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情けなく見るにも耐えないほど泣き続けた遠藤は水分を出し切るとスッキリした顔で起き上がり大きく背伸びをする。夜は明け微かに見え隠れする日光の光で空が染まっていく下で遠藤は言う。
「なぁソウジさん、俺そんなに駄目か」
「あぁまったく問題ならん」
「そんなハッキリ言うかよ。まぁいい、駄目なら力をつければいい!!」
先程まで殺人への後悔で涙で覚えていた遠藤は腰に手を当て空見上げ何かを決意しソウジを呆れさせる。
「お前切り替え早すぎだろ~罪悪感とかないのかよ」
「まぁあるっちゃあるけど今そんな事考えても意味ないですよ。それに俺が正義に目覚めて世界を救う勇者に見えますか」
輝く甲冑に身を包み誰からも尊敬の目で見られる勇者……とは程遠い盗賊のような遠藤が言うと笑いが込み上げて二人はしばらく笑う。人生に迷い続け足を止め絶望しかない毎日の遠藤。義理の娘を殺され実の息子を殺しにいくソウジは力の限り笑う。
「本当俺らどーしようもないっすねソウジさん」
「あぁまったくだ!! さて馬鹿息子ささっと倒してお前を雇わないとな」
中央広場に日差しが際し込み二人の影が一気に伸びて完全に朝になると二人は見上げた。日光ではなく暗闇が包み何事かと空を見ると巨大な生物が飛んでいた。翼を羽ばたかせ叫び声を上げるだけで空気が弾かれていく。
地上に降り立つと巨大な翼を広げ威嚇するように二人に向かい吼える。それはソウジが一度だけ見た生物だった。銀の鱗に包まれた凶悪な牙と炎を口元から漏らし体調は10メートルは越える化物だった。
「ソウジさん……なんすか」
遠藤は腰を抜け立てなくなっていた。自分の何倍もの竜が殺意を突き付け恐怖で体の意志を奪われてしまう。竜の背中から一人の男が現れるとソウジはウィルから貰った薬物を全てを取り出し全て注射に詰め込み打ち込む。
「部下から変な報告があったんで来て見たら、やっぱりお前か糞親父ぃ~」
「会いたかったぞテツゥ~」
銀色の甲冑を着込みわざとらしい真っ赤なマントを翻し魔王テツは親の前に姿を現した。竜に乗り空を駆けと魔王にすっかり染まっていた。
「テツか!! お前テツか!!」
遠藤が腰が砕けまま叫ぶとテツが気付き首を傾げる。
「俺だよ俺!! 一緒に誘導した遠藤だよ!! お前何してんだ」
「――…あぁ~あの胸糞悪い遠藤じゃねぇか。なんだお前もこっちに来てたのか」
「お前と丸山さんいきなり消えたから心配してたんだぞ!! 元気にしてたかこの野郎!! てか……テツ、お前がソウジさんの息子なのか」
手を軽く上げ振り面倒だなという仕草をするとソウジに向き直る。
「テツよ。今度は逃げないだろうな」
「親父よ、あんたは強い。俺が長年積み重ねた物をあっさり砕く才能もありやがる、戦ってわかったよ」
「ヘッ!! 今更弱音を吐きにここにきたんじゃないだろうが。ささっとやろうぜ」
戦う気満々のソウジに対しテツはどこか冷め切った目で言う。
「親父あんた邪魔だ。死んでくれ」
テツが手を上げると中央広場を囲むように住民達が現れる。その数は100や200ではない。街の全ての人間が手に得物を持ち笑っていた。生活してた時とは違い本性が皮の下から現れている。
「親父ぃ~まさか俺が一騎打ちに応じると思ってたのか? なんで死にかけの老人相手にそんな気を使わなきゃいけないんだ?」
状況を理解するとソウジは額に血管を浮かべ叫び目を血走らせた。
「おい遠藤!!」
ソウジの逆鱗に触れた声で遠藤は反射的に立ち上がる。
「いいか逃げろ!! シゼルという女を捜せ、いいか必ず逃げきろよ」
「おぉ~そうかそうか遠藤を逃がすか~まぁいいぜ。昔のよしみだ遠藤行っていいぜ」
絶対的優位の立場を楽しみながら言うテツと絶望しかない状況のソウジを見合わせ遠藤は混乱する。
「でででもソウジさん」
「いいから行けってんだよ!!」
ソウジの追い詰められた声色を聞き遠藤は走り出す。何度も振り返りソウジを見捨てたくはないと思うが体が逃走を選ぶ。それは死にたくないという本能。先程流しつくした涙が溢れ出し走りながら自分の無力さに嘆いた。
「ちくしょおおおおおおぉおお!!」




