第44話 糸口を探して
またもや見張り付きの部屋に戻された僕。
いよいよ本格的に容疑者扱いだ。
前日に被害者と口論になった事と、魔法使いが僕しかいない事が致命的だった。
部屋の前には、騎士団が厳しく見張りに付いている。
盗まれた宝石を発見したら、監獄に連行するという。
宝石のゆくえで、僕の犯行の物的な証拠がつかめる考えのようだ。
盗んでいないのだから、そんな事はあり得ない。
しかし、罪をなすり付けようと思ったら、宝石を僕の部屋に忍ばせればいい。
グラビティの魔法での殺害だって、僕の犯行に見せかけるためだったのかも知れない。
そう考えると気が気でなかった。
今にもでっちあげられた証拠が発見されているかも知れない。
そんな事を考えている内に部屋の外が騒がしくなって来た。
宝石が見つかったのではないかとドキドキしていたが、ドアを開けて、現れたのはカエデとウガガウとエーメさんだった。
「監視付きで、会話をする機会を得ました」
ドアは開いたままで、騎士の人が部屋の外でのぞいている。
「エーメさんが交渉してくれたんですよ」
と、いうカエデはちょっと涙目だった。
「こんなのひどいです。
リンクスが犯人の訳ないのに」
「まあでも、怪しく見えるのは仕方がないよ」
被害者ともめごとなって、魔法で鍵の開け閉めができて、おまけに殺害方法のグラビティは僕の得意技なのだ。
「リンクス殿、先に一つ言っておきます」
エーメさんは眼鏡をかけ直して言った。
「わたしは陛下の命令を果たさなければなりません。
明日にはここを去ります」
「リ、リンクスを置いて行くんですか!?」
カエデは抗議したが、
「エーメさんには大事な仕事がある。
仕方がないよ」
僕はそれを制止した。
「エーメさん。迷惑をかけて申し訳ありません」
「ですが、あなたを見捨てるという意味ではありません。
王国に戻ってから、陛下にあなたの救助を提案します。
仮に有罪になったとしても、解放してもらえるかも知れません」
強引な方法だが、確かに解放されるかも知れない。
「そんな! 有罪になってもなんて!
リンクスは犯人なんかじゃないのに!」
反論するカエデ。
「わたしもリンクス殿は犯人ではないと考えています。
しかし、この状況を覆して無罪を証明するのは困難です」
エーメさんもできる限りの最適解を探してくれているんだろう。
しかし、
「僕はその方法は選びたくありません」
僕は断言した。
「エーメさんには感謝しています。
でも、僕が犯人でないなら殺人犯が他にいるんです。
犯人を野放しにしたくありません」
人が亡くなって、宝石が奪われている。
これは僕が有罪かどうかの問題じゃない。
「しかしどうやって犯人を見つけるのです?」
ここまで言っておいて何だが、僕が見つけに行く訳にはいかない。
「カエデ、ウガガウ。
他の宿泊客の人と話をしてきてもらえないかな?」
「え……? わたし達が?」
二人はきょとんとしている。
「犯人は魔法が使える事を隠している。
その痕跡を見つけて欲しいんだ」
「そんな事……、わたし達にできるかな」
戸惑うカエデ。
と、いうより動揺している。
「わずかな違和感でも見つけてくれれば、後は僕が何とかする。
犯人も全てを思い通りにできた訳がない。
糸口は必ずあるはずなんだ。
それを探して欲しい。」
内気な子だし、ちょっと厳しいかな、と思ったが。
「分かりました。わたしも頑張ります。
わたしも犯人を見つけたいです。
頑張って、糸口を探します」
なけなしの勇気を見せてくれた。
「大丈夫。
こんな時はスクイーズ数を数えれば落ち着くって聞いた事があります。
……でも、スクイーズ数って何だっけ?」
とにかく何とか頑張って欲しい。
「オレも頑張って、みんなぶっとばすぞ」
そう言うとウガガウは拳を握った。
「ウガちゃん、ぶっとばしちゃダメ!」
……とにかく何とか頑張って欲しい。




