第120話 僕達の冒険は続く
僕はルーンロッドを掲げ、叫んだ。
「ヴァルプルギ……!」
さらにエクスカリバーを掲げ、叫んだ。
「スローンラウンドナイツ!」
英霊騎士団と偉大なる魔女達が魔王アインの巨体に攻撃をしかける。
強力な光の魔法が無数に放たれ、さらに剣や槍による連続攻撃が続いた。
暴走状態のアインはその攻撃をものともせず、前進を続ける。
しかし、英霊騎士団と偉大なる魔女達の猛攻は繰り返される。
アインの赤い稲妻による反撃が命中して、彼らが消滅したように見えても、すぐにまた現れ攻撃が再開される。
しかも、大魔法が終了しても、
「ヴァルプルギスローンラウンドナイツ!」
すぐさま、英霊達は再召喚され、攻撃が再開される。
大魔法の絶え間ない連続攻撃を受け、やがて、巨体は背中倒しになっていく。
そして、地響きと共に倒れ、アインは沈黙した。
赤い煙を発して、縮んで行くアイン。
最後には人間サイズの悪魔の亡骸が残った。
「やったのか?」
「リンクス!」
カエデとウガガウが近寄って来る。
「久しぶりだね。二人とも」
振り返る僕。
「いろいろごめん。
急にいなくなっちゃって。連絡もしなくって」
「リンクス……」
カエデはただ穏やかな笑顔をたたえていた。
「そうするしかなかったんでしょ」
凄い剣幕で怒られる可能性も想定していたが、そうはならなかった。
髪型を降ろして、落ち着いた雰囲気になったが、僕のよく知るカエデだ。
「ベルナールは、わたしとカエデにだけは、本当の事を話してくれたんだ」
そしてウガガウだが、こちらはさすがにすっかり見違えている。
子供の成長は早い、なんて一般論を超えていた。
何しろ皇帝になっている。
「そして、母上に頼んで、あんたの安否を確認した」
この母上は銀狼エカテリーナの事だ。
もう「母ちゃん」とは言わないようだ。
「そこからいろいろ調べた。
魔王ウェスタの元にいる事も、あんたが命を狙われていた事も把握した」
「そうだったんだ」
エカテリーナさんを通じて、魔界の情報を得ていたようだ。
「いろいろ調べていたんだね」
「そりゃあそうだ。あんたはわたしの家族だ。
……そこでだ、もう戻って来ないか、リンクス」
真剣なまなざし。
カエデにも注目されている事を感じる。
「わたしはあんたとカエデを守るために皇帝になったんだ。
わたしの元に来れば、光明教だろうと貴族連中だろうと手出しはさせない。
そうしろ」
「立派になったね、ウガガウ」
そこまで考えてくれていたなんて。
「ああ、何も心配いらないぞ」
「でもまだ駄目なんだ」
僕はかぶりを振った。
「どうしてだ?」
ウガガウの気持ちはもちろん嬉しい。
「でもまだやる事がある。
今日もアインが大魔法でないと倒せないからこの大陸に来ただけなんだ」
「アインは倒しただろう。他に何があるんだ」
語気を強めるウガガウ。カエデも心配そうに見ている。
「実はこの8年も大忙しだった。
魔界にもナノマシン兵器の設計図は持ち込まれていた。
それがアークエンジェル、ラーブンの手に渡っていたんだ」
マイコンは持ち運びに適していない。
しかし、父は僕にマイコンの存在を示唆した時、「紙媒体とステータスウィンドウの間に、一つか二つのイノベーションがあったはず」と言った。
もう一つのイノベーション、「モバイルホーン」はマイコンを移動しやすくしたものだ。
それにもナノマシン兵器の設計図は入っていた。
イスカリオンはそれを魔界に運び込ませていたのだ。
「ラーブンとアインとの戦いに僕も参加せざるを得なかった。
魔王ウェスタとその配下と一緒に戦った。
何とかラーブンを倒して、設計図は破壊した」
正しくはモバイルホーンから、設計図のデータを消したのだが、その説明は難しいだろう。
「だけど、モバイルホーンの情報はそれだけじゃなかった。
国際連邦センター以外にも古代遺跡は残っていて、ナノマシン兵器の設計図がまだあるらしい事が分かった」
僕は手の平大の薄い板を取り出した。
側面の窪みを押すと、それは光を放った。
これがモバイルホーンだ。
「その後アインが魔王を名乗り、その配下と戦った。
堕天の魔王残党の強敵揃いだった。
その戦いが今までかかった。
これから人間界の古代遺跡を巡って、全てのナノマシン兵器の設計図を破壊しないと」
本当はアインも、可能なら魔界で仕留めたかった。
まだ再会する予定じゃなかった。
「8年間の事は分かった」
ウガガウはそう言ったが、納得した感じではなかった。
「じゃあわたしも行くよ」
カエデは言った。
「発掘は困難だし、危険な冒険だ。
巻き込めないよ」
魔王ティフォンの城のように誰かが使用している可能性もある。
魔物が住み着いているかも知れない。
「それが終わったら戻って来るよ」
すると、予想外にカエデの表情は曇った。
「リンクスはわたしより、ウェスタさん方が好きなんだ!」
カエデは顔を抑えて泣き始める。
「え!?」
いきなり何の話だ?
