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悲鳴を上げながら弾丸の如く飛来してくる連合軍の兵士を叩き落し鋼と血の雨を降らし続けるが人間弾幕は止まらない。重量に加え速度もあるとこれほど厄介な
飛び道具はないと義腕と斧が悲鳴を上げていく。
一度でも操作を間違えば肉と鋼の塊が直撃し勝負は決まってしまうとバルサスは顔から焦りと恐怖を漏らしながら必死に抵抗していく。長い義腕は蛇のように駆け回り迎撃していくが予感がする。
「うぉらぁああああああああ!!」
あの馬鹿げた声を上げながら馬鹿げた戦法を実行しているカズヤへの敗北の予感がする。対抗策が思いつかない。長い傭兵生活の経験の引き出しを開けても答えは何も出てこない。
「……ふん、予感などに踊るほど俺の戦いは甘くはなかったぞ」
折れそうな心を自身の言葉で奮い立たせ重心を低く構える。飛来してくる連合軍兵士の動きを一瞬で予測し行動に移す。義腕を肩から勢いよく外す、両側に弾けるように外れ地面に勢いよく落ちて砂煙を上げるとバルサスの身を隠す。
「いくぞ獣、その首を貰い受ける」
人間弾幕の下をバルサスは疾走する。対竜装備を捨て生身で使い慣れた剣を手にカズヤに襲いかかる。一方的に攻撃できるはずの10メートルという距離が地獄への道へとなり金属で固めた兵士が投げ込まれてくるが避ける。
一度避け二度目で肩に僅かに当たっただけで後方へ吹き飛ばされそうになるが足腰で堪え前へと体を放り込む。後もう少しという瞬間に最後の大物が飛んできた。
カズヤが手に持ち武器としていた極太を投げ込んできた。その大きさと速度、更に距離が近くなってしまい避けるのは間に合わないと咄嗟に剣を盾代わりにした本能的な行動で勝負は決まった。
「ふぅ~……ようやくくたばったか」
極太の直撃を食らったバルサスは後方に大きく飛ばされるが浮くことはなく、腰を地に打ち付けるようにし剣で極太を防ぎながら地面を削り滑るように飛んでいき、ようやく止まったと思い後方の魔王軍から安堵の息が漏れたが。
そのまま静止したまま動かない。極太が勢いを無くし地面に落ちてもバルサスは微動だにせず、そこから数秒後に前のめりに倒れ生命の終わりを告げる。
「さて、魔王軍諸君!! そして連合軍の兵士共!! ここから生きて帰りたきゃ懐の大事に抱えてる金が入ってる袋置いてきな」
魔王軍は強者であるバルサスの死、連合軍は仲間を軽々投げ飛ばす怪力の恐怖の前に混乱しカズヤの要求に数人が従うと連鎖し次々と金が入っている袋が投げ込まれていく。
数では圧倒している両軍は目の前で見せられた死闘で心は折られ生き残りたいという保身で要求を呑んでしまう。袋を投げ込んだ魔王軍も兵士もその場かれ逃げるように走り去るという光景の中カズヤは金を拾う。
「へへこれでしばらくは生活に困る事はねぇな」
「我の力をこんな事に使われるとは……残酷な事だ」
「あ~はいはいそうですね。でもね、これが生きるって事なんだよな」
地面に手を伸ばし袋を拾う動作の最中に呼吸がおかしくなる。それは竜になって初めての息切れ、そして膝が落ち呼吸が乱れ目の前が暗くなっていく。
「ハァハァ!! なんだってんだいきなり!!」
気合を入れカズヤは極太を拾い上げ走った。まるで人間に戻ったように体が重く息が続かない。運よく敵との遭遇も少なく戦場を抜け出し岩が剥き出しの壁まで辿り着き身を隠すとまだ整わない息と戦う。
「ふむ、半人前貴様では駄目だったか」
「今……なんつったぁ!!」
「人間と我ら竜が交われば貴様らに絶大な力を宿すが所詮は交わる事のない種族同士……何らかの歪みが生まれたのであろう」
大きく刻まれた岩の壁に隠れながらレグナの言葉を聞いていく内に顔が青ざめていくのがわかる。
「我が契約してきた人間は今まで高位な存在だった。なんらかの魔術や魔法で強化するか血統がいい奴もいたわい。そのような人間だったからこそ契約後も歪みは生まれなかったが……半人前、貴様生まれはよいのか」
「つまり貴族様か魔法使いでもない限り竜と契約するのは危険だって事かよ」
「貴様は契約さえすれば無限の力が手に入ると思っていたのか、なんと愚かな。黙っていたのは貴様を見極めていたからだ。納得だな、貴様から魔の気配も高位な血統の臭いもしない」
生まれも平凡な家庭。血統なんて大層な物とは無縁、カズヤは自分の置かれた状況に恐怖し全身を震わせていく。
「おいその歪みってなんだよ!! 何が起こるんだよ!!」
「さぁて固体差がある物でな、我と貴様の相性次第だ。運がよければ皮膚が腐ったりはしないだろな」
「おい……ふざけんなよ!! どうなってんだよぉおおお!!」
絶対の強者であったカズヤは逃げ隠れ叫ぶ。これから自分の身に何が起こるかわからないという恐怖に怯え怒り叫ぶ……遠藤カズヤ、病名不明、効果不明の呪いにかかってしまう。




