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崖から迂回して海岸まで降りてる最中に傭兵達は様々な行動に出る。数人で纏まり逃げ出す連中もいれば覚悟を決めて武器をホルスターから抜く戦士。過酷の場所を選んだだけあって逃げる人数は10人にも届かなかったが誰しもが不安を顔に出す。
泥が靴底につき足取りを重くし近付いてくる荒れに荒れている海岸を見ると希望はない。暴風で踊っている波が死神の手招きに見えラットが小さく息をつく。
「いいか前には出るなよ。他の連中に気付かれないように静かに森に入るんだ、気付かれると気性の荒い奴らが襲ってくるかもしれないしな」
「ラットお前こーゆ事なれてるだろ」
「まぁこの家業で20年以上食ってる経験ってやつだ。勇敢さより臆病で退路を最優先で用意しろってのが俺の持論だ」
自慢げに胸を勢いよく叩くラットを頼りになるのかわからないとカズヤが息を漏らし再び海岸へ視線を落とした瞬間に隣の傭兵の頭が貫かれる。何事かと見ると頭部に投槍が貫通し嵐にも負けない声が響く。
「走れ!!」
ラットが我先にと駆け出し海岸まで降りて行くと傭兵達全てが続き現状を目の当たりにする。どこから現れたのか魔王軍が既に海岸に雪崩れこみ後方には嵐の中小船で向かってきている。
傭兵達の役80人なんて問題ならないとわかる数が迫ってきている。もう周辺に気付かれないなんて考えてる状況じゃないとラットは森に向かい走り出すが遅い。
大群と化した魔王軍の群れに飲み込まれてしまう。乱戦になり森までの間に壁が何枚も出てしまいラットが焦る中カズヤが出る。
「おい傷はもう治ったか!!」
「完全ではないが支障はないはずだ半人前!!」
単純な攻撃だった。拳をハンマーのように振り回し目の前の敵に叩きつけると頭部が弾け飛び溢れ出る血を巻きながら体が後方の魔王軍を巻き込み飛んでいく。
「はぁああ!! なんだそりゃカズヤ!!」
人間と竜との力の差は圧倒的だった。一切の衣服どころか装備すらない全裸の男が一物を揺らしながら腕を振り回して次々に魔王軍を破壊していく。
「ハハ……ハッハハハハ!!」
闘争の喜びが全身に毒のように回りエネルギーに変えていく。こんなにも人間は脆いものかと拳を振るう。レグナの言う通りだった、まさに生物としての格が違いすぎる。
「おい!! カァアアズヤァアア!!」
「あぁ!! なんだぁ!!」
「お前が強いのはよくわかったがこのままじゃ殺されるぞ!! もうほとんどやられた!! 退路を開いてくれ」
いかに竜の力が強大だとしては所詮は個、数え切れない大群に押し殺されてしまう。カズヤは逆方向に向かい突撃していく。魔王軍の死体から兜を一つ拾い上げ武器代わりに叩きつとにかく目の前の敵を倒していく。
「いっだあぁあ!!」
死角から槍の一突きが背中に入ると次に横から剣で斬られる。振り向き様のバックブローで二人の体を削るが予想以上に痛みが酷い。
「痛覚も強化されねぇのかよ!!」
「阿呆が!! そんな事したら貴様痛みで死ぬぞ!! それより血を止めろ!! 血液だけはどーにもならん」
囲まれてどこから攻撃がくるかわからない状況に舌打ちを鳴らし再び突撃していく。森への邪魔な敵を殴り殺し、掴み上げ投げ……退路が開ける頃はカズヤの体は傷だらけになっていた。
「己の体を過信しすぎだようだな半人前。所詮はまだ人間形態、数で押されれば敗北は必然ぞ」
「ちくしょうが!! もっと俺に都合のいい最強になれってんだよ!!」
後方から波のように押し寄せてくる魔王軍から逃げ延び森へ身を転がすとラットもいつの間にか追いついていた。
「お前すげぇな!! ほれこれ拾ってきてやったぞ」
魔王軍が装着していた鎧と衣服を受け取り着替え走り出す。回りを見るとラット以外いなく、たった数分の時間であれだけいた傭兵達は殺されてしまう。




