラビティー!」


「ギャッ!」


 地面に這いつくばるルキアさん。


「安心して下さい。

 そんなに痛くはないはずです。


 でも身動きは取れないでしょう」


「ぐうぅ……威力を調節しているというのか……」


「ええ」


 僕はグラビティの魔法を継続したまま、言った。


「僕の得意魔法ですからね!」

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