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小さな村でニックはアルコールが入った瓶を傾け喉を潤していた。痛んでいるが作りのいい椅子のおかげで大柄なニックは体重を預けられ晴天の光を浴び気分よく大好きな酒にありつけ笑みが止まらない。しかし周囲は恐怖を覚えていく。


痛んだ茶髪の長髪は肩まで伸び前髪で顔も隠れた老人がわけのわからない事を呟きながらニタニタと気味の悪い笑みで酒をどんどん注文していく。ニックが座っている後ろには店があり注文を受けた店主は作り笑いをひきつらせながら酒を運んできていた。



「はぁ~気分がいいわ、なんだろう。暖かいし天気いいし酒もやたらと美味い!! いいよ最高だ」



足元に瓶が10本並ぶと腰を上げて大きくし背伸びするだけで住民が離れていく。なぜだろうと自分の格好を見ると納得してしまう。軽装だが使い込んだ鋼の鎧と腰には剣を下げていれば血生臭い盗賊にしか見えない。



「まぁ身なりにもう少し気を使えばこーゆ目で見られる事はねぇが、そんなの気にする歳でも柄でもないしなぁ~まぁいいか」



歩き出すと先にいた住民は悲鳴にも似た声を上げて道を開けていく。怖がられるのは慣れているが子供にまで泣かれると心にくるなっと愚痴をこぼしながら目的地へ向かう。寂れた田舎にきた理由はある鍛冶屋だった。


木製で雑に作られた小屋の扉を開けると鉄の臭いと炎の熱気が体にぶつかってくる。真っ赤に燃えた鉄をハンマーで叩く老人を見つけ床に転がっていた椅子を器用に爪先に引っ掛け起こし座り腰に下げていた袋を投げる。



「よう出来てるかい」



老人は言葉を出さずに指で壁を指すとそこには一本の剣があった。柄から刀身まで何の工夫もされてない剣だったがニックには感じる。外見では判断できない切れ味、計算され尽くした重量、重心への配慮。長年鍛冶屋へ剣の修理や製作依頼してきた中で3本の指に入るほどの名匠の仕事だと震え剣をとる。



「もうくたばりそうな年齢だから弟子でもとってその技術絶やさずいてくれやぁ爺さん」



「てめぇも酒ばかり飲んでねぇでいい加減引退して体の心配しろボケ」



老人同士の憎まれ口を楽しみ小屋を出ると受け取った剣を試しに振る。まるで剣が骨のような感触に満足し本隊への合流へ急ぐ。無理を言い武器の手入れだけは自分でやりたいと言った手前早くしないとと足を速めるが悲鳴が上がる。


自分を見た女子供が悲鳴を上げたのかと思うが様子が違う、恐怖ではなく命の危機を感じる悲鳴……村の入り口から女が数人血の気の引いた顔で走ってくるとその奥から一目でわかる連中がいた。



「盗賊……いや傭兵崩れって所か、戦場で負けて敗走ついでに強奪目的か」



鎧は何箇所も砕かれその隙間から血を流してる敗残兵も数人いる。盗賊にはない統率された動きで若い村人を何人か斬り捨てていた。



「ま、盗るもんとったら引き上げるだろ。俺もあいつらも変わらないしな」



シゼルが掲げた魔王討伐の傭兵軍団アベンジも村や街を襲わないが敵となれば容赦なく襲い掛かり似たような事は日常茶飯事になっている。ニックは同業と判断し命令をしている男に話しかける。



「よう大将相談あるんだけどいいかな」



「言ってみろ」



「いいね、その無駄な事言わない態度。ここの鍛冶屋はかなりの腕で俺は常連なんだわ、だからよ食料とか残してといてくれねぇか」



敗残兵の頭の男はニックの言葉に数秒考えると答えを出す。



「断る。こちらは戦いの疲労と空腹で気が立ってる者も多い、お前も同業だろう? ならばわかるよな無駄な争いはしたくない」



背中に背負っていた大剣の柄に手をかけ警告するとニックは肩をすくめ男を通り過ぎていく。村人には悪いが正義を振るうほどの人生をニックは歩んできていない。冷静に考えて相手は10人はいる、ここで無駄に戦い命を落とす事もないなと足を速めるが。