「いやいや、ウェスタとはそんな仲じゃない!
彼女はもう人間と恋愛なんかしない」
「胸も大きいし」
「だから違うって!」
カエデは泣き止まない。
「リンクス。
カエデを泣かせたな!」
ウガガウが近づいてくる。
その瞳は赤く輝き始めている!
鎧で武装した姿での激昂は、少女時代とは比べ物にならない威圧感だ。
「カエデをこれ以上泣かせるならぶん殴る」
「いや、ハルバードで殴るのはやめてよ!」
「あんたの覚悟が足らないからだ」
ウガガウに胸ぐらをつかまれる。
もうすっかり身長も高くて、僕の足は浮き上がった。
「カエデは今までわたしのそばにいてくれた。
本当はリンクスを探しに行きたくてしょうがなかったのに。
皇帝になる事を決めたわたしを、ずっと支えてくれた。
あんたは8年待たせてまだ足りないと言うのか」
それは確かにその通りだと思う。
待たせて当然なんて思ってない。
「だけど本当に危険なんだ。
巻き込みたくない」
「わたし、一つだけ後悔している事があるの」
目頭を抑えながら、カエデがつぶやく。
「あの時、冒険じゃなくて、気ままな旅をしようって、言われた時…………。
あなたと一緒なら…………、どんな旅でも楽しいよって、言えばよかった……」
涙がぽろぽろ落ちている。
「そう伝えていたら、あなたはもっと早く戻って来てくれたかなって……」
「そんな事を……」
僕がカエデと連絡を取る事が、絶対に不可能だったのかというと、そうとも言い切れない。
しかし、もう自分との関わりを断った方が彼女にとって幸せなのではないか、とも思ってしまっていた。
でもそうだな。
僕に覚悟が足りなかっただけなのかも知れない。
「今でもあなたを愛してます。一緒に来て下さい」
僕はカエデに手を差し出した。
「……はい」
袖で涙を拭いてから、僕の手を取るカエデ。
それを見たウガガウが指を口に含み、口笛を吹くと、空から飛竜が現れた。
よく知る飛竜より一回り小さかった。
飛竜が着地すると、カエデは駆け寄ってその頭を撫でている。
「ギャオスの子、ギャラビだ。
カエデにもよくなついてる。
連れて行け」
そうか。ギャオスにも、もう子供がいるんだな。
ギャラビに乗り込む僕とカエデ。
「じゃあ行くね。
みんなにもよろしく」
「知るか。わたしは忙しいんだ」
ウガガウはそっぽを向くが、その声は震えていた。
その時、カエデがギャラビから降りた。そして、
「ウガちゃん、身体に気を付けてね」
ウガガウの前に回ってハグをした。
「カエデ!」
ウガガウもカエデを抱きしめる。
その時の、カエデの笑顔は、今までで一番、美しく見えた。
僕も二人を抱きしめる。
こんな事、昔もあったなあ。
「必ずまた帰って来るよ」
そう。今度こそ他のみんなにも会いに行かないと。
「じゃあ行こうか、カエデ」
「うん!」
大空に向かって旅立つ、僕達の冒険は続く。
しりとりのように。
なんてね。
<終わり>




