2
カズヤは嫉妬していた。学生時代から特に外見に秀でた者への嫉妬が激しかった、ただ外見がいいだけで女が寄ってくる男に醜く嫉妬を繰り返した。自分はなぜあの外見に生まれなかったのだと、あの外見さえあれば……歳をとり中年になり恋愛そのものに諦めをつけていたが現れた女へ嫉妬の炎を燃やす。
嫉妬の根源は単純。カズヤは38歳にして童貞。過去に出会った中では童貞をネタに笑いをとる奴もいたが考えられない。カズヤの中では童貞とは恥ずべき証。隠し通しいつか捨てる物。
しかし中年で月20万も稼げない男に誰がくるか、外見は肌を焦がし伸ばしきった黒髪で清潔感の欠片もなし。何より将来性が消えている。
「うらぁあああああ!!」
女の神がかった外見を見て嫉妬で体が裂けそうになりながら斬りかかる。その嫉妬が子供のように自分勝手で他人から見たら失笑物だとわかるが止まらない。
「勢いだけは凄いねおじさん。でもそれ以外は酷い」
今までは竜の力のおかげで人間相手では負けるわけがないと思っていたが女は違う。今まで出会ってきた誰よりも速かった。強化された動体視力でも追いつけない。
「剣を振っているんじゃない、ただ振り回してるだけだね!! あ~弱い弱い」
笑うとその美しさに目を奪われ木刀を持ち踊る姿は輝く。動作の全てが美しい。そんな美しさにカズヤは醜く襲い掛かる。
「ほらそこ!!」
気付けば顔を木刀で薙ぎ払われ鼻から血を垂らし唇を切っていた。
「おい半人前、少しは落ち着け」
レグナの言葉に一度大きく息を吐き女を見る。構えもなしに木刀を垂らし腹が立つほどに美しい笑顔を浮かべている。
「俺は童貞だ」
「はぁ!! おじさんあんた頭大丈夫ですか」
「お前は俺の童貞を捨てるほどの価値がある。だから全てを賭けてお前を倒し童貞を捨ててやる」
自分から隠したい童貞を告白したが不思議と恥ずかしさはなく逆に決意が固まる。これほどまでの決意はなかった。
「キャハハ!! おじさん恥ずかしくないの!! その歳で童貞ってアハハハハ!!」
「恥ずかしいさ、他人に言えば間違いなく馬鹿にされるか哀れみの目で見られるだろう。だから……俺はここで童貞を断つ!!」
「我が契約者史上最低の理由で戦う半人前だな」
足腰に力を入れ地面を踏み抜き重装備のカズヤは巨大な金属の弾と変貌して突っ込む。剣は捨てただ突っ込む。その速さは放たれた矢を軽く凌駕し常人なら反応すら出来ない。
金属の重さと強度と加速から生み出される突撃で踏み抜いた地面は爆発するように弾けカズヤは一直線に向かう。狙う美しさを振りまく口悪女。
「ハハ、そんな狙いがわかりやすい攻撃が成功すると思ってるんですかおじさん」
敵の声は思考の外に追いやりただ目標に向かい飛ぶ。その威力はたとえ相手が巨人だろうが倒す自信があり加速する景色の中で吼える。
「んなぁああああああ!!」
肩からぶちかまし直撃の感触に下げた顔で笑う。確かに人間に当たった。避けられたならば後方の樹木をなぎ倒しているはずと考えるが、そこで全身の汗が暑さを失っていくほどにある事に気付く。
なぜ止まっている。直撃したならば女を吹き飛ばしいるはず、なのに肩から伝わる感触は女の大きな乳房。革の鎧越しに伝わる確かな女特有の柔らかさがある。
「しかと受け止めたよ童貞おじさん」
顔を上げると肩に乳房を押し付けカズヤの体を掴み足腰をふんばり地面を削り突撃を止めた女が笑っていた。
「この世界の女共はどいつもこいつも馬鹿みたいな力してんのかよ」
木刀の柄を鼻に叩き付けられ地面に転がるカズヤは童貞を断てずにいた。




