第111話 少女達の戦場
僕はワイバーン、ギャオスに乗って、黒い竜となって天に昇って行くイスカリオンを追う事にした。
一方、僕がギャオスで飛び去るのを見た、アークエンジェル、エーメはそれを追いかけようとした。
しかし、背後からの気配を感じ振り返る。
そこには剛剣で斬りかかるカエデがいた。
「リンクスの邪魔はさせないって言ってるでしょ!」
「仕方がない。
君を倒してから追いかけるとしよう」
「それもさせない。
わたしはリンクスの帰りを待たなきゃいけないもの」
それぞれ、ブロードソードと剛剣サダミツを構える。
「わたしは負けない」
カエデはここまでの打ち合いに手応えを感じていた。
剛剣はエーメのブロードソードにひけを取っていない。
父と兄との修行の成果だ。
ならばエーメにリンクスを追う事はさせない。
ここで必ず仕留める。
剛剣を中段に構えるカエデ。
攻撃が通じるなら、迅速に決着を付けたいと思った。
リンクスを追いかける方法でもあればいいが……
「わたしを手早く倒せると思っているのかね?」
その考えを察したのかエーメは話しかけてきた。
「それは先の事を考え過ぎだ」
同じく中段の構えを取るエーメ。
「そうね。ならば、あなたを倒す事に集中する!」
◇◆◇
一方、ウガガウはアークデーモン、リベンと戦っていた。
「バーサーカーの小娘よ」
ウガガウは、低い姿勢の構えになった。
小さな身体で、重量のあるハルバードを軽々構える。
「武器を変えたのだな、面白い」
リベンは両腕でファイティングポーズを取り、笑った。
「今度は楽しませてくれそうではないか」
「別に楽しくないぞ」
再び激突する両者。
互角の打ち合いが繰り返される。
ただし、その互角さはウガガウにとって、一つの問題があった。
「お前、なんでパンチで武器と戦えるんだ?」
そう。ウガガウはハルバードだが、リベンは素手なのだ。
リベンは拳でハルバードと殴り合っている。
「互角と思うておるのか? そうではない!」
リベンはウガガウの斧刃の振り下ろしの一撃に、拳でアッパーを繰り出した。
「うわあっ!」
ウガガウはハルバードもろともぶっ飛ばされる。
「互角などではない。我の肉体はなまくらな刃などに負けん!」
勝利を宣言するかのように、リベンは片腕を振り上げた。
皇帝から譲り受けたハルバードは業物だ。
なまくらなどではない。
「しかし、お主ほどのバーサーカーはそうおらぬ。
お主には素質がある。
嵐のごとき暴威を、初めて見た時からそう思っておった」
「何言ってんだ?」
よろよろ立ち上がるウガガウ。
「お主のその力は、赤ん坊の時に宿した怒りの精霊によるもの」
リベンは人間がバーサーカーになる仕組みを知っているようだった。
「しかし、しょせんは人間界をさ迷う弱い精霊。
魔界の怒りの精霊とは比べものにならん」
リベンが片手を上げ、手のひらを掲げると、赤い炎が現れる。
「我が魔界の怒りの精霊を与えてしんぜよう。
さすればお主は今より遥かに強くなれる。」
「ウーッ!
ウーッ!」
ウガガウは気持ちが高ぶるのを感じていた。
自分の中の何かがその炎と共鳴している。
「さあ手をのばし、力を手に入れるのだ」
それはまさに悪魔の誘惑だった。
◇◆◇
カエデは剛剣を振りかぶってしかけた。
その重い一撃ならばエーメと互角に戦える、はずだった。
しかし、カエデの一撃は難なくいなされた。
それは力で劣ったというより、動きを見切られていた。
「今まではその新しい武器を警戒して様子を見ていたに過ぎない。
しかし、今はベースの剣技は以前の武器と共通だと分かった」
エーメはしなやかで優雅な動作でカエデの攻撃をかわし、悠々と眼鏡の位置を直した。
「わたしは前回の戦いで、君の剣術を読んでいる。
威力が上がっただけでわたしに勝てると思わない事だ」
歪む事のない端正な顔立ち。
剛剣との打ち合いも、さほど気にしていない。
「変化の魔法によって、わたしはイスカリオン様に人間界への潜入を任された。
そのわたしの最大の武器は観察力にある。
君はわたしには勝てない」
力で追いついたと思えば、技が見切られていた。
カエデは驚愕に目を見開いていた。
「剛剣でも敵わないなんて、本当に厄介。
さすがは天使様ね」
「一度は旅の仲間だったよしみ。
ここで退くなら見逃そう」
「この大陸に逃げ場なんかあるの?」
「確かにそうだったな」
ナノマシン兵器で大陸が狙われている。
目の前の戦いで温情をかけられても、何の意味もない。
「それに、わたしにはリンクスの補助魔法がかかってる。
だったらまだ戦える」
エーメは何の話をしているのか分からなかった。
その魔法の補助のある状態で勝てないというのに。
構えを解くカエデ。
「わたしにはまだできる事がある」
「減らず口を……」
構えを解いて精神集中しているように見えたが、その意図は分からなかった。
「以前のような、心の弱さから来る甘えじゃない。
一緒に戦ってくれるよね。
モミジ……!」
そう言って、下を向くカエデ。一瞬、動きが止まる。
そして、顔を上げたその時、
「ここ一番の大舞台で、見せ場を与えてくれるたあ」
カエデの雰囲気が変わる。
口調が明らかに違っていた。
表情も不敵に笑っている。
「カエデもなかなか……」
顎に手を当て、ふんぞり返る。
「粋だねえ」




