第100話 勝利の後
「でも、お前の往生際の悪さは昔からよく知ってる」
魔獣ガルムの突進を止めるべく、その正面に立つベルナールをサポートするべく、その後ろに立つ僕。
「好きにしろ」
「そうするよ」
僕はベルナールの後ろで、両腕を掲げた。
「ディフェンストレングス!」
防御力を高めると共に、腕力を高める魔法だ。
「エンハンスピードアップ!」
武器の威力を高めると共に、敏捷性を高める魔法だ。
盾に対して使用すれば防御力の強化も狙える。
「リジェネレイトルネード!」
回復力を高め、傷を癒すと共に、ガルムには竜巻で攻撃する。
「これがお前の魔法の力か」
「ああ、僕達二人の力であいつを止める!」
いよいよ突進する黒い魔獣が近づいて来る。
「人間風情がオレを止められるつもりかあっ!」
トルネードの魔法などには全く怯まない。
ベルナール目掛けてまっすぐ突進してくるガルム。
「やるしかねえんだよ」
ベルナールは盾を構えて、身体を横向きにして、重心を低くした。
「来い」
「グガアアアーーーーー!」
雄叫びを上げ、突進して来る、黒い獣。
「ぐうっ!」
強い衝撃と激突音が走る。
しかし、ベルナールは確かに突進を止めている。
それならば次にやるべきことは決まっている。
僕は両手の拳を握りしめ、腕を構えた。
「ライトニングラビティ!」
雷撃と重力波がガルムに直撃する。
「こんなもの!」
直撃を受けるガルムだが、突進は止まらない。
ベルナールが少しずつ押されてくる。
「どうした!
これで終わりかあ!」
ガルムが一際大きく咆哮した。
「終わりだって?」
ベルナールとガルムは目前まで迫っているが、僕に恐れはなかった。
「終わらないのがしりとり魔法だ」
ぼくは再び両腕を構えた。
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
「ライトニングラビティ!」
雷撃と重力波の連続攻撃。
しりとり魔法の売り、継戦能力と最速連撃だ。
「ググゥ……ッ!」
ガルムがついに膝を付く。
「……!
今だ! カエデ!ウガガウ!」
ベルナールが絞り出すように声を漏らす。
「行くよ、ウガちゃん!」
「任せろ!」
左右からガルムに斬りかかるカエデとウガガウ。
攻撃を受けたガルムはそのまま、崩れ落ちる。
「へ、ヘルの……、かた…き……」
それだけ言うとガルムは力尽きた。
「……そんなのお互い様だって言ってんだよ」
ベルナールも膝を付いて倒れ込む。
「大丈夫? ベルナール」
「ああ、何とかな」
大の字なって倒れるベルナールに、僕は「ヒーリングッドラック」の魔法をかけた。
その後、歓声が上がって、僕達の周りに人々が集まって来る。
黒騎士団とクレーヴェ公爵、そして、子供達とマヤさんだ。
僕達の勝利だった。
「また一緒に戦わないか?」
僕は寝ているベルナールに持ちかけた。
「今回、一緒に戦って分かった。
ベルナールは昔より断然強くなってる。
君の力が欲しい」
あのヘルとガルムは、今まで戦った魔物の中でもかなり強力だった。
その両名相手にあそこまで渡り合えるなら、今後の戦いでも頼りになるだろう。
「それは調子に乗り過ぎだろ」
眉間にしわを寄せるベルナール。
「馴れ合うつもりはないと言ったはずだ」
「堕天の魔王を倒さないと世界が危険なんだ。
ここだって安全じゃない。
力を貸して欲しい」
「それはそうかも知れんが……」
まだ乗り気じゃなさそうだ。
「まあその事は自由に決めて欲しい」
「他に何があるんだ?」
僕は、ずっと言わなければならないと思っていた言葉を言った。
「4年間、僕はパーティのお荷物だった。
