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魔王軍に唯一従わず戦いを挑むベルカ。その総本山は周囲を城壁で囲み強力な武器と騎士達が常に見張りをつけている。人口は全て男と女は除外し徹底した武装国家にし劣勢ながらも魔王軍へと戦いを挑み続けている国。
そんな所に馬車から老人と女が降りてきたら当然目立つ、その二人が国王がいる城まで進み入り口の見張りと揉めてれば更に目立つ。馬車から降りた瞬間から目をつけられるとも知らずカズヤとベリルは見張りと口論している。
「おい、ベリル!! ベリル黙れ!!」
最初に気付いたのはカズヤだった。来た道を振り返るとフルプレートの騎士達が向かってきていた。数にして10、20……30を超えた所で焦りだす。老化で筋力が落ち極太を扱えなくなり今持っているのは死体から奪った使い古された一本の剣とナイフのみ。
数人ならなんとかなるかも知れないがベルカの中でも精鋭のはずの騎士達相手では分が悪すぎるとベリルを黙らせるとわざとらしい笑顔を作る。
「いやぁ確かにこの歳では無理があるな。すまない、出直してくる」
そう言いベリルの腕を掴もうとした瞬間に手が空をきる。カズヤの視界に血を噴き出す見張りが飛び込んできた。剣を振り抜き獣に変貌したベリルが隣にいた2人目の見張りも斬り伏せてしまう。
「……お、おい」
あまりの一瞬の出来事で思考が追いつかないが後ろから叫びながら襲い掛かってくる騎士達を見て腰から剣を抜く。
「さぁお父さん行きますよ!!」
「ふざけるな大馬鹿野郎が!!」
目標である城入り口からも騎士達が次々に出てきて襲いかかってくる。二人は挟み撃ちという最悪の状況に追い込まれた。怒りと恐怖が込み上げカズヤは吼える。折れかけている心を吼えて無理にでも奮い立たせていく。
「どうやらここまでのようだな半人前」
「黙ってろ!!」
逃げるのは不可能、ならば進むしかないとベリルの後に続き入り口に向かい突撃していくが騎士達が目の前で仲間を殺された怒りで剣やら槍で応戦してくる。目の前に何本もの武器が迫ってくる光景に息を飲むと、時間を犠牲にし老化した代償を払い手に入れた物が発動する。
まるで騎士達の呼吸が聞こえるように耳はよく、飛び散る汗や地面を踏み抜いた埃の粒が全て見える。考える前に体が動きカズヤはその瞬間だけ風のように舞う。
「どうだ半人前、これが長年竜と同化した者だけが手に入る境地よ」
死体から剥ぎ取った剣がまるで名剣のような切れ味になり身のこなしは完全に人の領域を出ていた。分厚いフルプレートを軽々と両断し道を切り開いていく。
「その調子だよお父さん!! さぁあの糞野郎をぶっ殺しにいくよ」
顔半分に斬り殺した騎士の返り血を浴び狂気の笑みを浮かべるベリルと共に力推しで入り口の門を突破すると更に敵は増えていく。カズヤは止まらない、先程までの恐怖はなくなり竜としての本性が現れ始めてきた。
食欲が急激に増し死体から流れ落ちる血を見るだけで喉が潤う。人間としての意志は竜の本能で塗りつぶされていく。
「止めろ!! あの二人をなんとしても殺せ!!」
騎士の一人が叫ぶが二人の突撃は肉壁になっている騎士達を次々に削っていく。
「よし一気に挟め!!」
後方からの騎士達が追いつくと囲まれ数で殺される気配を感じる。正面だけなら問題ないが背後も取られてしまい、数で押されてると対処が間に合わないと感じるが今は戦うしかない。
「半人前貴様は十分竜になっている!! その力を下等生物に見せてやれ」
突然体内部が焼けるように熱くなり込み上げてくる。喉に溶けるような温度を感じ我慢できず吐くと後方にいた騎士達に向かい炎を吐き出す。その範囲、熱、勢いは一瞬で焼き尽くし炎の海が現れていく。
「……ッ!! なんだこりゃ!! 喉が」
「慣れるまで吐け!! 見てみろ人間共が煉獄の炎で踊っているぞ!!」
竜が吐き出す炎は人間が防げる物ではなかった。カズヤの体の大きさから考えられない程の炎が吐き出て騎士達が悲鳴を上げて灰になっていく様子を見て再び大きく息を吸う。
「ふぅ~……こいつはいい、喰らえよ人間!!」
次の炎は更に威力を増しベルカ城下町を巻き込み火の手は広がっていく。自分が吐いた炎で全てが焼き尽くされる光景を見て笑う。今までに感じた優越感の中でも最高だと感じ口元釣り上がる。
「これが強者の気分ってやつか」
前方では剣の才能を貰い修練を重ね鬼となったベリルが騎士達を斬り伏せ同じく笑っていた。
「聞いてるかルーファス!! お前の娘が首を取りにきたぞ!!」




