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12章

少年は物拾いだった。大規模な戦闘が行われた跡地にいき死体から金品や装備を剥ぎ取りそれを売り捌き生きていく。人として最低の種類に属している。思い出すのは10歳前後の記憶から、親の顔も知らず気付けば街のスラム街にいた。


子供がたった一人で生きていくには徒党を組むしかなかったが回りにいた子供達は餓えて死ぬか傭兵達に殺されていく。必死に逃げ、時には頭を地面に擦りつけわずかな食料を恵んで貰う生活を繰り返していくと人間性が削られていく。


一体なんのために生きているんだ、こんな惨めで悔しい思いをして生きていく意味があるんだろうか? そんな思いが積もりフラフラと街を出ていく。もう体力が無くなろうが知った事ではない。いつも他人に自分の1日の命を委ねる生活にうんざりしていた。



「なんだここ」



大量の血と腐りかけの臭いを嗅ぐと地獄にでも来たのかと諦めの笑みが出た。数え切れない死体の中を歩き進んでいると何かが月光の反射で光り近付くと死体の首から高級そうなネックレスが下がっていた。


手に取り無理矢理首から引き千切り見ると思い付く。歩き通しの疲労した下半身に力を入れ街に戻りアクセサリーを扱う店に飛び込み見せ付けると驚くほどの値段がつけられ一瞬で1ヶ月は暮らせるほどの金が手に入る。



「神様ああああああああああああ!!」



神に感謝するほど嬉しさで飛び跳ねた。それから少年は戦場を渡り歩く。魔王と戦うおっさんの噂を聞き現地に行くと面白いように殺し合いが繰り返されていた。人間同士が吼えながら命を奪い合う音を物陰で聞きながら雲を数えて鼻歌を歌い待つ。



「量は多いんだけど質が悪いなぁ~袋にもう入らないしなぁ~」



慣れた手つきで物色していると突然後ろから蹴られる。振り返ると大人数人がニヤニヤと締まりのない笑顔で立っていた。



「よぉう新入りじゃねぇか~誰の許可とって拾ってんだ」



「ふ、ふざけんじゃねぇ!! その格好で何が許可だ、だいたい……」



顔を蹴り上げられ大の字に倒れると複数の足が雨のように降ってくる。わずか10歳の子供に大人達は容赦なく全力で踏み抜く。時間にして数分経過すると少年は動けなくなり物拾いの先例を浴びた。



「坊主こーゆ世界だ、乞食らしく他人様の物を隠れて奪う世界でもな力が物を言うんだよハハハハハ」



勝ち子誇った笑い声を上げながら去っていく大人達を腫れ上がり細くなった目で見つめて思う。悔しさが体内で爆発しそうになるが言ってる事は正論。力をつけなければ……その瞬間から始まる。


死体から拾い上げた一本の剣に誓う。防具はまだ体が成長してないので合うのがなかったが十分だと近くの町へと戻ると酒場に向かう。


ボロ切れのような服装の子供がいきなり入ってくると酔いが回った傭兵達が笑い出すが気にせず店内を見渡しカウンター席に座っている影のある男の隣にいく。シワが深く刻まれ貫禄があり誰とも群れない男に決める。



「おいこの金で俺に剣を教えてくれ」



先程で全財産奪われたが靴の中に隠していた本当に最後の金をカウンターに叩きつけると男は視線を合わさずに口を開く。


「剣とはなんだ、剣とは己を極める道。己が己であるための武器であり盾にもなる」



「……おっさんその歳になってそんな恥ずかしい事言うなよ」



それが二人の初めての会話だった。男は流れ者の鍛冶職人だった、戦場から戦場へと渡り歩き武具の修理または自分で作っていると変わった職業だった。しかし職業柄荒事は避けられないため剣の腕は相当だったと少年は特訓で思い知る。



