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嵐の森の中はカズヤとラットの足から速さを奪う。魔王軍から奪った装備の中に運よくサイズの合う皮のブーツがあり履き走り出すが雨でぬかるんだ地面と草木が邪魔をし思うように進めない。
シャツを着込みその上から鎧を装着し腰には使い込んだ鞘の中に剣が納まっていた。裸から始まったにしては十分だが後方から襲い掛かってくる魔王軍の数を考えると状況は最悪。
どこまで進んでも森の中……吸い込まれるように走るしかない。動いてるせいか傷の塞がりが遅い。竜の治癒能力も万能ではなく少しづつだが血を流し運動能力も低下していく。
「糞ったれが!! こんな所で」
ふとカズヤは自分の人生を振り返る。こんな状況なのにやけに鮮明に思い出す事ができた。
「……」
中学時代カズヤはクラスで浮いていた。他人を見下し自分が特別だと思い込んでいた救いの無い子供だった。それが高校に入っても変わらなかった。特に勉強ができたわけでもなく運動が得意だったわけもない癖に自分は違うんだと思っていた。
大学に入り数年間で見事に堕落した。一度楽を覚えてしまうと転げ落ちるように努力が投げ捨てた。大学を途中で辞めた結果就職に失敗し気付けばフリーターにハマり何時か就職すればいいかという考えで生きる。
そうして30歳まで生きていた。本格的に就職が難しい歳になるがまだ就職活動しない。資格も無ければ学歴もたいした事が無い、そうして誘導員になり狭い世界で王様気分を味わい8年が経過……そこでようやく気付く。
「確かに俺は特別だったのかもな。悪い意味で」
「あぁ何言ってんだカズヤ!!」
「フッなに少し昔を思い出しただけだぜ」
延び切った黒髪をかき上げ格好をつけた瞬間に頬が厚くなる。痛みと出血で矢を放たれ頬を霞めたと気付くと前方で鎧を着込んだ騎士がボーガンを構えていた。
「敵じゃねぇよ!! お前らに雇われた傭兵だ!!」
両手を挙げ近付いていくと二発目が射抜かれ矢が飛んでくる。竜のおかげで手に入れた動体視力でなんなく避けるが騎士達が森の中から何人も現れ次々に矢が飛んでくる。
「カズヤ伏せろぉおおお!!」
ラットに頭を掴まれ泥にまみれた地面に倒れ込むと後方に迫っていた魔王軍に命中していく。
「あいつら俺ら傭兵も殺すつもりだ」
「ラットよぉ~そりゃねぇだろ。なんのために雇ったんだよ」
「たぶん俺達に払う金なんて最初から用意せず途中で皆殺しするつもりだったんだろうな」
ラットの言葉に雨で濡れた体が更に冷え切る。
「連合のどこかわからねぇがよほど腐ってる奴が上にいるな。前には騎士で後ろからは血に餓えた魔王軍……どーするよカズヤ」
カズヤは樹木が何本も密集してる所に移動すると身を潜める。そこで騎士達と魔王軍の激突を見てやり過ごそうとしたが魔王軍の数が多すぎる。見つかるのは時間の問題だと思い鎧を脱ぐ。
「あぁ痛てぇえ!! 誰か手を貸してくれ!!」
「なるほど!! いでぇえええええ!!」
二人は叫び散らし負傷した魔王軍を演じる。魔王軍の傭兵は装備も統一性がなく混ざるのは簡単だと思っていると数人の男達が近付いてきた瞬間に剣を抜く。
「おい!! 待て待て待て!!」
男達は容赦なく攻撃してきた。
「こいつら動けなくなった奴から金になりそうな物剥いでいくぞ!!」
まさに魔王軍らしい行動だった。仲間意識も統率もなく絶対的な数で攻めて込んできた。
「糞がぁああああ」
数人の男達に突撃し拳を振り回し吹き飛ばすと息が上がってくる。体が重い、目の前が眩み吐き気が込み上げてくる。
「おいカズヤ!! フラついてないで走れぇ!! どこでもいいから逃げるんだよ」
ラットの声が頭の中で反響し続けなんとか歩を進めていく。
「戦いの面では圧倒できるがまだまだ竜になりきれてないのか……やはり人間という種とは相性がよくないのう」
レグナの小言にも反論する体力もなくなりかけるが走る。脇腹から血を垂らし肩を激しく上下し片目を閉じ酷い顔で残された力を全て逃走に使う。
「死にたくねぇよ、こんなところでよ……嫌だ、嫌だよソウジさん」
誇りもかなぐり捨てて走る。今までの生きてきた時間なんてゴミのように捨ててしまっても構わないような時間だったが、いざ失うとなると恐怖が湧き上がり大事に抱え込むようにカズヤは走る。




