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嗅ぎ慣れた臭いと煙が上がる城下街で悲鳴と金損音でニックが踊る。魔王軍の配下にある国の一つを攻め落とすという日常化した戦いにニックは単身で突っ込んでいく。時間との勝負とシゼルに言われ弾丸のように飛び出す。
時間をかければ増援がきて数で負けるアベンジでは不利になる。個人の戦闘力や連携に自信があっても圧倒的な数の前では無力となる。地面を滑るように疾走しながらニックは腰に下げた酒を一口飲むと笑う。特に目標はなく、ただ必死に生きてきただけだが戦いの中にいると興奮していく。
「ヤッハアアアアアア!!」
城下街の坂を駆け上がり上にある城へと駆け抜けていく。雨が降り始め戦いで火照る体を冷やしてくれるが心は燃えていく。年齢は60に届きそうになるがニックの精神年齢は15歳くらいで止まっている。悪ぶるのも格好いいとさえ思う老兵は国落としの一番乗りを狙う。
「ヒィアアアアアア!!」
坂の途中で国に所属する騎士に出会うが剣さえも抜かせる暇も与えず飛び掛り兜の隙間に剣を滑り込ませ刺殺。心は若くても体は老人、坂の途中で膝に手をつき一呼吸し登ってきた坂の下を見るとアベンジの大群が門の前で少しづつ押し返し守備兵を蹴散らしていく。
「感謝するぜボス、いくら副団長でも指揮とか向いてねぇんだわ。さぁてアルコールジャンキーの働きを見せるとしますかぁ!!」
使い慣れた剣を片手に走り出すと坂の頂点で数人の男達が攻城兵器を設置していた。バリスタと呼ばれ巨大なボーガンで標準を合わせられニックは左右に体を振った瞬間に足元に巨大な銛が刺さり地面を抉りだしニックを飛ばす。
「カッアアアアア!! ペッペッ」
埃が喉に入り咳き込むと次の銛を争点し始めている。その隙に一気にと距離を詰めようとするが槍を突き出した騎士が数人現れ構えていく。銀色に輝く甲冑の騎士には似合わず構え、下にいるニックにいる向かい槍を投げ出す。
「この野郎ぉ!! 騎士様だったら真正面から向かってこいよオラァ!!」
地面に何本も槍を刺し次々に投げてくる、左右になんとか避けるが何時までも避けられる数ではない。こんな所で時間を失うわけにはとニックが剣を鞘に収め先程地面に突き刺さった巨大な銛を引き抜いて駆け上がっていく。
数本の槍を弾くが肩に当たり軽装だっただ装備が削られ肉の一部が削ぎ落とされてしまう。痛みで動きが遅れるが片手で構えた銛をブン投げる。ニックは老兵だが筋肉は長年の戦いで鍛えられ軽々とはいかないが速度は十分に出て上にいるバリスタに直撃。
「どけってんだよ!!」
数人いた騎士も全て斬り伏せるが傷もしっかりと負う。致命傷ではないが時間が立つと厄介だと経験上わかり急ぐ。雨で装備の重量も上がり傷に響き体力も削られていく。
「本当に格好つかないねぇ~どうして無傷でささっといけないかねぇ~……さてここか」
城門前で多くはないが騎士達が剣を構え今度こそ正面から挑んでくる。数は数人だが城内では更にいると考えると思考を止める。振り返れば命を投げ出すような戦いを何十年も繰り返してきたと思う。いつも通りだと飛び掛る。
最初の騎士が一振りすると軽く横に避け甲冑の隙間に剣を入れる。ニックが得意とする甲冑相手に有効な技の一つだった。そのまま突き刺したまま騎士を盾に残りに向かい突撃し押し倒し二人目に馬乗りになり剣を突き立てて喉を刺す。
「どうしたぁ若造共~怖いかぁ~怖いかぁ?」
そこからは恐怖で動きが遅れた者を一人づつ倒し城門前制圧すると扉に手をかけ勢いよく開けてると中にいたのは王族らしい老人が数人。護衛もつけず煌びやかなホールで持ちきれないほどの金品を袋に詰め込んでいる所だった。
「なんでぇなんでぇ城下街に部下全部配属したのかい~どこの国も王族やら貴族やらの行動は変わらないねぇなぁ~」
情報ではまだ門の護衛で時間稼げると判断した王族は驚きの声を上げて袋をパンパンに膨らませ引きづりながら後ずさる。
「さぁ~てどうするかな。金目の物はしっかり頂くとして」
「てめぇ誰だ」
物陰から短髪の金髪男が出てくる。ニックの片手剣の比べ大きく両手で握り締め背中から抜くと切っ先を向けて笑う。
「俺はバルサスってもんだが、随分と歳老いた傭兵だなおい」
「魔王軍の奴か、その格好で騎士には見えねぇしなぁ」
ニックとバルサスの装備は似ていた。軽装で使い込まれた甲冑、所々傷が目立ち年季を感じさせる色落ちと互いに傭兵とわかり構える。
「魔王軍に挑むなんて馬鹿だなお前」
「ヒヒッもう報酬とか将来とか気にする歳ではないんだよなぁ~どうせならくたばる前に一発大きな事したくてな!!」
「こんな国でも魔王軍の貴重な戦力だからな、爺さん死んでもらうぞ」
30代の傭兵として油の乗ったバルサスと60手前の枯れ果てたニックが構え戦いが始まった。




