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雲の中に入ると大量の雨粒が二匹の竜を濡らす。視界は暗いが互いの位置は感覚的にわかる、雷も走る雷雲の中で先手をとったのはフェルの炎、強大な竜の腹を膨らませ仰け反った瞬間に口から火玉を吐き出す。


雷雲の中一瞬何か光ったとカズヤが認識した時には目前に迫り反射的に翼で体を庇うと味わった事のない痛さと熱で吼える。竜の鱗のおかげでなんとか灰にはならなかったが何度も喰らえる攻撃ではないと飛び回り的を絞らせないとするが雷が阻む。



「ええい雲を抜けろ遠藤カズヤ!! やはり覚醒したばかりのお前ではフェルに比べ経験がなさすぎる!! 地形を利用されるとやっかいぞ」



燃え上がる翼を羽ばたかせ上へと上昇していくと分厚かった雲を弾くように抜け出し日光の下に出た。全身の雨粒が蒸発していき竜の体が煙に包まれていく中で大きく息を吐きフェルを待つ。


あの火玉は厄介すぎる、速度と破壊力が今までに出会ったどんな攻撃よりも強力と思い返すと気付く。同じ竜ならば出来るはずだと……大きく息を吸うと腹の底から熱を感じてわかる。



「グワアアアアア!!」



カズヤの吐いた炎は広範囲のブレスだった。下にあった雲の一部をも燃やし尽くしフェルの火玉に比べ火力だけなら遥かに凌ぐと確信した瞬間に現れる。雨粒を蒸発させ煙の中で吼えるフェル。



「次はその首に当てて終わりにします」



「やってみろ」



空を二匹が縦横無尽に飛ぶ。カズヤはまずフェルの上をとりにいく、ブレスは広範囲と火力に優れているが射程が乏しい。上から被せるように燃やし尽くすと上空へいくがフェルはそこにいた。



「確かに雄の方が体も大きく力もありますが速度だけなら牝の方があるんですね、同族同士が初めてなので今気付きました」



上をとられた瞬間に火玉が振ってくると身を捻り避けるが体制が崩れ一瞬だけ静止すると二発目の火玉が直撃し全身が燃え上がる。



「距離をとらんか!!」



レグナの指示に応える前にフェルの射程の外に逃げ出すがそこは当然のカズヤの射程外。二発の火玉を喰らい損傷の酷さが鱗に現れカズヤは焦る、焦るが心のどこかで楽しんでいた。



「ちくしょうめぇ~あの糞女好き勝手やりやがって」



「どうする、空での戦いでは娘の方が何枚も上手だぞ」



「なぁにやり方よ、確かに旋回速度なら負けるが……単純な直線なら力で捻じ伏せてやる」



全身の力を溜め込んで体を丸める。フェルの方は待ち構えてる……まずはとカズヤは弾丸になる。直線での勝負、余計な左右上下の動きは全て切り捨てての正面勝負と飛び出す。


当然フェルもそれを読み一気に上昇しようとするが異変に気付く。真っ直ぐではない、明らかにフェルではなく違う場所に加速していく。一瞬その疑問で遅れるが、その一瞬が大きな遅れになり速度勝負で差がつく。



「いっけええええええええええええ!!」



翼を羽ばたかせ上にいくのではない。ただ直線で突撃しながら上へと加速していく。空には壁もなく邪魔する物は何もなし、斜めに上がり続け速度は天井知らずに上がっていく。


通り越したフェルに戻るまで大きな旋回が必要だったがそれすら短く感じる速度を身に纏いフェルの上を奪う。フェルも追いつこうと加速するが限界以上に加速したカズヤには追いつけず上に張り付かれてしまう。



「ハハハハ!! 見たかぁ糞女ぁ~」



後は上から潰すように接近するだけだが近付けば当然小回りが利くフェルにも回避のチャンスがある。一度でも回避されれば立場は逆になり掴みかけた勝機が手からこぼれてしまう。



