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傭兵達が次の拠点に移るためにテントを畳み武器を集め準備してる中でソウジは殴られ続け真っ赤に腫れた頬と紫に膨らんだ目蓋の顔にしながら胡坐をかいていた。



「……」



完敗だった。若い頃に嫁と子供を失って馬鹿相手に喧嘩を何度も繰り返したが負けた事など一度もない。父親が教えてくれた技術がそれほどに圧倒的だったが本物と出会った。


年老いた体のせいに出来ないほどの完敗。言い訳が何一つ思いつかない。格が違うとはこーゆ物かと思い知り沈みかけている夕日を見る。



「やぁお爺ちゃん傷はどうだい」



「見てわからねぇのかよ嫌味な奴め」



シゼルも隣に座ると不思議な違和感を覚えるが気にしない。



「おめぇなんでその歳でそんな強いんだよ。おかしいだろ」



「……皮肉なもんでね。母親から才能を受け継ぎ、父親からは戦い方を幼い頃から叩き込まれた結果だよ」



「ろくな親じゃねぇなそりゃ」



二人は夕日に向かい思いつくまま言葉を並べていく。



「父親がね、魔王なんだよ」



「ブッ!! ハハハハハ!!」



いきなり吹き出したソウジにシゼルは怒りを覚え太い腕に血管を浮かばせていく。



「どうせ悪の親父を倒すために旅をしているとかそんなんだろ~泣かせるねぇ~」



「何がおかしいんだよ!! いいじゃないか!! てか人の家庭の事情でそこまで笑うの失礼じゃない」



「いやぁ悪い悪い。あまりにも出来すぎた話で笑っちまったわ、んで倒せそうなのかよ」



傭兵達が馬に荷物をくくりつけ武器を乗せると出発の時間が迫っていると気付きソウジは腰を上げた。



「父さんは素手での戦いなら負ける事がない、そう言われたから私は素手で挑んだ。才能もある自信もあったし、何より訓練をサボった事もなかったけど……負けた」



「それで追い出されて今に至るのか。しかし凄いなお前」



若輩の身でありながら傭兵達を纏め上げ指揮するのは並大抵ではない。持って生まれたカリスマ性だろうと思うと見下ろしている女の子は本当の天才だと嫉妬してしまう。



「さて俺はどーだった、入団か? それともここでお別れか」



内心を隠すように言ったが緊張は隠せない。結果は無残な敗北。期待薄にもほどがある、見上げてくるシゼルは満面の笑みだが答えは読めない。



「保留」



「あぁ!! なんだそりゃ」



「お爺ちゃんはまだ伸びそうだし、鍛えながら考えるよ。とりあえず今日はついてきて」



唖然としてしまう。この老体をどう見たら伸びると言えるのかとソウジは表情を失う。こいつは本物の馬鹿じゃないかと思うがすがりつくしかない。



「まぁ俺としては食いぶちと寝床が確保できかたらいいか」



そこから傭兵団に混じり移動するが馬に乗れず徒歩な上に重い荷物を持たされ足腰の悲鳴と戦いながら深夜に目的地につく。


木製の看板には「キャッスルロック」という文字が書かれ店内からはアルコールの匂いと野太い男達の笑い声。酒場に傭兵団は到着し酒好きのニックが勢いよく扉を開けた。



「マスターきたよぉおお~いるかいぃいい」



カウンターで肘をつきながら大欠伸をしていたマスター呼ばれている女は露出度の高い服を着ていた。豊満な胸は青い布一枚で長い足も青い布で足首まで伸ばし顔の火傷跡と長髪の髪も青いバンダナ……青色で武装しているようだった。


