第24話 一悶着(前編)
「あっはっは!
ご苦労様でした、皆さん!」
港町マイリスに戻ると受付のイネスさんが笑顔で迎えてくれた。
「王命を無事果たされて、ギルドとしても鼻が高いですな!
あっはっはっはっは!」
イネスさんはいつも元気だ。
「そうそう。
リンクス殿とカエデ殿はランクアップもされてますぞ」
それはすでに確認済だった。
「あと、この子の冒険者登録をお願いするわ」
ルナテラスさんはウガガウをイネスさんに紹介した。
「むむむ?」
カウンターから身を乗り出して、眼鏡に手を当て確認するイネスさん。
ウガガウはカウンターに密着すると被っている毛皮の耳くらいしか見えない。
「ウガガウだぞ」
身を乗り出す事でやっと目を合わせる事ができた。
「バーサーカーのスキルを持っているわ」
ルナテラスさんはウガガウの事をイネスさんに紹介した。
「狼に育てられたバーサーカーですか。ふむふむ」
「登録に問題なさそう?」
社会常識に関して問題は大いにありそうだが、冒険者としての適性をどこまで評価してくれるか。
「頑張ってもらえれば問題ありませんぞ!」
「オレ、頑張るぞ!」
割とあっさり決まった。
「あっはっはっは! 応援してますぞ!
では、リンクス殿のパーティに登録完了しました」
えっ?
「僕のパーティに?」
「リンクス殿の魔法で、狂戦士化を制御できるらしいではないですか!
任せましたぞ!
あっはっはっはっは!」
「そんな勝手に……!」
「嫌か?」
ウガガウが僕の顔をじっとのぞき込む。
「嫌ではないけど」
高い戦闘能力を持っているのは確かだし、断る事もない。
こうしてウガガウも僕のパーティのメンバーになった。
その後、ギルドに併設された食堂で食事。
ウガガウにお酒を与えないように注意しようと思っていたが、本人はミルクを欲しがった。
僕とカエデは水で十分だった。
長旅の後なので、飲み物よりしっかり食べたい。
ルナテラスさんはワインを注文。
ほんのり赤くなった顔も美しい。
よく見ると周りの冒険者の男達も、ルナテラスさんに目を奪われている。
この人と食事をしているだけでちょっと誇らしい。
ランクも上がったし、ちょっと気分のいい、そんな昼食時だったが、遠くから怒声が聞こえてきた。
「リーダーの俺の言う事に従え!」
「そういうてめえの、偉そうな態度が気に入らねえんだよ!」
一人は聞き覚えのある声だなと思ったら、白銀の鎧を付けた、長い金髪を後ろで束ねた騎士だった。
僕のかつてのパーティのリーダー、ベルナールだ。
同じテーブルに屈強な戦士、ジョゼフとシスター、ドニーズの姿も見える。
三人とも僕と同じ、シャオンス村の出身だ。
口論の相手は魔法使いの青年だった。
恐らく僕の後にメンバーに加えた人物なんだろう。
その人物ともめていたようだった。
僕は仲裁にはいるべきか、考えた。
もう僕はベルナール達のパーティーメンバーではない。
カエデとウガガウとパーティーを組んでもいる。
暴力沙汰でもないなら、干渉すべきではないのだ。
「ケンカはやめなよ」
しかし、その時の僕は出しゃばってしまった。
しりとり魔法を習得して、ランクもDに上がって、ベルナール達と並んだ事で、調子に乗っていたのかも知れない。
ケンカをしている二人の腕をつかんで、そう言ってしまった。
僕はこの時の決断を、長く後悔する事になる。




