5
竜の贈り物は人間を遥かに超える腕力だけではなかった。動体視力と反射神経も竜になり何人に囲まれ一斉に攻撃されても全てが遅く見えた。戦いに集中すればするほどに敵の動きがスローに見え、それに竜骨を叩きつけるのは簡単だった。
「気分はどうだ半人前!!」
「ハハッハー!! 最高だ!! これが強さかレグナ!!」
「強さなど生易しい物ではない。これが下等生物と我らとの遊びだ、戦いにすらなってないであろう」
人間と竜との差がここまで大きいと笑ってしまう。笑いながら人間の壁を壊し進んでいく。戦術も戦略もなしに単純かつ豪快に竜の亡霊のような竜骨を振り回して突き進む。
「しっかし反則にもほどがあるぜ。レグナよ、俺でこんな強いならもっと早く誰かを使えばよかったんじゃねぇか」
「誰もが貴様のように我を受け入れるはずがないであろう。人間という生き物は他の生物に比べ自身を宝のように大切にする奴らだからな……しかしお前は一切の迷いがないとはな」
巨大な竜骨を振る、何度も振る。何十という屍を作り上げカズヤは口の中にある味を思い出す。それは生まれて初めて食べた特上の鰻重。食事とはまったく関係ない戦闘を繰り返してる内に感じていく。
「フォオオオオ!! この化物がぁああああ!!」
一人の敵兵が恐怖を抑え込むように怒りの表情で突進してくる……が、そんな者はあっけなく竜骨に叩き潰されて肉になり地面に真っ赤な華と臓器をバラ巻くだけ。
「う、うめぇ」
カズヤは戦いを繰り返してる内に味覚を刺激され美味しさを感じ始めていた。敵を何人か纏めて磨り潰すと鰻重にかぶりつきご飯を勢いよくかきこむ美味が口内に広がる。
「レグナぁ~うめぇよ!! 美味しいぞ!!」
「半人前の癖にもう殺戮の味を締めたか!! いいぞ、その調子だ!! そんなに美味ければ食い過ぎて吐いてしまうほどに平らげろ!!」
一切に訓練もなく師もいない。戦いに関しては素人以下のカズヤがドルトン帝国で厳しい訓練を耐え実戦で鍛え上げた精鋭達を蹂躙していく。カズヤが歩を一歩進めるだけで3人以上は殺され更に足を進めるだけで倍以上が飛んでいく。
「ふん哀れよな半人前。貴様は殺戮の才があったであろうが戦う能力に欠けていたとは……さぞ窮屈な時を過ごしていたのであろうな」
50人……100人は破壊の限りを尽くした気がするが最初から数えてはいない。ひたすら竜骨を振り回して進んでいくと目の前に城壁が現れ城門前に敵兵が固まっていた。
後方にも武器を構えている敵がいるが誰しもがカズヤの凄惨な戦いぶりに剣の切っ先や槍の矛先を震わせている。
「カズヤさん!!」
馬で風のように駆け抜けてシゼルが合流すると全身を血と砂で汚して口から唾液を垂らし人間離れした表情に恐怖を覚えた。
「ニヒヒこいつはとんでもな新入りがきましたねボスゥ~」
ニックはいつも通り酒を飲みながらふざけた笑みで周辺の敵を倒しながら現れる。
「カズヤさんのおかげで敵の陣形どころか戦意までバラバラにできたので楽にここまでこれました。さぁ一気に行きますよ」
傭兵団アベンジの大将シゼルが城門に突撃すると部下が津波のように続き正面から防御で固めていた城門前の敵兵は簡単に崩されていく。その光景を見て一息つくと異変に気付く。
「レグナ!! 俺全然疲れてねぇ!! 凄くないか、あんなに暴れて息一つ切れてなぞ」
「当然だ。我ら竜にとっては食後の軽い運動程度だ、人間と比べる事がいかに愚かと思うほどに無限の持久力が備わっているのだぞヌハハハ!!」
ドルトル帝国城壁前の大量の盾という敵兵を力のみで破壊しつくしたカズヤは走り出す。遠足前の小学生のように心が躍る。次はどんな敵がくるのか好奇心を刺激されていく……本人は自覚はないがその思考回路は人間から少しづつ離れていく




