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地面の植物と土を巻き込むように回転を繰り返し転がっていく。ルーファスから支給された鎧も凹みが目立ち汚れで銀色の輝きはもうない。回転を無理矢理片手を地面に突き刺し止めて膝立ちになり追撃に備えると女はニヤニヤと腕を組み笑っている。
「おい半人前。貴様勝算あってのふざけた物言いだったんだろうな」
「勝算よりもっと頼れる物があるさ……性欲だ」
額から流れる血が片目に落ち視界を奪われるがカズヤの全身はかつてないほど滾っていく。
「男にとって性欲はもっとも原始的で効率的な行動原理なんだぜ」
「……これが誇り高き竜の言葉とは思いたくないわ」
機動力、技術、経験。全てが劣っていたがカズヤに唯一分があったのは腕力。一度タックルを止められたが組んだ瞬間にわかった。単純な腕力なら必ず勝てると。
「すぅ~……しゃぁ!!」
再び突撃していく。なんのフェイントも小細工もない、元交通誘導員のカズヤにそんなスキルはない。ならば自分の唯一の武器を握り締め拳に変え届く距離まで駆けていく。
「おじさんみたいな馬鹿初めてみたよ。そんなにやりたいか!!」
「おぉよ!! やりてぇな!!」
女は上段から木刀を振り下ろす。真っ直ぐ突っ込んでくるカズヤに合わせるのは容易で体重を乗せた一撃を見事に決めカズヤの体が頭から地面へ向かっていく。
追撃のニ発目を繰り出した瞬間にグラついてたカズヤの動きが変わる。握り込んでいた拳を一気に振り抜き女の胴体を貫く。先程とは逆に女がたった一撃で胃液を撒き散らし森の中を転がっていった。
「ヘヘ~どうだい見たかよ!!」
「この大馬鹿者が!! 貴様の戦い方は知性も品性も誇りもないわ!!」
「あ~痛い。凄く頭から血が出てる」
竜の体の頑丈さを利用した相打ち作戦に出た結果見事女を吹き飛ばし勝ち誇るがまともに脳天に食らい意識が一瞬消えた。
「さぁ~て大人しく転がってろよお嬢ちゃん~お楽しみだ」
下衆の笑みを浮かべ近付いていくと息を乱し震える手足をなんとか動かし樹木に寄りかかる女がいた。美しい女が弱っている光景だが興奮したカズヤには餌にしか見えない。
「へへやる前に名前ぐらい教えてくれよ。初体験の相手なんだからな」
「……近寄るんじゃねぇ」
女の豊満な胸に手があと少しで届きかけた時に声が響く。
「そこまでですよ」
振り返ると品はあるがどこか捻じ曲がったような笑顔でルーファスが森の中に派手な王族の衣装で立っていた。
「彼女の名前はベリル。手がかかる子でしてね、よくぞ捕らえてくれましたねカズヤ。働いた分の金は出しますよ」
「邪魔すんなよ。今からやろうって時に、後1時間くらいあっちいっててくれ。事が済んだら呼ぶから」
目が血走り息を乱すカズヤを見てルーファスはわざとらしく溜息をつき片手を上げた。
「うげぇえええええ」
太ももに鉄の槍が刺さる。太さは通常の槍の倍はあり地面に深々と突き刺さり一撃で動きを制限されてしまう。
「ベリルは貴方みたいな薄汚い傭兵には手の届かない存在です。しかしがっかりですねベリル、まさか力のみで倒されるとわ」
「あれだけの数の騎士達を送り込んできてよく言いますねお父様」
「我が娘ながら誇れるのは美しさだけで他は傭兵と大差ないとは嘆かわしい」
二人の会話から親子と気付くカズヤは本音が出てしまう。
「似てねぇ」