「……」



子供の泣き声が足を止めた。あまりにもうるさかったので蹴られ更に泣いたが蹴られるという事が背後の音だけでわかる。他にも敗残兵の餌食になる女の悲鳴、先程あれほど飲んだ酔いが冷めたように足が動かなくなる。



「馬鹿はよせ俺、お前は何十年も傭兵暮らししてきただろう。何の得にならないだろ。そうだよな」



自分に言い聞かせ足を進ませようとするが中々一歩が踏み出せない。ここで助けにいったらまるで正義の騎士様になるが勝てる見込みなんてない。よせ辞めろという言葉を脳裏に叩き込んでいくが出した結論は逆だった。



「俺は自分が大嫌いだ、こんな中途半端な正義を未だもっている自分が大嫌いだ……くそったれが」



腰に下げていた瓶を勢いよく持ち上げアルコールを流し込むと地面に勢いよく叩きつけ割る。その音で敗走兵を纏める男が振り返るが気付いた時には胸に剣が突き刺さっていた。



「アヒャア!! 試し斬りといきますか!!」



不意打ちで倒れる男の姿を見た敗走兵が数人鬼の形相で襲い掛かってくる。空腹のせいか気がたってるんだろうとニックはふざけた笑みで返すと槍が突き出てくる。突き出される矛先を舐めるように体を回転させて回避すると間合いを詰めて首筋に一撃を叩き込む。



「まだまだ若いもんには負けられんぜぇ~」



そこからは乱戦だった、囲まれないように常に走り一人一人確実に殺していったが数の暴力の前では限界がくる。残り4人まで減らしたが背中に深手を負い膝を落とす。



「まったくだから辞めとけばよかったんだよな」



幼い頃夢見た戦士は相手が何人だろうが傷一つ負わず華麗に勝利していたが現実はこんなもんかと苦笑を浮かべながら背中の傷の痛みに耐える。よくて後2人倒せるかぐらいかの計算、長年の経験で勝てない所まで計算できる皮肉に笑い膝に力を入れる。



「10対1にしちゃ頑張った方だと思わないか?」



敗走兵に語り掛けるが仲間を殺された怒りで敵意しか向けてこない。



「凡人にしてはよく生き残った方だな。しかし最後が貧しい村を守って死ぬなんて格好いいじゃねぇか……せめて勝ってからくたばったら美談にもなるんだけどな」



一撃を受け止めただけで足腰が折れそうになり背中が燃えるように熱くなる。奥歯を噛み締め力を入れて切り返してからの一撃で敗走兵の一人を見事に切り伏せるがバランスを崩して地面に手をついてしまう。思ってた以上に血を流したのか力が入らなくなっていく。


残りの3人が襲い掛かってくるのを見ていよいよ終わりかと思う。再び立ち上がって構え直すほどの時間は待ってくれないだろう。せめてこの状態から一撃と思った瞬間に顔面を蹴り上げられた。



「ぶっ……はぁ!!」



見上げた空は気持がいいくらいの晴天、その光景に敗走兵の顔が割り込み剣を突き立てている。最後はどんな顔をしようかとホロ酔い気分で考えた挙句笑う。



「あ~……駄目だ言葉が思い浮かばねぇわ、本当ろくな人生じゃなかったわ」



切っ先が降りてきた瞬間に黒い影が横切る。真上にいた敗走兵は喉元への一撃で倒れ残った2人もニックが顔を上げた時には倒れていた。何事かと思い後ろ姿の戦士を見る。



「まったく何をしてるんですがニック」



銀髪と褐色の肌を日光で輝かせ振り返るシゼルの顔を見るとニックは痛みを忘れ立ち上がり走り抱きつく。



「ボスぅうううう!! ありがとうよぉおおおお」



「離れないさ!! 鼻水つけないでください!! 涎も……血臭い!!」



ちっぽけで中途半端な正義感を持つニックはなんとか生き残った。 





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