第103話 設計図の場所は?
バルティナ村で経典ルーンラダーを手に入れた僕達は、セントレール王国王都セントスへ。
ベルナールは帝都ツェンタームへ。
マヤさんと一緒に子供達を送ってから合流する約束だ。
王城にはすでに勇者エレインさん一行が、試練の神殿から戻って来ていた。
「リンクス、受け取れ」
エレインさんから古びた盃を手渡される。
お椀の部分が、両手を広げたくらいはある大きな盃だ。
それがエクスカリスだった。
エクスカリスを受け取った僕は、瞬きをしてステータスウィンドウの修得魔法一覧を確認。
スローンラウンドナイツの効果説明を表示した。
「※聖杯エクスカリスが必要」の文章の後ろに、レ点が追加されている。
これで僕は二つの大魔法が使えるようになったはずだ。
「手に入れる時、祭具に拒まれたりはしませんでしたか?」
僕は自分がルーンラダーを手に入れようとした時に、障壁のようなものが現れた事を思い出した。
祟りがあるなんて話もあったけど。
「ああ、最初は拒まれた。
だが、わたしを勇者に選んだなら、わたしが信じて託す人間を信じろと言ったんだ」
さすがはエレインさん。
堂々とした態度で聖杯エクスカリスを手に入れたようだ。
その後、僕達は王様に謁見した。
「ルーンラダーを手に入れたか。
帝国でも戦闘になったそうだな。
ご苦労であった」
若き国王、ラウール3世にねぎらいの言葉をかけられる。
「さて大魔法を手に入れたのはいいが、ぶっつけ本番で使う訳にもいかんだろう」
確かにそうだ。
しかし、試し打ちはしていない。
高威力、広範囲とうたわれているし、そう簡単に街中で使う事はできない。
それに霊魂を呼び出す魔法を、乱発して許されるものか分からない。
それこそ祟りがあるかも知れない。
「試練の山脈のふもとに、かつてスローンラウンドナイツの特訓に使われた訓練場がある。
これから10日間、大陸中から軍勢を集める間、おまえには大魔法の特訓を行って欲しい」
500年前の、堕天の魔王との戦いで、使われた訓練場という事か。
過去に特訓が行われたのなら、練習で呼び出したら祟られる、なんて事はなさそうだ。
しかし、今の国王の話には、他にも気になる部分があった。
「10日間って、何か根拠があるんですか?」
軍勢も集めるようだし、日程が決定されたような印象を受ける。
「うむ……、その事なんだがな」
難しい顔になり、言いよどむ国王。
「マリスの『神算鬼謀』の見せる未来が変わったのだ。
よりはっきりした、といってもいい」
マリスさんのユニークスキル、神算鬼謀は未来を見通す。
そして、この能力は状況が変われば、見える未来も変わる。
「ナノマシン兵器が使用されるのは、今日から20日後である事が判明したのだ」
「20日! そうですか……」
「期限に対して余裕をもって、10日に国際連邦センターに攻勢をかける予定だ。
それまでに集められるだけの軍勢を集め、作戦を立てる。
お前はとにかく、大魔法の準備を万全する事を考えるのだ」
イスカリオンに通用する大魔法は、僕にしか使えない。
確かに大魔法を万全に使いこなせるようになる事が重要だ。
こうして僕は大魔法の特訓のため、試練の山脈に向かう事となった。
さて、旅の準備を整えた僕は、特訓の事をカエデとウガガウに告げてから出る事にした。
ウガガウは、王城の訓練場にいるらしかった。
行ってみると皇帝陛下も一緒にいた。
「リンクス!