「違う、いいか肩の力は抜け。でも抜きすぎるな!! そうさな、風のように緩やかで時には激しく……または海のように」



「う、うるせぇ!! おっさんの説明はいちいちくどいんだよ!! それ絶対自分に酔ってるだけだろ!!」



体格差もあるがそれとは別に男の技量に驚く毎日だった。剣を風だの炎に例える事が多かったが本当にそれを実践してるのが凄いと思い少年は男になつく。生活費は物拾いで稼ぐといったが男はそれを許さなかった。


自分は腕のいい鍛冶屋だから金の心配はするなとその時ばかりはふざけた言葉ではなく真剣に怒り少年を震え上がらせていく。



「フッお前ももう15になったか……時の流れは残酷だが人の成長も見せてくれる神からの」



「今度こそ一本とる!!」



戦場の端で店を開き夜は傭兵達と酒を酌み交わすのが少年の日課であった。人付き合いが苦手な男はもくもくと注文を受けた武具の修理を続ける横で傭兵達と訓練用の剣で打ち合ったりと腕を磨いていく。そんなある日男が重い口調で少年に語る。



「剣の道は諦めろ」



剣を研ぎながら男は言う。少年はいつもの冗談めいた言葉かと思うが男の険しい表情に言葉が出てこない。



「お前を鍛えて5年になるか、はっきり言うぞ。お前には才能がない。いや才能がないだけならまだいい。お前は凡人以下なんだ。わかるか、およそ戦う事を生業にして生きていけるとは思えない」



「……おい、それ本気でいってるのか」



「安心しろお前は幸いまだ若い、これから鍛冶屋として仕込んでやる。食っていけるまでにはなるであろう」



男が研いでいた剣を横から蹴り飛ばし掴みかかっていく。



「ふざけんなよ!! 俺はな物拾いから剣で生きていくって決めたんだよ!! 男ならそーゆのに憧れんだろ!!」



「気持はわかるが現実を受け入れろ。5年だ……5年もお前を側で見た俺が言うんだ間違ってはない。怒りもわかるが考えろ、このままだとお前は確実に名もわからない汚い傭兵の殺されると俺が言ってるんだぞ」



声を荒げるわけでもなく淡々と語る男の態度に怒りは不思議なほど冷めていき膝を落とす。



「なんだよ、そんなのねぇよ……なぁおっさんそんなに俺は駄目なのか」



剣は楽しかった。剣同士がぶつかる音、柄ごしに伝わってくる相手の重さ、日々成長していく自分。それを師である男に全て否定され涙さえ出なくなる。



「魔王軍だ!!」



叫び声が響くと夜空に無数の光りが現れ先端に炎をつけた矢が傭兵達の拠点に降り注ぐ。そこからは長くかからなかった。奇襲を受けた傭兵や正規の騎士達は惨殺されていく。


魔王軍は一人一人が強く奇襲など必要ないくらいに力の差があった。炎の乱戦を男と少年は逃げ惑う。すぐ後ろには無数の魔王軍が迫ってくる中逃げる、体力が無くなろうと体の信号を無視して意志のみで走る……と一本の矢が少年の足を貫く。