君が聖騎士を目指す足を引っ張ってしまった。
本当にすまない」
「待て。そうじゃない。
ジョゼフに言われたように聖騎士になれなかったのは、おれの力不足だ。
黒騎士団に入ってからも、自分の能力のなさを思い知るばかりだった。
一年芽が出なければクビと言われた」
黒騎士団に入ってからのベルナールを僕は知らないが、苦難の日々だったようだ。
「やれるだけやろうと必死にしがみついた矢先に堕天の魔王だ。
おれ一人で、子供達を守らなければならなくなった。
それだってお前らが来なければどうなってたか分からない。」
僕見上げるベルナール。
「おれの能力が足らなかったのは事実だ。
おれの事はおれ自身の問題だ」
さっきは疫病神って言ったのに。別にいいけど。
ベルナールは上半身を起こした。
「戦いに参加する気はある」
「ベルンハルトー!」
ここで、マヤさんと子供達がやって来た。
「あいつらや村の連中も守りたいしな」
はにかんだベルナールの顔に、シャオンス村にいた頃を思い出す。
面倒見のいい僕らのリーダーだった。
「よかった! 無事だったのね、ベルンハルト」
ベルナールに駆け寄るマヤさん。
「帝都でこの子達の親も保護されてるって。
一緒に帝都に行きましょう」
ベルナールは一瞬の間の後、起き上がった。
しかし、マヤさんとは少し目をそらす。
「あー、その事なんだが、おれも王国に行って、堕天の魔王との戦いに参加する」
途端にマヤさんの笑顔が曇った。
「堕天の魔王を倒さない事には、マヤだってガキ共だって、安心して暮らせないだろう」
目に涙を浮かべるマヤさん。
「そんな顔するなよ」
「ベル……」
ベルナールの袖をつかむマヤさん。
「それにマヤには話してあったはずだ。
おれがセントレールの人間である事も、急に戻るかも知れない事も」
ベルナールは自分の正体を、マヤさんには打ち明けててあったらしい。
「一緒にいて、ベル」
「堕天の魔王を何とかしなきゃいけないだろ?
……っ!
つねるなって!」
袖をつかむ力が強くなった、と言うか、肉をつかまれているらしい。
さらに子供達も寄って来て、ベルナールをにらんでいる。
片手で顔を覆って、泣き出すマヤさん。
僕はここで初めて、二人の関係性について気が付いた。
「何だよ、お前らまで」
子供達からブーイングが起こる。
みんなマヤさんの味方のようだ。
「ああ、分かったよ!
……戦いが終ったら、必ずマヤを迎えに行く」
ベルナールはマヤさんの方を向いた。
「一緒にセントレールに住もう」
マヤさんの肩に手を置くベルナール。
さすがに袖(の肉)をつかむ手は離れた。
マヤさんは手で次々流れる涙を拭きながら答えた。
「うん……」
抱き付いて来るマヤさんの背中に手を回すベルナール。
子供達から歓声や口笛が聞こえて来る。
僕はベルナールの身を案じていたが、そんなのは無用の心配だったのかも知れない。
「おれはこいつらを帝都まで送る。
王都で落ち会おう」
僕達は一足先に王都へ向かう。
ルーンラダーの入手の報告を急ぎたい。
エレインさんもエクスカリスを手に入れられただろうか。
山の上から西のセントレール王国を一望しながら今後の事を考える。
その時だった。
「ちょっとだけ森に寄っていいか?」
ウガガウだった。
ウガガウが「森」と言ったらそれは彼女の故郷、原初の森の事だ。
「久しぶりに母ちゃんに会いたいぞ」
「そうだね。行ってみよう」
山脈から王都に向かうなら、大陸中央に位置する原初の森は通り道だ。
堕天の魔王出現以降、銀狼エカテリーナさんと会っていないし、話を聞いてみたい。
僕達は原初の森に向かう事になった。




