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馬の足が濡れてる大地を踏み泥を跳ねる音を聞きながらカズヤは馬車の中にいた。狭く詰め込まれたように雇われた傭兵達が隣、向かい側に座っている。無言で武器の手入れをする物や過去の戦いを自慢する者といたが誰の顔にも緊張が張り付いていた。
狭い馬車内の天井にランタンが吊るされた光で影が壁を走るように揺れ動く中カズヤは全裸でいた。海水で汚れた最後の衣服を破り馬車に乗り込み座ると誰も近寄らない怪しい変態男が出来上がる。
「半人前、お前はそれでいいのか」
「仕方ないだろ。装備も騎士に聞いたらくれねぇし現地調達だ」
窓もなく空調されない馬車内で汚い傭兵達の体臭に鼻を摘みながら耳を澄ますと聴覚も強化されてる事に気付く。鼓膜が破れそうなくらいの大粒の破裂音が響き叫ぶ。
「ああああ!! 糞!!」
外は雨。それも嵐のような大荒れだと音が教え大きく息を吐く。一番報酬がいい馬車に乗り込んだが回りの傭兵達もどこか普通ではない。皆追い詰められたような顔をしてる。無理に作り笑いをして話す奴、何かを小声でブツブツいう奴。
「まるで借金背負って高速バスで逃げ出すような奴らだな……まぁ借金なんて甘いもんじゃないか」
馬の鳴き声が響くと馬車は止まり固く閉ざされていた扉を勢いよく開けられると騎士数人が傭兵達を力づくで引っ張り出す。カズヤが外に出ると雨粒が全身を叩き予想してたより遥かに酷い嵐だった。
「ぶぁ!! おい騎士さんよ!! こんな中で何やらせる気だ」
「簡単だ、あそこを見ろ」
騎士が示した場所は海岸だった。崖の上から見下ろすと嵐で荒れ波がうねり上げ不気味だったが騎士は笑う。
「いいか!! 情報によればもうすぐあの海岸から魔王軍が攻めてくる!! 後方には連合軍の重要な拠点がある!! お前らの仕事は攻めてくる魔王軍の撃退だ」
説明を聞くと一人の傭兵が声を上げる。
「魔王軍はどんくらいいるんだ!! どんな装備だ!!」
「さぁな。お前らは戦い生き残れば金はくれてやる」
騎士の冷酷な一言を聞いて傭兵達は怒りより絶望を感じた。わかりやすい捨て駒だと言われてるようだった。
「お前らが全て殺されても連合軍の部隊が控えてるから存分に戦え」
誰もがその部隊を出せと口に出そうとしたが堪えた。これが傭兵家業だと言葉を飲み込むと一人の男が手を上げた。
「俺はラットだ。とりあえず協力して戦わないか」
馬車の乗る前にカズヤに絡んできた傭兵だった。長髪の赤髪を雨で濡らしたラットの呼びかけに数人が集まるるがほとんどが話も聞かず離れていく。
「よぉあんたはどーするよ。名前は?」
「カズヤだ。いい作戦はあるのか」
「ここは大外れの場所だ。まともにやったら生き残れない」
傭兵達は総勢80人、この数でどれだけの数が攻めてくるのかわからない海岸で戦う。ラットは数人を雨が当たらない樹木の下に集めると一枚の地図を広げた。
「さっき騎士から拝借したもんだ」
「手癖悪すぎだろラット」
「うるせぇな!! こんな所で死にたくねぇよな」
ラットが見渡すと誰もが頷く。
「まず海岸まで降りると後方に連合軍の拠点がある。俺達は一切戦わず拠点までいく」
そこでカズヤが声を出そうとしたがラズが片手を上げ止める。
「ここで相手の規模もわからん戦いをするか。拠点に忍び込んで報酬分の金品を盗むか……それとも何も得ないまま逃げ出すかだ」
「しかしよ、後方には予備の部隊もいるんだぜ上手くいくのかよ」
「ケケ!! まぁ賭けだわな。森の中突っ切るから不可能じゃないぜ、俺の勘じゃここで戦うのが一番死ぬ可能性は高いと思うんだけどな」
たった数人の傭兵はない知恵を絞り答えを導き出す。




