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カズヤを傭兵団に入れる事はソウジの知り合いと聞きシゼルは許可したが問題は戦闘力。ニックの話では使い物にならないと言われたが一応は確かめるためにウィルの小屋へ行きオイル臭い殺風景な小屋の裏庭でシゼルが木刀を渡す。
「しかしまぁ俺んとこにはどーしようもねぇ奴しかこねぇなぁ~たまには見込みがある奴こいよぉ~テツん時も酷かったが」
カズヤは傭兵団への入団試験と受け取り気合を入れる。深呼吸し体から軽く力を抜き数秒後に全身の筋力を鋼鉄のように硬くするイメージで木刀を握り締める。
「殺す気できてください。カズヤさん、貴方と私の力量の差はそれぐらいあります」
「ソウジさんのお孫さんでも加減は出来ない。いくぞ」
シゼルの背丈は165に対してカズヤは180を越える。日本人にしては恵まれた体格のおかげでリーチ差は圧倒的にあり有利に立つ。勢いよく正面から木刀を叩き込むと当然先手はカズヤ、力任せだが一振りが全力のために重さはある。
「ふぁ~テツを連れてきたのがニノで、今度はその娘がテツみたいなおっさん連れてくるとはなぁ~……こいつは!!」
カズヤの動きを見てウィルが固まる。それは出会った事がないほどに突き抜けていた。足運び、腕の振り、相手を捕らえるセンス。その全てがウィルを驚かせていく。
「ハバッ!!」
立会いが始まり1分も立たない内に地面に転がり苦痛で震えていたのはカズヤだった。その姿を見てウィルは手で目を覆い空を見上げた。
「シゼルちゃんよぉ~こいつは酷いなんてもんじゃねぇ~俺が言わなくてもわかるよなぁ」
「えぇ、こんなにも伸び代がない人は初めて出会いました。カズヤさんいいですか」
倒れているカズヤに近付き顔を近づけシゼルは残酷な言葉を投げつけた。
「鍛えれば多少は強くなれますがそこまでです。カズヤさん貴方は弱いなんてもんじゃないです。傭兵の道は諦めてください」
シゼルの目は真剣だった。それは心配されてる目や可哀想な者を哀れむ瞳でありカズヤのプライドに酷く傷をつけた。背中を向け立ち去るシゼルに対し勢いよく立ち上がり再び襲いかかる。
「ふざけるな!! 食堂にでも働けってのか!! 俺はまだ動けるぞ……おぉおおお!!」
雄たけびを上げ獣の如く戦う。振る前から大振りすぎて軌道が読まれ、更に剣速も遅い。ただ力のみで振るだけで体のバランスも悪い、振るたびに左右に揺れそこを何度もシゼルに打ち抜かれた。
それでも意地だけがカズヤを支えた。ソウジを見捨てテツに殺す価値もないと見逃され最後には戦う事まで否定された。
異世界にきて人を殺し認められようやく自分が生きる場所を得たと喜んでいた自分が馬鹿みたいじゃないかと言い聞かせる。今更他の道があるか……また労働かと、異世界にまできて再びあの苦痛でしかない労働かと噛み締めていく。
「もうやめとけシゼル」
上半身を隙間なく木刀で打ち抜かれたカズヤは立っている。しかし反撃する力はわずかで力が抜けたような一振りをヨロヨロと振る。その一撃には速度も威力もないが何度でも繰り返す。
避ける必要もないと判断したシゼルは無言で受ける。ただ腕を挙げ下ろすだけの攻撃は鍛え上げた肉体を持つシゼルの肉体のダメージは一切与えられない。
「カズヤさん先程言った通り」
「う、うるへぇな……俺は……俺は、テツの大馬鹿野郎を倒すんだ……そんで、そんでな……ソウジさんの仇とるんだよ」
腕を組み渋い表情のウィルが口を出す。
「それだけか。お前の戦う理由は? そんな借り物の復讐だけで強くなれると思ってるのか」
「……へへ、そんだけあれば十分だろ? 俺は空っぽだったんだ、毎日がつまらなく愚痴しか言わない人生に比べれば……借り物で十分だ!!」
木刀を振るう力さえも切らし最後には地面に手をつき、まるでシゼルに土下座するような形になる。
「悔しいんだよ!! ソウジさんを救えなかった事も!! テツに舐められた事も悔しくて悔しくて仕方ねぇんだよ!! ちくしょうちくしょう……ちくしょうがぁあああ!!」
シゼルは黙っていたがウィルは本音を全て吐いたカズヤがどこかテツと重なり笑う。
「唯一お前がテツを上回る方法があるぜ、死ぬ覚悟があるならついてきな」