父ちゃんが昔使っていた武器を教わってるぞ!」
ウガガウが握っている武器は、いつもの大斧ではなかった。
長い柄なのは似ているが、斧の刃だけでなく、先端が槍になっている。
「ハルバードじゃ。
テレジアは筋がいいからすぐに使いこなす事ができよう」
大斧と親和性のある武器だから。伝授しているのだろう。
娘とスキンシップが取りたいのでもあるのかも。
その邪魔をする事もない。
行き先だけ伝えてさっさと立ち去ろうとした。
しかし、
「大魔法の特訓か。
リンクス=リーグル、大陸の命運はお主にかかっておる。
しっかり頼むぞ」
皇帝陛下から声をかけられたのは、これが初めてかも知れなかった。
名前も憶えられていたのは、光栄と言ってもいい。
娘を連れ回している男として、覚えているだけかも知れないけど。
そして、カエデは宿の部屋にいた。
「行って来るね、カエデ」
「うん……」
うつむいたカエデは、小さな声で言った。
明らかに元気がない。
しかし、彼女が落ち込んでいる理由には、僕は想像が付いている。
天使相手の戦いで、彼女のポントー術は、イマイチ効果が薄かった。
鋭さと素早さが売りのポントーにだって、苦手な相手はある。
防御力の高い相手や、硬い武器や防具で受け止められる場合だ。
そういう敵には僕の魔法や、パワーと破壊力が売りのウガガウで相手をすればいい、僕はそう言った。
実際、大海獣カリュブディスや天使ヘルは、僕と連携した魔封剣で倒している。
しかし、カエデは、
「わたしはまだポントー術を使いこなしていない」
と言った。
僕はその様子から、カエデはただ落ち込んでいるのではない、と感じた。
カエデはおとなしいように見えて、決断力と実行力がある。
彼女の中ではすでに答えのある問題なのだろう。
それなら僕は自分のするべき事をするだけだ。
一つだけ手は打って、僕は出発した。
◇◆◇
旧魔王ティフォンの城、国際連邦センター。
その一室にグラム=モンテコックリはいた。
「似たような部屋ばかりで退屈よ」
白い壁に長い机がいくつも置かれた部屋。
この建物には同じ構造の部屋が無数にある。
あまりにも無機質な感じがする。
机の下にあった椅子を引き出し、それに座るグラム。
この椅子も鉄製の丈夫なものではあったが、骨組みだけで面白味がない。
グラムは古代人は美的センスに乏しいと感じた。
退屈なので、机の上の箱型の物体を撫でつけるグラム。
「それは貴重なものだから、丁重に扱うのだ」
その時、美しい青年が部屋に入って来た。
背は高く、髪は茶色で、中性的な顔立ちだ。
紫色の衣帯の掛かった、白い長衣を纏っている。
そして、頭には山羊の様な角、堕天の魔王、イスカリオンだ。
普段は背に白い優美な六枚羽は持っているが、今は見受けられない。
狭い施設内では広げる訳にいかないのだろう。
「これはこれは、イスカリオン様!」
慌てて物体から手を離すグラム。
「わたしがここに来たのは、その装置を使用するためだ」
グラムは箱型の物体から手を離した。
「ふむ、そうでしたか」
顎鬚をいじりながら答えたグラムだが、その表情は不満気だった。
「それより早くわたしに、ナノマシン兵器の設計図を与えて頂きたいのですがね」
グラムは国際連邦センターに辿り着いて、すぐさまナノマシン兵器を生産すると思っていた。
しかしイスカリオンが、準備が整うまで待て、と言ったきり数日が経過していた。
その間にセントレール王国に戦力が集結している話を聞いている。
さらには、ノルド山脈では天使が率いる部隊が敗北したらしい。
「リソグラフィーを入手したのはナノマシン兵器を作るためなのでしょう?」
グラムはさすがに焦りを感じざるを得なかった。
「そもそも設計図はどこにあるのです?」
金庫内の設計図は焼却されていた。
それでも問題はないとイスカリオンは言ったが、ならばなぜ生産を開始しないのか。
「設計図はその装置の中だ」
イスカリオンが指差したのはグラムの目の前の物体だった。
「それはマイコンだ」
「マ、マイコン……?」
聞いた事のない単語だった。
「この内部に設計図があるのですかな?」
グラムはいぶかしんで装置をのぞき込む。
「そうではない」
イスカリオンは首を振った。
「それ一つで膨大な情報を保存できるが、電力を送り続けなければならない。
しかも、電力の量が適正でなければ、装置は壊れてしまう。
その調整に時間がかかった」
そう言うとイスカリオンは人差し指をマイコンと呼んだ物体に向けた。
「ライトニング」
イスカリオンから発せられたのは細く、小さな電気だった。
電気が装置に向かっていく。
すると装置の一面の、ガラスのような部分が明るくなり、そこに文字や画像が浮かび上がる。
「おお、これは?!」
驚愕するグラムに構わず、イスカリオンは装置のから伸びたコードの先の、手のひら大の卵型の物体を動かす。
すると画面の画像が変化し、やがて、白黒の図面のような映像になった。
「この通り。
これがナノマシン兵器の設計図だ」
「おお! これが……」
ついにグラムの前にナノマシン兵器の設計図が示された。
「さあ、ここからはお前の出番だ」
「心得ましたぞ」
グラムは魔法の杖を構えた。
「魔素の回復薬も用意している。
急いで作業を進めるのだ」
イスカリオンは天を仰いだ。
狭い無機質な建物の中だが、彼の心は遥か空のかなたに向かっていた。
「あなたの愛は、わたし一人に向けられるべきものなのです」
ひざまずき、両手を広げるイスカリオン。
「主よ、あなたにお目にかかる日は近い。
我が愛の力、ご照覧あれ」




