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下品な笑い声とアルコールに臭いが充満しマスターが怒りの声を上げる騒がしい酒場でカズヤはテーブルに肘をつき手の甲に額を乗せていた。周りの空気とは真逆で酷く落ち込んだ息を漏らす。
「やっちまった」
その場のノリとあまりの美しいベリルに魅入られ大企業とも言えるルーファスを裏切り再び傭兵生活に戻った現状を後悔していた。目の前では高そうな瓶に入った酒を捨てるように自分に流し込むベリルがご機嫌に笑っている。
「ヒャハハハ!! おっさん暗いんだよぉ~せっかくの門出だ。派手に祝おうぜ」
外見は言葉を失うほどの人間離れした美しさを持つが中身はぼったくりスナックにでもいそうなヴィッチ女。再確認すると自分の愚かさに怒りすら覚えるが未来の事を考える。
「そんなにやりたいかぁおっさん~悲しいねぇ~惨めだねぇ」
「クッ!! おぉよ!! だがな惨めでもなんでも外見と体だけなら一級品のお前を選んだんだ、今更後に引けるか!!」
「……なぁおっさん。どーしたらやれると思う? このパーフェクトな私と釣り合わないおっさんが」
悪戯な笑みを浮かべ顔を近付きてくるベリルに一瞬その美しさで周りの音すら聞こえなくなる。しかし思いつかない。言われた通りに今の自分には微塵も魅力がない事はわかる。
「ヘヘ~……そうだなルーファスが必死こいて何度も立て直したベルカをぶっ潰すってのはどうだ!! そしたらやらせてやる!!」
「はぁ!! 待て俺は魔王の方をぶっ殺したいんだ、ベルカまで敵に回したらやばいだろ」
「ヒヒッヒヒ!! 今更何言ってんだよ~ルーファスをあそこまでコケにして敵になってないとでも思ってるのかおっさん」
そこで気付きカズヤは再び視線を落とし溜息を吐く。本来ならルーファスの協力の元にテツに近付くはずだったが一時の感情の流れのせいで全てが台無し。
「はぁ~俺って奴は昔からいつもいつも……なんで少しも学ばないんだよ!!」
「どうだいおっさん悪い話だけど、この体好きに出来ますよぉ」
椅子から立ち上がりわざとらしく形がよく大きな胸を持ち上げ腰を躍らせ見せ付けるとカズヤは飲みかけの酒を一気に流し込む。
「もういい!! 38年間何も学ばなかったんだ!! 今更どうでもいいわ、乗ってやるぜベリル!!」
「いいねいいね、しかしあんたがその気になれば無理矢理でも襲ってきそうだけどな」
「冷静になって考えたんだ。やはり初めての時はお互い頬を赤らめ手が触れるだけでキャツとか言いながら少しづつ段階を踏んだ上で絶頂すべきだと思うんだ」
ベリルの顔から酔いが消え去るほどのカズヤの言葉だった。もうすぐ40の男から飛び出した言葉は素直に気持悪さをベリルに植えつけた。
「それよりそんだけ飲んで金ないとか言うよなベリル」
「平気さ、今までぶっ殺した兵士から金は奪ってある。ルーファスの部下だけあって懐は中々厚くてな」
「よし飲むか!! 魔王の糞野郎をぶっ殺すのと目の前の女と初夜を迎える前祝いだ!!」
ベリルが目を細め気持悪さで鳥肌を立たせる誓いをカズヤは立てて飲み続けていった。