「覚悟は決まってるのであろう遠藤カズヤ」



太陽を背に下にいるフェルに影を重ねるように飛んでいく、フェルも隙を見せないように左右に体を揺らすがカズヤの目には意味がない。後はただ行くのみ、上という最大の武器を発揮するにはただ下へいけばいい。


それだけで更に加速し潰せるはずだと決断する。そして下降を始める。左右に飛行軌道を変えるフェルに対して突撃。周囲の景色が止まってさえ見えた瞬間に。



「ガアアアアアアアアアアアア!!」



広範囲ブレスをフェルを包む。間違いなくブレスを浴びせた瞬間を見たカズヤは吐き続けていく。喉が燃え尽きようとも灰にするまで吐く。空の一部が炎の都に変わっていく。


炎の中では強大な竜が悶え苦しみ獣声を上げるが少しづつ小さくなっていく。後少しだと更にブレスを吐き続けていくが長くは続かない……しかしここを逃せば敗北が見えているため更に高火力をぶちこんでいく。



「きゃああああああ!!」



それは獣ではなく女の叫び声だった。ついに仕留めたかと感じた瞬間ブレスの中から鱗を焦がされ真っ黒になった竜の顔が出てきた。



「ふざけんな!! この火力の中で上へときやが――…」



フェルの牙はブレスを生み出す喉元へと突き刺さった。



「炎を吐くだけしか出来ない奴に負けるわけないでしょう!!」



強がった台詞をいうがフェルも限界だった。顎に力を入れて噴き出す血潮で顔を濡らし更に牙を食い込ませる。



「あ、あが……がああああああああ!!」



言葉も出ず全身が痙攣していく中カズヤは最後の力を振り絞りフェルの首筋に噛み付く。二匹は互いの首を喰らいながら落ちていく。雲を抜け先程飛び立った城の跡地まで落ちていく。


地面に激突すると同時に互いの牙は抜け完全に破壊された跡地の上で二匹は倒れこみ身動きができなくなるほど追い詰めれられた。


流れ出る血で川ができるほどに大量。そして――



「遠藤カズヤ見事だったぞ」



相棒だったレグナの声が聞こえるとカズヤの体はいつの間にか人間形態へと戻っていた。



「完全体を維持できないほどの痛手を負ったのであろう。娘の方も同じじゃ」



フェルも戻り痙攣を繰り返していた。喉からの熱を感じ手を添えるとあるはずの感触が無い。喉仏が抉り落とされていた。



「宿敵だった娘もあの傷では助かるまい。よくぞやった、お前の勝利だ」



いつもの高圧的な声色ではなく優しさを帯びた声にカズヤは笑う、らしくないじゃないかと言葉を出そうとするが出ない」



「あ……あが、おれは……」



「しかし無念、ついには魔王に届かなかったか。なに短い付き合いだが共に最後を迎えるとするか」



空からは雨粒が落ちてくる光景。喉からはもう痛みも熱も感じない。先程までの楽しかった夢はもう覚めたようだった。カズヤは必死に手足を動かそうと足掻くが指先すら反応しない。



「いや……だ、しに……たく…ない」



それが遠藤カズヤ最後の言葉となった。絶望しかなかった誘導人生から抜け出し狂気の戦いの日々を駆け抜けた最後は竜となり派手に戦い散っていったカズヤの言葉は最後まで生にしがみ付く泣き言のような言葉で終わる。



「テツさん……ごめん…なさい」



思い出す光景は教室で振り返るとわけのわからない事を言いながら笑わそうと頑張るテツの姿だった。何の取り柄もないが必死で見るに耐えないほど醜く足掻いたテツの顔が脳裏を過ぎり手を上げる。



「い、やだよ……こんなのいや……――」



二人の最後は似ていた。死にたくない、もっと生きていたかった……相打ちという結果で戦いは終わる。






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