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娘との再会に歓喜し激情と喜びが混じった声を上げてるいるレグナに対し死んだと聞かされていた父親の再会に戸惑う。フェルは奮い立たせるように握っている剣を振るい周辺の床や柱に叩きつける。
その行動の目的は攻撃ではなく気持ちの切り替えだった。胸に手を当て大きく深呼吸し構え直す。カズヤはソウジの最期の姿を思い出し竜骨を肩に乗せ片手をダラリと垂らす。互いに戦闘態勢に入るとフェルが願うように語りかけてきた。
「お父さん、こちら側についてくれませんか。叶うなら戦いたくはありません」
「無理な願いだなフェル。我の心境に関係なく力を持ちそれを使うのは我ではなく契約したこやつだからな」
「ではその間抜け顔の男を動けなくしてから話し合いましょう」
カズヤの顔は怒りで赤く染まり上がり額、頬、目元に血管を浮かべ人間離れした獣のような表情になっていく。二匹の竜が激突する寸前でレグナの低く腹に響くような低音な声がカズヤだけに届く。
「逃げろ半人前。今のお前では殺されてしまう」
「あぁ!! レグナてめぇ今なんて言いやがった!!」
「少しはその熱で溶けそうな頭を冷やせ馬鹿者。少しでいいから我慢するのだ、我の話を聞け」
今すぐ手に持つ竜骨であの整った顔を粉砕したいと思うが堪える。同じ竜になってレグナの言葉の重みがわかったのか耳を貸す。
「フェルは成熟した竜。しかしお前は竜になりたてだ、理解するのだ。戦闘経験以前に竜として負けているのだ。まともにやりあえば間違いなく殺されるぞ」
「……人間相手だったら才能もなく努力も少ない俺でも勝てるが同じ竜が相手なら俺なんか石コロみたいにちっぽけな強さだってのかよ」
「わかっておるなら逃走に全ての力を使え、それが唯一の生還への道だ」
怒りは不思議なほど冷めていく。それは現実を突きつられるという瞬間の諦めていく気持ちだった。人生で何回も繰り返しる内に気持ちが死ぬように静かになる癖がついていた。
「ソウジさんはな、仕事は真面目だがプライドだけ高く事務所で浮いてる俺に唯一話しかけてくれたんだよ……仕事がなくて家賃も払えない時は笑顔で俺に金を貸してくれた。自分だって辛い癖によ」
竜骨を下ろし視線を落としブツブツ言っているカズヤを見てフェルの動きも止まる。これから戦う姿勢でもなく先程まで突き刺さるような殺気が消えていくのを感じる。
「俺は嫌味な奴でよ、仕事できない隊員を怒鳴りつけ、資格あるからって威張りちらしプライドを保ってた糞野郎だったよ……でもよ、そんな俺がどんな嫌味を言ってもソウジさんは……ソウジさんは、笑ってたんだ」
大きく息を吐き下がっていた頭を持ち上げ竜骨を両手で持ち直し吼える。
「そのソウジさんを殺した奴が目の前にいるんだぜレグナ。ここで引けるかよ!! ぶち殺してやるぜぇえええええ!!」
「止まれ馬鹿者!!」
レグナの忠告を無視し駆け出す。竜の脚力で床を踏み抜き砕く一歩で加速する。あの笑ってたソウジが復讐なんて望まないのはわかっていた。それでもカズヤは止まらない。
なんのために人間という宝を手放し竜という化物を手に入れたのか、そう自分に言い聞かせ竜骨を振り被り更に加速。フェルはもう二歩三歩で届くという距離で。
「ガ!! カハッ!!」
カズヤの体に刃つきのワイヤーが絡みつく。




