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あれだけ流してた汗も弱音も出てこなくなる。ただ視界に入る魔王軍と裏切られた騎士達を倒していく。拾い上げた盾や槍を振り回し暴れまわりながらカズヤとラットは嵐の中を駆けていく。
疲労と痛みで鉛のように重かった体が不思議と軽くなりカズヤは恐怖した。深手を何箇所も負っているはずなのに痛みがない。軽くなったのは血が抜けていくからであろう……膝を落としてしまいたい気持ちに気合を入れ走る。
「ハァ……ふざけんな」
「カズヤァ!! 止まるなよ!!」
「何が連合軍だ!! 俺達傭兵をなんだと思ってんだ!!」
拾い上げた魔王軍の鎧も何度も攻撃され半分は砕け無数の切り傷から止まらない血を落としあがく。
「どけ、邪魔だぁあああ!!」
弱りきった体では竜の力を上手く使えず盾で殴りかかっても振り回されてしまう。何度も森の中で足をとられ転がり回り泥塗れになりながら戦う。拳を振り回し片手に持った盾で薙ぎ払う。
「死んでたまるかよ、俺の人生は……こんなんじゃねぇぞ!!」
本当に何も生み出さず、何も与えられず、ただ浪費するだけの人生だった。敵に囲まれた森の中でカズヤはそんな人生を振り返り奮い立つ。
「たかだか38年くらいの時間じゃ俺は満足しねぇぞ!! できる限り長生きして自分勝手に楽しく生きてやる!!」
「おいおいカズヤお前とうとう気でも触れたか」
隣に走るラットを見ると肩に槍が刺さり鎧も貫通してるほどの斬り傷がある。致命傷は避けているが互いにボロボロだな笑い合う。
「よく聞け糞ったれが!! まずは魔王とか大層に呼ばれてるテツをぶっ殺してそやる!! てめぇらの頭を殺してるんだ」
迫り来る魔王軍に叫ぶと盾を投げ先頭集団を崩す。人外となった腕力で殴ると人間は吹き飛び砕けていく。多数に同時に襲われるが常識離れした下半身の力からら生み出される突進力で抜け出す。
ただ体を力任せにぶつけるだけで重装備の騎士も魔王軍も倒れていく。武器を拾い上げ敵にぶつけまた拾い……そして限界はきた。
「ハァハァ……おいレグナ」
意志とは関係なく膝が落ち両腕も上がらない。後ろを振り返るとラットが戦っている。
「ふむ、半人前よ。中々の暴れっぷりだったぞ、しかしここまでだ」
「おい何言ってんだ」
「血の流しすぎと傷が多すぎる。まだ馴染んでない体では治癒は追いつかぬ。やれやれとんだ外れを引いたもんだな。次に我を宿す者はいつ現れるか気長に待つとするか」
その声色は自分から興味を無くしてるような音だった。カズヤが何度も経験した事のある現実を感じる。
「おい相棒よ、見限ったな」
「悪く思うな。あそこの人間もよく戦ってはいるが長くは持つまい」
微かにだが足は動く。地面を這いながらカズヤは進む、蟻の様に惨めで情けなく人間の尊厳を捨てたように這う。
「半人前、これも運命だな。よくある話だ……どんなに固い意志と決意があろうと戦場ではあっけなく散るなぞ」
「うるせぇ!! いいから体を動かせ糞竜が!!」
「立てカズヤ!!」
ラットが腕を引っ張り上げ肩を貸し二人は進んでいく。速度は落ち後ろから無数に敵の足音と鎧を揺らす金属音が聞こえてくる。
「クソがぁ~……こんな所で」
「おい!! 森を抜けたぞ!!」
景色が開けた。




