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首から下をワイヤーに巻かれ微かに肘から先が動く程度。立っているが完全に動きを封じられた。力任せに腕を広げようとしても肉にワイヤーが食い込む痛みだけで切れない。



「なにやってんだ!!」



後方からニックが現れ勢いよく短剣を振り抜くと細いが何重にも巻かれたワイヤーに弾かれる。銀色に輝く糸を見てニックが舌打ちしながら何度も叩きつけるが短剣の刀身が欠けていくだけ。



「無駄です。それは私が竜化した時の体毛で作り上げました、私ですら切れないのに人間の貧弱な力と武器では問題にならないです」



「……ニヒヒまいったねぇ~おいカズヤ、隊長がきたら運んでもらえよ」



腰から予備の短剣を抜き両手に構え腰を落とす。



「グッ!! おいニック逃げろって!! 相手は化物なんだぞ、わかってんのか!!」



フェルはワイヤーを繋げてる剣を地面に突き刺しその上から力の限り踏みつけ深く埋めカズヤを固定した。酒臭い中年おっさんを前にし拳を軽く上げ笑う。



「人間は何度も同じ過ちを繰り返すって聞いたんですが、貴方は最初の過ちで死にそうですね」



「お前さんの愛おしいテツって野郎も何度どころか仲間を何人も殺して更に魔王にまでなった大馬鹿野郎らしいな。たくあんな不細工どこがいいのかね~」



「テツさんを馬鹿にするなぁああああ!!」



小柄な体格に似合わず空気が振るえ肌を焦がしそうな叫び声を上げてフェルは真っ直ぐ突っ込んでくる。ニックは目を凝らす、長年の傭兵生活とソウジに言われた才能とやらを信じて笑う。


見てからは間に合わない。予測して先に動かねばと……そこでフェルの拳が頬の肉をエグリながら通過していく。そこから先は考えてる暇がなくなった。左右の拳の連打を皮一枚を犠牲にし避ける。



「ちょこまかとぉおおお!! うらぁああああ!!」



人が変わったように凶暴性を出し連打を続けるがニックは少しづつだが動きに慣れていく。一撃でも食らえば致命傷な予感がする空振り音の中で短剣を光らせた。


シゼルと幾度も模擬対戦をした経験が初めて役に立つ。もしも初見だったならば動きの速さについていけなかった。空振りが続き更に苛立ち大振りがきた瞬間にニックは笑う。



「ヘヘ~なんだい竜なんてたいした事ねぇじゃねぇか」



大振りを避けると同時に短剣を腹に突き刺す。フェルは一瞬驚いた顔を浮かべるが更に拳を上げた瞬間に2本目の短剣を突かれ動きが止まる。



「ニヒヒ俺も捨てたもんじゃねぇな~おい小娘、悪いが死んでもらうぜ」



笑い顔から豹変し凍りつくような表情でブーツから隠しナイフを出し近付く。



「まったく……腹が立ちますね」



「命乞いも泣き言も許さないぜ。一応ソウジの仇でもあるんでね」



ナイフを突き立てる瞬間、2本の短剣で貫かれ静止していたフェルの体が素早く動き出す。迫ってくるナイフに噛み付き噛み折る。驚いたニックの腹に一撃入れると浮く。大人が軽々と飛ばされていく。



「こんな小さな武器でどうにかできるなんて思われたなんて腹が立ちますね人間」



「――ッ!! ハァハァ!! ふざ……けるなよ~しっかりとぶっ刺したんだぜ~糞ったれが」



たった一撃で立ち上がれないほどまで追い詰められたニックの横でカズヤは暴れていた。



「そこで仲間が殺される所を眺めてなさい。その後いろいろ調べさせてもらいます」



フェルが横を素通りしようとした時に音が聞こえる。ブチブチとワイヤーが千切られる音……音の先を見るとわずかに動く両手でワイヤーを掴み両側に引っ張っているだけだが千切れていく。



「竜も人間と同じなんだなぁ~牝より雄の方が強いってのは生物の基本だからなぁ~」



絡まっているワイヤーを次々に引き千切りカズヤは動きを取り戻す。



「覚悟しろ、フェルとかいったな女。生皮剥いでお前の泣き顔みながら内臓取り出してやる!!」



人間性を失い竜の本能のままにカズヤは言葉を出し転がっていた竜骨を拾い上げてニックの前に立つ。

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