店内はゴツイ男同士が互いの武器を自慢し仲良く飲んでる者もいれば互いに熱くなり武器を抜きあう輩もいた。女が壁際に立っていたと思うと娼婦にしか見えない。



「客層最悪だな」



「やぁロック久しぶり」



カウンター越しに座るとロックと呼ばれたマスターは笑顔でシゼルの顔をつまむ。



「会いたかったよぉ~シゼル~ニノちゃんは元気にしてる?」



「えぇまぁお母さん元気です。紹介します!! 遅咲きにもほどがある新入りソウジです!!」



ロックはソウジを頭の先から爪先まで見ると溜息を漏らしコップに酒を注ぐ。



「あんたねぇ~人手は足りてるだろ? なんでこんな老人? せめて若い奴なら……てどーしたのその顔」



ボコボコの顔を指摘され言いたくないが隣でニヤニヤしているシゼルを見てプライドが負けて言う「こいつにやられました」と。



「ハハハ!! おいシゼル!! いきなり新人痛めつけてどーすんだい」



「顔いじらないでよぉおばさん」



「誰がおばさんだい!!」



おばさんという言葉に過敏に反応を示したロックはどう見ても30代どころか40代にさえ見える。本音を言おうとしたがソウジは堪えてカウンター席に座る。



「紹介するね。ここのマスターでロックさん、かつて父さんが通ってたのがこの店なんだよ」



「あいつが魔王で今では世界の頂点とか言われてるのが未だ信じられないよ。ただの泣き虫で気持ちの悪い中年だったんだから……あ、そうそうこの前あいつ来たよ」



その言葉に店中の男達が反応しロックに視線を集めるが昔馴染みがきたぐらいにしか思ってない。



「なんだか国一個丸々落としたら金がやばいくらい入ってお裾分けだってたんまり金貨置いてったよ」



「おいロックそんな金受け取っていいのか!!」



ソウジが思わず突っ込むとダラーとカウンターに頬をつけコップの中に指を入れて氷を混ぜながら言う。



「どうせ誰が王様になっても皆戦いやめないんだから今更他人の国がどーなろうと気にしないよ~私はここで気楽にやってればいいし」



「ロックはこーゆ性格だし、言ってる事は正しいんじゃない? お爺ちゃんは納得できないって顔だね、てかお父さんなんか言ってた!!」



「あぁ最近は落とした国の女を食い物にするのが楽しいってさ、娘にはお前弱いからあんま無茶すんなと伝えてだって」



拳を握り締めカウンターを力の限り叩くと木製の板は粉砕してしまう。



「あんのぉおお糞野郎!! 言ってくれるじゃないの!!」



カウンター席とは反対側で騒いでるニックが歌い上機嫌になって踊っているとニヤニヤしながら絡んでくる。



「いよぉおおロックちゃん今日も若作りしてる顔が素敵だよぉギャハハハ」



「ほぉ面白いね。酒飲む事が仕事でお荷物ニック、もう飲めなくしてやろうか」



「ギャハハハ!! 出来るもんならやってみな俺は強いぞぉ~それこそ魔王テツだって倒せるぜ」



コップに注がれた酒をチビチビ飲んで酔いが回ってきたと思ったが魔王の名前を聞いて酔いどころか顔から血の気が引いた。持っていたコップも落としニックに詰め寄る。



「テツだと……おいニック。魔王のフルネーム教えろ!!」



恐怖に怯える顔で肩を掴まれたニックも何かを察したかふざけた口調が出なくなり全力で掴まれた肩の痛みに顔を歪める。



「どーゆ事だって言ってんだ!! おいニック!!」



「ちょっとお爺ちゃん!! いきなりなんだよ」



シゼルに無理矢理引き剥がされると興奮が収まらなくカウンター席に座り指先が震えだす……あってはならない事に震えが止まらない。



「鉄鉄【クロガネ・テツ】だよ新入り、なんだいまさか知り合いかい? あいつもいろんな奴と出会ったって昔話するからねぇ」



ロックの言葉に頭を抱え呻き出す。わけのわからない世界にきてそこでは魔王が支配しその魔王の名前が――


かつて生まれてきた子供につけた名前なんて信じられない。





 

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