男は即座に反応し振り向き腰に下げていた剣を抜くと数人の魔王軍に向かい飛び込む。その剣はまるで風だった、音も鳴らさず敵を切り裂く剣技に少年は恐怖を忘れた。



「ほう高年齢ながらも素晴らしい動きだな」



殺気立つ魔王軍中から一人の女が現れ笑う、銀髪の髪に褐色の肌。一目見た瞬間に少年は男が言っていた才能という物を理解した、これが本物だと。



「イリアという者でな、あまりにも呆気なく退屈していたので遊んではくれないか」



「いいのか、見た所こいつらの頭って感じだが、こんな一方的な状況で一騎打ちとはそちらに得はないだろ」



「老人は打算的で困る。ふむ、一騎打ちを望むならそこの子供ぐらい逃がしてやろう、どうだ」



男は近くでまだ動ける傭兵に金が入っている袋投げ渡すと頼むと一言言う。傭兵に抱き抱えられると少年は叫ぶ。



「おっさん俺もやるぞ!! 俺はよぉ今まで物拾いとか……いろいろ逃げてきたんだ!! こんな時のために剣を教えてくれたんだろ!!」



男は一度だけ振り向き言う。



「お前の名を聞いてなかったな、まぁどうせ無いだろうから俺がつけてやる」



最後に少年の名を言うと男はイリアに突撃していく。少年は遠くなる男とイリアの戦いを涙で濡れた瞳で見続け……最後は男が倒れたのを見てしまう。


逃げ延びた少年は男の言う通り戦いの道を諦めてしまう事はできなかった。それから幾度も戦場へ傭兵として参加したが男が言うように何度も殺されかけてしまう。


その度にみっともなく背中を見せ逃げるか近くの名も知れない傭兵に助けてと叫ぶ、それは少年にとって物拾いよりも屈辱的な事だった。



「……おっさん」



20を越えるまで少年は成長したが廃人のような目つきになり町をフラつく。何度戦っても勝てない。限界以上の鍛錬をしても勝てない。そんな結果が少年の心を壊していく。


そんな中で出会ったのが酒だった。飲むと気が大きくなり試しに酒場で剣を抜いてきた相手と殺し合うと……あまりにもあっさり勝つ。それからは戦場に大量の酒を持ち込みアルコール付けになり戦う。


その剣は酔っ払いの足取りで繰り出されるが不思議と敵を切り刻んでいく。少年は青年に変わりそしていつしか鍛冶屋の男と大差ない年齢になる。



「ウィ~ヒャッハー」



気付けば戦場を渡り歩き40年という月日が流れていた。酒を飲めば無敵と思える強さを身に付けるが対価として肝臓を犠牲にするが気にはしない。気持ちよくなり戦い金が入り武勇が広がるなら安い物だと戦うがある日出会う。



「貴方が噂の酔っ払いの傭兵ですね。その力是非私にください」



歳は20そこそこの女。老兵には何をふざけた事をと斬りかかるが一瞬で握っていた剣を飛ばされてしまう。咄嗟に拾い上げ再び斬りかかるが何度も繰り返しても剣が舞うだけ……老兵は最後は膝を落とし涙を流した。



「こんのねぇよな、なぁおっさん……俺頑張ってさ、強くなったんだぜ。皆から一目置かれるようになったんだぜ……なぁおっさん俺さ…俺さ」



涙にくれる老兵に女は手を差し伸べる。



「悔しいですか? ならば私と共にいきませんか。かなりの年齢に見えますが残りの人生共に魔王を倒しにいきませんか? もちろんリベンジマッチなら何時でも受けますよ」



その笑顔を見て老兵は断る事ができなかった。これがあの日男が言っていた物かと噛み締める。言葉から立ち振る舞いから全てが違う。それはどんなに求めても手に出来なかった才能かと女の手をとる。


それから女の率いる軍隊にも近い集団は老兵は腕を更に磨く。その中で気付いた事は40年の経験は才能を凌駕するという事だった、女の部下にも才能溢れる奴はいたが立ち会えば勝てた。


しかし女には決して勝てない。時には酒では足りないと薬物まで手を出し挑むがただの一度も勝利できないまま数年が立つ。



「次の戦いは少し厳しい戦いになるかもしれません。もしかしたら半分も生き残れないかもしれません。でも皆さんお願いします」



戦いの前に頭である女が挨拶すると部下達は武器を上げて吼える。この士気の高さも持って生まれたカリスマだろうなと老兵は笑う。戦場に向かう女の背中を見てると声を掛けてくる。あの男がつけてくれた名前を呼ぶ。



「さぁ稼ぎますよニック!! 今晩の酒代は皆で出しますからね」



「アヒャア!!」



奇怪な声で答え元魔王軍を集めた集団アベンジ頭領シゼルに続く。






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