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作られたのは人間で構成された巨大な槍。縦に伸ばされた傭兵軍団は槍の如く突き進む、頭領シゼルを逃がすという目的のために一点集中特化の戦い。周辺を囲まれた状況ではそれしか残されてなく老兵達は覚悟決めて乗馬すると槍の切っ先の部分を作り上げて目前に迫る魔王軍へと吠える。


「ガアアアアアアアア!!」


その声は生を捨てた代償に死を受け入れた泣き声にも聞こえた。最初に激突する魔王軍の最前の兵士が見た光景は誰を見ても老兵、若さの欠片もない老人が炎のように燃え上がりながら突っ込んでくる光景は恐怖になる。


周辺を圧倒的な数で囲み勝利が約束された魔王軍側の兵士はこんな事態を想定していなかった。多少の抵抗は考えたが老兵の顔を見た瞬間に震えあがる。数の不利を微塵も感じさせない鬼の形相が魔王軍に一瞬の隙が生まれそこを突かれた。


「どけぇ若造がぁ!! お前達とは覚悟も年季も違うんじゃあ!!」


最初の一人が魔王軍の壁をぶち抜くと槍は一気に貫き道が開かれていく。両方を悪名高い魔王軍に挟まれる形になり細い槍の外側をどんどん削られていく。仲間の血しぶきを浴びながらニックは馬上でアルコールを飲み干し笑う。


「ヒャア!! 長きに渡る安っぽい傭兵人生の最後にしては派手で中々じゃないか」


隣で同じくアルコールを飲みほし瓶を投げて繰り返すアベンジの隊長も上機嫌で剣を夜空に振り上げてる。


「まったくよなぁ!! おいニック派手にいくぞ!! もう前方の老人共がやられてるはずだ、次は我らが出るからシゼル様の護衛を頼むぞ」


その言葉と同時に先頭で暴れまわってた老兵達の声が消える。魔王軍が勢いを止めようと津波のように正面から押し寄せてくるがそれをアベンジ達が叩き潰す。


「ニック!! 聞いてますか!! これでは犠牲が大きすぎます!!」


「あぁボスこいつは仕方ない事ですわ、相手の数が数ですから多少の犠牲は覚悟してください」


「何が多少ですか!! 彼らは私が長年育て上げた部下ですよ」


槍の中心部のもっとも防御が厚い場所にシゼルとニックは配置され戦いが始まるとシゼルは伝えられた作戦とまったく違うことに気づく。


「ボスすいませんが俺ら馬鹿なんであんな複雑な作戦覚えられませんわぁヒャハハ」


「……ニック、これは重大な命令違反ですよ。その首を落とす覚悟はありますか」


「こんな状況で脅しても無駄ですよボス。周りを見てください、もう作戦変更も途中下車も無理ですよ……親父の魔王を倒すんだろ、部下切り捨てられない甘ちゃんが何をいってるんだが」


ニックの軽口に腰から剣を抜き首にこすりつける。馬上で互いに揺れいつ肉を裂き血管に食い込むかわからない状況でもニックの表情は薄ら笑い。


「なぁに無事切り抜けたならこの小汚い首なんざいくらでもやりますよ、おーお左右の若い奴らも頑張ってるじゃないの」


月光に照らされる中で数えきれないほどの剣激の音と光が槍の左右で生まれる。数で遥かに勝ってる魔王軍は当然走ってようが常に攻撃してくる。シゼルのカリスマに惹かれ未来のない汚い傭兵稼業に少しの夢をもった若者たちは無残に散っていく。


「えぇい分厚い!! この糞ったれな魔王の壁をぶち抜くぞお前ら!! 我に名誉も歴史もない、主を失い恥を晒し今まで生きてきたんだ。魔王軍の血で大地を染め上げ墓標をここに刻むぞ」


アベンジの隊長が敵と仲間の血を浴びながら吠え突き進む。ただ前へ……何十年も積み上げた物を削り落とされ血を吹き骨を砕かれても前へと激震する。自分でも何を言ってるかわからないほど狂気に満ち始めた頃に目の前にいた老兵の体が宙を飛ぶ。


「ニノ様、シゼル様は大きくなりましたぞ」


背中からもう1本の剣を抜き二刀流で隊長は鬼となる。目の前の物全てを切り裂く鬼となり突き進んでいく。体力がなくなろうと足を剣で斬られようが止まらない。馬上から繰り出す2本の斬撃で魔王軍を首を次々に落としていく。


「ガァ……ハァハァ、見えた!!」


馬上から魔王軍の分厚い壁の終わりが見え希望が湧いた瞬間に馬がついに力尽き地上に叩きつけられてしまう。


「誰か生きてるか!!」


起き上がると同時に叫び見渡すとアベンジの隊は20人いるかどうか、機動力を失い囲まれ後一歩も所で老兵は膝を突く。


「ニィィィイク!! わかってるな!! 頼んだぞ」


その声が響いた瞬間にニックは手を伸ばしシゼルを自分の馬上へと無理矢理乗せる。首に剣を突き付けていたニックの行動に驚き引き込まれシゼルは声を上げる。


「なんのつもりですか!! まだ後ろにも仲間はいるんですよ」


「あいつらはもうダメですわ。見てください馬を失い囲まれ始めていますぜ、そして前も……さぁ最後の見せ場だアベンジ!! かつて魔王軍最強と言われたその力で一花咲かせてみな」


たった20人足らずの老兵が最後に壁にぶつかる。もっとも奥に配置されていた兵士は恐怖で体が固まってしまう、自分達は一番安全な場所だと決め込んだいたが悪魔のような老兵が襲いかかってこられ一瞬だが道が開く。


「手を!!」


シゼルが隊長に向かい手を伸ばすが返ってきたのは笑顔だった。血化粧をし皮鎧も砕かれ隙間から大量の血が漏れている老兵はただ笑った。


「本当に大きくなられましたなシゼル様」


ニックが操る馬が風のように走り抜ける一瞬でシゼルは確かに聞いた。 手を伸ばしながら振り返り馬上から見た光景は数えるほどしかいないアベンジが敵に向かい剣を振り上げ突撃していく最後の勇姿だった。


「ニック、ニック……これは貴方の作戦ですか」


「えぇボスを騙し逃がすまでの段取りを考え隊の連中に命令しました。あの森までいき魔王軍をまいた後に好きにしてくだせぇよボス」



シゼルが父テツに反抗し母ニノと協力して作り上げた傭兵軍団は壊滅。その力全てを注ぎ込んでもたった2人しか逃げられなかった。







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