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ソウジは迷わず飛び出す。最後に投与した薬物で強化された体を弾丸のように弾き出し最短距離を駆ける。腕力も脚力も感覚さえ強さのために捨てた宿敵が迫り拳を振り抜く。


鈍い音が響くとテツではなく白銀の壁がある。竜の巨大な翼が間に入り拳は届いてはくれなかった。翼の奥から意地の悪い笑い声が聞こえるとソウジの神経が怒りで染まる。



「いい判断だ親父、囲まれる前に襲いかかってきたのが正しいが~……いくらあんたが才能溢れ強くても元は人間。竜とじゃ生き物としての格が違うんだよなぁ」



竜が翼を振るとソウジは簡単に飛ぶ。宙を転がるように飛びテツの目の前から大きく後退した地面に激突し起き上がると溜息も言葉もでない光景が広がっていた。人の海、テツの姿はもう見えず傭兵の顔を戻した住民達が武器を向けていた。



「親父ぃいいい!! およそ1000人だ。あんたがいくら個人の力を持とうがこの数は厳しいだろ?」



「――ッ!! テツゥウウウウ!!」



「ハハ!! いい声だ。なぁ少しは親父らしい事してくれよ」



巨大な竜の背中に乗って見下ろしてくるテツにソウジは吼えるが優越感を満たす材料にしかならない。テツは大きく両手を広げ言う。



「出来るだけ時間をかけ戦え、そしてジワジワ削られ……最後は地面に這いつくばって死んでくれよ親父。俺にとってはそれが最高に嬉しいんだ。なぁ頼むよ」



それはおよそ親へ頼む事ではない。しかしテツは本心から言う。絶対の優位の立場を存分に味わい下衆の笑みでソウジに言う。そして1000の傭兵達がソウジに襲い掛かった。



「そこで待ってろテツ!! 殺してやる!!」



目の前は人の海。一人目がソウジに接触した瞬間に空中に弾き飛ばされてる。二人目は横に蹴り飛ばされ三人目は……ソウジは戦う。掴み殴り蹴り、相手の武器を奪い振り回し。その光景に手を叩きテツは喜ぶ。



「ハハハハ!! すげぇぜ親父!! なんだありゃ、あれが死に掛けの爺さんの戦いっぷりかよ」



一人の足を掴み体ごと振り回し前へ進む。そこで足に槍が突き刺さり動きが止まると背中を斬られる、激痛が走るが踏ん張り再び目の前の敵を殴り飛ばす。



「前へ!! 前へ……そこをどけぇええええ!!」



前蹴りで一人を飛ばすと後続を巻き込み一本の道を作り飛び込む。しかしその先は人の壁の袋小路。ひたすら前へ突き進む。戦ってる内に痛みは麻痺していき闘争心だけが加速していく。



「ハァハァ……テツゥウウウ!!」



ソウジの人生の最後の戦いは酷い物だった。たった一人で1000人を相手にするという自殺行為。仲間は誰もいない。どんなに才能に溢れようが体を強化してようが覆らない差。


脳裏には気持ちがいいほどのニノの笑顔と可愛い孫娘シゼルの顔が思い浮かび力に変えていく。一歩でも前へ。あの息子だけは生かしては駄目だ……そう噛み締め殴り、蹴り進む。



「すげぇな親父あんたやっぱ強いわハハハハハ!!」



竜の上から見下ろし高笑いするテツへ道はまだ遠い。



「思えば俺が全ての元凶か、嫁と息子を捨てたのが始まりか、こっちにきてどれくらいたっただろうか……まさか息子が魔王とはな」



人の海を一筋の槍となり突き進みながらソウジは呟く。



「神がいるとしたら呪うぜ。俺はいい、だがな娘や孫が何をした!! 糞が、糞ったれがぁああああ!!」



鉄一族最強と言われたソウジは1000の壁を砕き続け半分まで到達した。常人では不可能な偉業を成し遂げる中間地点で剣がソウジの胸に刺さる。動きが止まった瞬間に左右から同じように斬られ突かれる。


顔を大きく上げ勢いよく血を吐き出し自分の血の雨で顔を鮮血に染め上げると倒れそうになる体を動かし再び目の前の敵を殴る。体に三本の武器が埋まったまま走り出す。



「どけ、どけぇええええ!!」



敵の一人の肩から飛び上がり頭上を駆ける。下から攻撃がくるが構わず人の頭を蹴りテツへと飛ぶように1000の壁を飛び越えていく。そしてテツの予想を遥かに超え竜へと辿り着き最後の跳躍をする。


空中に自身の血を撒き散らし大きく跳びテツへの道を作る。高度を稼ぎ後は重力が背中を押しこの拳を叩き込むだけ……生涯最期の一撃を振り被り飛び込んだ瞬間――



「親父尊敬するぜ」



珍しく下衆の笑みから真剣な表情にテツが変わるとソウジは消えた。一直線へと落ちていきそこにはテツがいたはずだがソウジは竜の前足によって弾け飛ぶ、自分の何倍もある竜に殴られ中央広場に端まで飛ぶ。



「あ――…あぁ……テツ」



片手、片足は潰され形が完全に失われ骨がはみ出し、片目もどこかに飛び出しソウジは壁に寄りかかる形で竜の一撃を食らい終わる。



「さてお前ら後始末やっとけよ」



「……テツまだだ」



立ち上がろうとしても片腕しか動かず力が入らない。呼吸もおかしくなり目の前が少しづつ暗くなっていく。テツは竜に跨り最後にソウジに向き言う。



「じゃあな親父。さようならだ」



残った片腕を伸ばしたままソウジは静止。ただただ無念だけが残るような姿で――…ソウジの命は消えた。


 

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