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城壁から見下ろし一体どれだけの数で囲まれているかさえわからないほどいる魔王軍に言葉を失う。夜で視界が悪い中でさえ馬鹿げた数である事が見てわかり一人の部下が膝を落とす。先程まで勝ち誇り勝利に酔いしれていたが一気に冷める、恐怖で素面に戻されるだけでなく動けなくなっていく。
その恐怖は連鎖していき長年戦場で戦ってきた者も顔を硬め唇を噛む。頭領であるシゼルは真っ直ぐ魔王軍を見据えその背中を部下に見せるがほんとどの物が心を折れかけている。そんな中ニックは数人を連れて城内に戻ると冷たい石床に座り口を開く。
「まず古参であるアベンジを集める。あんたが確か隊長だったよな」
ニックと年齢が大差なく岩のような顔に体つきも大きく歴戦の傭兵という言葉が似合う男に言うと黙って頷く。
「見てわかると思うが戦いにならないほどの戦力差があるよな、だから俺は逃亡を提案したい」
「確かに勝機が無ければ逃げるのは賛成だが我らとて少なくない。皆が逃げれるとは思えない」
隊長が意見するとニック言う。それは絶望の言葉だった。
「逃がすのはボスだけだ。残りは皆逃がすためだけの囮、簡単な作戦だろ」
まだ若者だが度胸と剣の才能を高く評価され隊を任せられてる男が声を荒げてニックに掴みかかっていくとアベンジの隊長が割って入る。
「ふざけるな酔っ払い!! 飲みすぎて頭までアルコール漬けになったか」
「今は酔ってないさ、所詮俺らは戦う以外能がなく寄せ集まってようやく傭兵団を気取れる連中なんだ。安い命なんだよ……でもボスは違う。こんな所で死んでいい人じゃねぇんだよ」
「随分と様子が違うなニック、お前なら逃げ出すと踏んでいたが」
隊長が嫌味を言うと誤魔化すように笑う。
「ヘッヘそりゃ考えたさ、でもな逃げたって俺みたいなもんはろくな未来もなく惨めにくたばるだけだしな」
「じゃ俺らは惨めにくたばるってのかよ!! てめぇはもう老い先短いが若者が多い俺達の隊に死ねって言うのかよ!!」
「そうだよ」
その一言でニックが連れ出した数人の隊長達は絶句した。長年背中を預け戦場を駆け抜けてきた仲間達にニック言う。死ねと。
「我らアベンジは賛成だ、元々先代のニノ様に仕えてきた身でありながら魔王の手で失った所を娘のシゼル様に拾われた身、未練があるとすれば憎き魔王の首を落とせない事だ」
「ボスはその魔王の首を落とせる器だ」
「おい逃亡っていったよな、だったら姉さんだけなくても少しは逃げれるんじゃねぇのかよ」
ニックではなくアベンジ隊長が諦めたように言葉を重ねる。
「無理だな。こちらの戦力を総動員してもシゼル様を逃がせるかさえ怪しい」
「つーわけだ期待の若手さんよぉ~こいつは心構えの問題だ。ボス以外の皆が逃がすって事を覚悟してやんなきゃ成功できないだろうしな。どうするよ」
「……隊の奴らと話てくる」
肩を落とし去っていくとアベンジ隊長がニックの隣の座りアルコールが入った瓶をニックに渡すと一気に煽る。
「うんめぇな……まぁ寄せ集めの傭兵団の末路としちゃこんなもんだわな。しかし魔王軍の中でも最強と言われたアベンジさんには悪い事したな」
「確かにシゼル様は打倒魔王を掲げて今まで頑張ってきたがついに限界がきたのかもしれんな。若い連中が気の毒だが仕方ない事よ。今更グダグダくだらない事言い出したら蹴飛ばしてやるわい」
「まぁ元々魔王軍が数できたらこうなるってわかってたしな、俺らはこーゆ自体避けてながら各地を回ってたのにまさか国を餌にするとは魔王めやってくれるわ」
ニックに進めたアルコールを隊長も勢いよく飲み続け瓶が空になるまで喉を鳴らす。
「たく最近の若い奴らは劣勢になったぐらいで弱腰でいかんわ。俺が若い頃はな」
「言うねぇ隊長さん!! まぁ傭兵やってんだ、罠にハマりやられるなんざ日常だしな。あ~あ魔王の野郎をぶっ殺したかったなぁ~……まぁまずまずの人生だったな。普通に傭兵やって運よく今まで生き残ってこれたんだからなぁ、若い連中は今頃顔を白くしてんだろうなへへ」
「なぁに負け戦とわかれば腹が決まるものよ!! シゼル様を逃がした後は暴れまくってやるわい!! しかしお前がシゼル様をそこまで慕っていたとは意外だったな。ニックよお前は一体どんな形でシゼル様の下についた話せ」
隊長にシゼルとの出会いを離すと大笑いされニックも釣られて笑う。老人同士が指を突き合わせて笑い飛ばす。
「まったくお前という奴は最初から最後までふざけた奴だな」
「ヒヒッそりゃどうも、そんじゃまぁやりますか!! あ、当然だがボスには内密だからな、あの人冷徹な事を平気な顔でやる癖に仲間には弱いからなぁ~自分だけ逃がすとかいったら殺されちまうぜ」
「同感だ。いよいよこの老体を散らす時がきたと思うと血肉が暴れ回るわい!!」
敗北が決まった戦いが始まる。




