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街へつくと治安が悪いのか刃物をチラつかせた追剝に脅されるがベリルが視線も合わせるまもなく喉を一刺しすると数人いた仲間が逃げていく。魔王軍の影響で盗賊、傭兵達が街から街へ渡り歩き女、金など奪いさるという話はもうよく聞く噂話になっていた。
城下町まである大きな街で追剥が現れるという事は憲兵がいないか、国家そのものが機能してないか……そんな事を考えながらベリルは酒場の扉を開けると数人の男達が女一人を取り押さえている。
「動くんじゃねぇぞ」
男達の一人の下半身は裸で女の悲鳴が酒場に響く。周りにいる客は同類なのか口笛まで吹き煽りだす。そんな中に老人と美女が現れると酒場中の視線を釘付けにしてしまう。
「はぁ~まったく嫌ですね。生まれも育ちも悪い連中って奴らは、同じ空間にいるだけで汚れる気がします」
「ベリル、グダグダいってないで座れ。お~い注文いいか」
女が襲われてる中で二人は気にもせずテーブルにつくと手を上げ店員を呼ぶがこない。辺りを見回すと端の方で顔を張らして気を失っている男とカウンターの側で震える中年に気付く。
「……まぁいいか。おいベリルこれからについてだが」
「随分と変わりましたね。なんか前にあったギラギラした気持悪い空気が消えたねぇお爺さん」
「俺も驚いてる。やはり性欲ってのは雄にとって重要だったらしい、いろんな事が冷静に考えられるってか……上手く言えないが、あそこで襲われてる女の裸見ても何も感じないんだ」
二人が話してる最中に中央を割るようにナイフが勢いよく振り下ろされテーブルに突き刺さると下半身裸だった男が息を荒げベリルを見る。
「ハァハァ~こんな上玉初めてみるぜぇ~」
ベリルに伸ばす手をカズヤは掴んだ。男は驚いたが性欲が高ぶってる状態で邪魔されたので握りつ潰す勢い力を入れたが違和感がある。外見は人間の手に見えるが感触が違う。
「老いたが単純な握力ではまだまだ人間には負けないな、どれ次は」
男の腕を上に勢いよく上げると男は腕を固定されたまま宙に浮く。
「腕力も問題ないな、しかし竜って奴は本当に化物だな。老いてもこれだけの力があるのか」
「てめぇなんだ――…うぎゃあああああああああ」
握っていた手を握り潰すと肉は避け骨が突き破って血が水鉄砲のように漏れる。それが合図となり見ていた傭兵なのか盗賊なのか見分けがつかない連中が一斉に襲い掛かってきた。
正面から襲い掛かってきた奴には前蹴りを入れると吹き飛び木製の壁を突き破り外に放り出された。背後から斬りかかってくるのが見なくてもわかる。振り向き様に裏拳で合わせると剣に当たり刀身が砕け散る。
「老化も捨てた物ではないだろう半人前」
「竜に同化した分だけ耳や目が前よりもよくなってやがる。ただ力と体力の低下は痛いな。竜も老いには勝てないのか」
「老いて強くなる生物など我は知らん。命ある者の宿命と思い諦めよ」
ただ少し拳を合わせるだけで酒場の男達は飛ぶ。足を止めようと蹴ると足が千切れていく。素手のカズヤは10人はいた男達を破壊しつくし酒場を血の海にしテーブルに戻るとベリルが肘を立てて不機嫌な態度を表していた。
「お爺さん。私はね今日散々金集めで疲れているのでここには食事をしにきたんだよな。それがこんな生臭く血だらけにしてどーすんの!! 食欲失せたじゃない!!」
「ベリルお前には協力できない」
「は?」
表情一つ崩さずカズヤは淡々と語る。
「俺はお前で童貞を捨てたかったから協力関係にあったが性欲がなくなった今ではお前といる理由がない」
「ここまで最低だとは思わなかったですよ。心底私とやりたかったからいるだけでそれがなくなったら捨てるんですね」
「そうだよ。お前なんて性欲処理以外に何の利用価値があるんだ? だいたい母親の復讐したいんだろ? だったら俺みたいな最低野郎に頼らず一人でやれよ」
テーブルが真っ二つになりベリルが剣を抜いていた。カズヤは座ったままベリルの炎のように怒りで染まっている顔を見ている。二人の殺し合いまで秒読みが開始されるとレグナの声が響く。
「半人前よ、ベリルはお前の娘ぞ」
その言葉で二人の殺意が一瞬で消えた。
「ベリルの母が強力な子を産むために飲まされていた竜の血は我のだ。つまり我の血を継いでおる。そして我と同化しているお前も我、つまりはベリルは娘ぞ」
「お、おい糞ドラゴン。お前いきなり何を言い出すんだ」
ベリルもカズヤも動けなかった。
「黙っておこうと思ったがさすがに我の子を我が殺すとなると気が滅入る話になりそうだったのでな。そもそも親子で子作りするなど人間はどうか知らんが竜の間では禁忌じゃ馬鹿者」
そこでようやく動いたベリルが剣を鞘に戻すと座り込み膝を抱えて震えだす。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……ありえないあえりえないあり……嘘だ」
次に動いたカズヤは目元を手で覆い天井を仰ぐ。
「おいふざけんなよ……なんで童貞なのに子供がいるんだよ」
その夜二人は朝まで互いに口を利かず呪文のように目の前の現実に弱音を吐き続けていた。




