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小屋に戻り薄くらい中ウィルが倒れていた椅子を杖で器用に持ち上げ腰を下ろすとニヤニヤとカズヤを馬鹿にしたように笑う。ボロボロにされ肩をシゼルに肩を借りながらやっとの思いで小屋の中にカズヤは入る。



「そこ見てみろ」



杖で指された方向は部屋の隅。そこには床から天井にかけて一本の柱が立っていた。薄い室内で細かい所までは見えないが太さも馬鹿げ人間一人分はあろう巨大な柱だった。



「カズヤぁ~よぉ~く見てみろや」



目を凝らすと最初に気付いたのが色。薄汚い白、汚れが目立ち茶色交じりの白だった。次に形、一応は円状に削られてはいるが所々尖ったり凹みがあり柱にしては随分と歪な印象だった。注意深く見るとカズヤは不気味さを感じ一歩引く。



「そいつは武器だ」



「はぁ!! おいウィルの爺さんよ!! てめぇテツに勝てる唯一の方法がこの柱だってのかよ!!」



「そいつはソウジは出てってから運び込まれたもんでな。誰にも扱えずここにきたわけだが……武器としての性能はおそらく最強だ」



何度見ても職人がやる気なく削った柱にしか見えない。色も白と変わっていて武器にも見えないと更に見ると一箇所だけ凹みが激しい。まるで手にも持つかのように削られていた。



「昔ベルカが飼っていた竜の骨だ、まぁ初代魔王に討伐されて今じゃこんなんだけどな。いいか、もしそいつを扱えればなカズヤ、お前さんは竜になれるんだぜ」



「……なぁウィル、馬鹿にするにしてもこんな酷いやり方はねぇんじゃねぇか」



「竜と同じ力どころか人間なんて生物が竜に上書きされるらしいぜ!! まぁ噂だがな~まだ一人とて成功者はいねぇ」



興味を持ちシゼルが近付き手を伸ばした瞬間にウィルは「触れるな」と叫ぶ。その声の大きさからして真剣であるとカズヤは理解する。



「やり方は簡単そいつに触れればいい。俺の目の前で何人かが触れたが発狂したり体の一部が弾け飛び死んだ奴もいるぞ」



カズヤは理解した、命を賭けるということに。死にたくはないがこのまま訓練を重ねてもシゼルに言われた通りテツに追いつく前にどこかの戦場であっけなく死ぬだろう……ならばと近付く。



「ほぅ今回は変わった奴だな」



急に柱が喋りだしカズヤの足が止まってしまう。



「あぁ言い忘れた、その柱喋るんだぜ~名前はレグナ」



「この人間は今までとの臭いが違うな。美味そうだ」



野太く威厳に溢れている声色にカズヤは臆する。素直に怖いと思った。後ろでは反射的にシゼルが武器を抜いていた。深呼吸し再びゆっくりと近付く。



「おい、レグナ……さん。あのよろしくお願いします」



「随分と気概がない人間だな。お前からは覇気も感じられない」



「――…おい、人が丁寧に言ってやってんのになんだその態度は!! どうせ竜だからって自分が格好いいと思ってんだろ~嫌だねぇ~そーゆの恥ずかしいんだよ」



不満を全て吐いた後に勢いよく片手で竜の骨ひっぱたく。やってやったと自慢気に顔を上げ優越感に浸ったのは一瞬だった。



「ぴゃあああああああ」




小指が爆発するように弾け飛んだ。目の前で肉が破裂し血が水鉄砲のように吹き出し骨が粉砕する光景を見て奇声を上げて床に転がり込む。



「ガハハハハ!! まさに口だけの男よのう!! さぁ次は手首ごと消し飛ばしてくれようか」



痛いなんてもんじゃない。神経がノコギリでジワジワ削られてるような痛みに声を上げ泣き喚いていく。転がりながら竜の骨に近付き今度は蹴りを入れる。泣きながら反撃するカズヤにレグナは疑問を覚える。



「お前何が目的だ。竜の王の我を操り何を欲するか言ってみよ」



「いぎぁああああああああ」



「えぇいうるさい奴め!! いいから答えよ!! さもなくば四肢を全てもぎ取るぞ」



痛みで全身の毛穴から汗が吹き出し涙まみれの顔を上げようやくカズヤは言葉を出した。



「ハァハァ……まず腹が立つ元仕事仲間をぶっ殺して~……そこから先はえ~と……お前を使い好き放題やって美味いもん食って、いい女抱きまくって人生を楽しみまくって死ぬ時は悔いなく笑ってやる!! 文句あるか!!」



「……言葉もないわ。この大馬鹿者め」



「言葉なら出ているじゃないかトカゲ野郎の骨」



レグナは一瞬黙ったが結論は出た。



「よかろう。何時までもこんな汚い納屋にいるわけにはいかないからな。人間お前に力を分けてやろう」



その瞬間カズヤの体内で何かが生まれる。弾け飛んだ小指はトカゲの尻尾のように生え、全ての血液が意志をもったように暴れ回り熱で体が燃え盛るようだった。体中から煙が上がりカズヤは悶え苦しむ。



「ウィルどーゆ事ですか!!」



「心配するなシゼル!! 俺にもよくわからんヒヒヒヒ!!」



シゼルの足元で煙を上げて苦痛の声を上げ続けているカズヤが急に動かなくなり声も出さなくなった。少しの間小屋内に静寂が包むと、丸めて苦しんでいた体を持ち上げカズヤは自分の手を見る。



「ハァ~……おいトカゲ野郎。どーゆ事だ」



「フム、殺すつもり無茶はしたんだが存外丈夫だったな人間。貴様はこの瞬間から我ら同族になったのだ」



遠藤カズヤ38歳、元交通誘導員。異世界にきて竜になった。



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