第104話 剛剣 サダムネ
僕は大魔法の特訓のため、試練の山へ行く事になった。
しかし、今回はそれより、カエデの話をしようと思う。
◇◆◇
天使達のブロードソードの力強い剣技に相次いで圧倒されたカエデ。
鋭さと素早さが売りのポントーにとっては相手が悪いのか。
しかし、カエデはそう考えてはいなかった。
僕の旅立った翌日の早朝、カエデも旅支度をしていた。
「行ってくるね、ウガちゃん」
旅館で同室のウガガウに呼びかける。
「まだ早いぞ」
ベッドの上の寝ぼけ眼のウガガウ。
「何日か、お出かけしてくるね。後の事はミリーさんに任せてあるから」
ウガガウが帝国に滞在していた時、世話をしてくれた侍女がミリーだ。
彼女も皇帝と共にセントレール王国に来ていた。
ウガガウとの相性もいい。
彼女に任せておけば安心だ。
しかし結局この日、カエデが旅に出る事はなかった。
なぜなら、
「おお、カエデ。ちょうどよかったぞ!」
「カエデちゃん、久しぶり」
旅に出ようとしたカエデが、城門の前で二人の人物に出会ったからだった。
「お父さん! それにお兄ちゃん!」
そこに現れたのは、カエデと同じ民族衣装を羽織った二人の男性。
カエデのお父さん、スイセンさんとお兄さんのアサガオさんだった。
「ちょうど会いに行こうと思ってたの!
どうして?」
カエデは僕とウガガウと一緒に一度帰郷した。
しかし、その後は一度も帰っていない。
道場破りをして破れたというのもあって、気まずかったのだ。
それでも今回ばかりは、カエデは故郷に戻るつもりだった。
「リンクス殿から、お前にポントー術の稽古をつけてやって欲しい、と連絡があってな」
まさにカエデも稽古をつけてもらうつもりだった。
許されなければ、土下座でも何でもするつもりだった。
「リンクス……」
その考えを察して、先に両親に連絡を入れていたのだった。
「でも道場破りをしようとしたわたしに稽古をしてくれるの?」
カエデはお兄さんのアサガオさんを奮い立たせるため、道場破りを敢行した。
その際、暴力も振るっている。
「何を七面倒くさい事を言っておる?
お前が道場の未来を案じておった事くらい分かっているわい」
「カエデちゃんのおかげで、僕も覚悟ができたんだ。
協力は惜しまないよ」
道場破りは自分で決めた事だが、ずっと心に引っかかっていた。
二人がこのように言ってくれた事が、涙が出そうなくらい嬉しい。
早速街の外で稽古を始める三人。
「お前が得意とするのは、一撃必殺のポントー術じゃが、それがポントー術の全てではない。
お前にはこれより、力のポントー術を教える。
しかし、授けるのは技だけではない」
「カエデちゃん、これを受け取るんだ」
カエデのお兄さん、アサガオさんは腰に差したポントーの一本をカエデに渡した。
「こ、これは!
剛剣サダミツ……!」
手渡されたのは、カエデが腰に差したポントーより長く、幅も広いものだった。
「これよりお前には剛剣のポントー術を授ける」
「代々受け継がれて来た剛剣をわたしに?!」
カエデも力のポントー術を教わるつもりではいたが、剛剣サダミツを授けられるとは思っていなかった。
「我らがサマラ流は妖魔退治のポントー術。
魔王と戦うお前が持つのは当然の事じゃ」
「リンクス君からの手紙では、魔王との決戦は8日後らしいね」
そう、残された時間は少ない。
それがカエデにとっての悩みの理由だった。
「大丈夫。剛剣と言っても今までの応用だ。
カエデちゃんなら使いこなせるよ」
手の中の剛剣サダミツはずっしりと重い。
でも、やるしかない。これからの戦いを切り抜けるには。
「稽古、よろしくお願いします」
一礼し、剛剣を構えるカエデ。
こうして親子三人の稽古が始まったのだった。
◇◆◇
その日、王都セントスに続々と戦士達が集まっていた。
翌日の、堕天の魔王との決戦のためだ。
冒険者達も、王国の聖騎士団、帝国の黒騎士団も、身分や国の違いを乗り越え、大陸の命運を賭けて戦うのだ。
その中にぼろぼろのローブを纏った、若いブラウン色の髪の魔法使いがいた。
魔法の杖を持たない魔法使い。
それが僕だった。
城門が見えて来ると、そこには僕を待つ三人の姿があった。
一人はサムライの少女。
民族衣装の羽織ものとパンツルック、長い黒髪のポニーテールだ。
腰に鞘に入った剣を刺している。
カエデだった。
彼女は、背中にも剣を下げていた。
ベルトをたすき掛けにして、鞘を付けている。
それは腰の剣よりも明らかに大きなものだった。
「見違えたね」
武器が増えただけでなく、自信に満ちた表情をしている。
きっと壁を乗り越える事ができたのだろう。
「リンクスが手を回しておいてくれたからだよ」
はにかむカエデ。
ごたごたのあったスイレンさん達とも上手くいったようだ。
「おれも父ちゃんと特訓したぞ」
バーサーカー少女ウガガウはいつも通り、狼の皮を被っている。
ただし、背負っている武器が斧と槍の性質を持つハルバードになっていた。
彼女も皇帝陛下との特訓で、成長を遂げた事だろう。
そして、
「約束通り来たぞ」
金髪を後ろで縛った黒い鎧の騎士。
たくましい体格をしている。
帝国で黒騎士団に入ったベルナールだった。
帝都までバルティナ村の子供達とマヤさんを、送り届けてからの合流だ。
「よく来てくれたね、ベルナール」
「世界がヤバいってんなら仕方ないだろう」
憮然として答えるベルナール。
彼を誘ったのは僕だ。
そしてベルナールは、過去のわだかまりがなくなった訳ではないが、承諾してくれたのだった。
「しかし、それにしてもお前、なんでそんなにボロボロなんだ?」
確かに僕のローブは所々破れてしまっていた。
「制御の難しい魔法なんだ。
何度か死ぬかと思った」
「そ、そうか」
「でもちゃんと使いこなせるようになったよ」
両手を握って答える。
大魔法の二連撃、「大しりとり魔法」は確かにものにした。
「みんな、行こう!」
みんなで力を合わせて、必ず大陸を守って見せる。
新たな力を得た僕達は王城へ向かったのだった。




