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街の中央広場、まだ布が被せた露天が囲み石段の上の地面で作られソウジと遠藤以外は誰もいない。時間は深夜と朝方の間。薄く暗く太陽の光が微かに闇を染め上げてる。息を吐くと白く気温は低い……そんな場所で遠藤は剣を構える。
ソウジから見た遠藤は構えも誰かの真似したのかまったく馴染んでない。剣術とは言えずよくここまで生き残れたなという印象だが一度斬りかかってくれば納得する。
「うぉりゃああああ!!」
遠藤の戦い方は技術は微塵もなく勢いだけ。自分の命を全て一振りに捧げてる。気迫と熱意が凄まじい。人生を全て乗せてるような攻撃だった。
「お前凄いな~素人でもここまでやれれば上出来だ」
「あんたは素人じゃないってのかよソウジさん!!」
ただ技術がないという事は自分より強い相手には勝てないという事だった。大きく振り被り予備動作の大きい攻撃は読みやすく避けられ体重の乗った上段への蹴りを肩に叩き込まれた。
「いっ……てぇ」
痛さよりも恐怖が遠藤の肩に張り付いた。老人が放つ蹴りではない、速度も速いがその威力に遠藤の動きが止まる。まるでメジャーリーグの強打者が金属バットをフルスイングしたような衝撃で肩部分の甲冑が砕ける。
次に肘を鎖骨付近に叩き込まれ同じく甲冑が砕かれていく。この距離はまずいと後方に下がった瞬間に合わせられ前蹴りを貰い飛ぶ。年齢からは考えられない動きと威力のある攻撃の前に遠藤は驚愕し恐怖を隠すように素早く立ち上がった。
「遠藤よ厳しい事言うがお前このまま傭兵家業してても死ぬだけだぞ、お前には傭兵は向いてない」
「ヘッ!! あんたは傭兵の神様かい、俺はこの道でやってくって決めたんだ!! 俺は強くなっていい暮らしして笑える人生にするんだ!!」
まるで我が侭をいう子供。息子テツと姿やけに姿が重なった、問題はテツは絶大な権力と力を所持してる事。遠藤の気持ちもわかる、だが邪魔者は排除するしかない。
「うっ!! がぁああああ」
そこからは一方的だった。ただ殴られ蹴られ投げられと遠藤は地面に何度も叩き付けられた。ただソウジの予想を超えたのは遠藤の耐久力だった。
「俺は……胸張って自分に言いたいんだ、生きてるってよ。殺人者の屑野郎だけどよ俺はよぉ~誘導員やってた頃よりかは――」
とどめの一撃の拳を遠藤の顔面に叩き込むと鼻が折れる感触と肉が裂けた血を浴びたソウジは一息つき膝に手をつく。いくら薬物で強化してても残りカスの体力がジワジワ姿を見せた始めてきている。
「俺はよぉ~ソウジさん……俺はよぉ~」
再び立ち上がった遠藤を見るとソウジは驚くが拳を上げ近付くいていく。目の前には鼻が曲がり片目は完全に張れで塞がり哀れでどうしようもない遠藤がいた。もう何度か全力で殴れば死ぬだろう。そう考えソウジは拳を……振り抜けなかった。
「はぁ~――…クソ!! 俺の負けだよ遠藤!! ちくしょうが、お前を殴るたびに昔の映像がよぎるんだよ。まだまだ甘いの俺の方だな」
「なんだよ~かかってこいよ~……俺は負けねぇぞ!! 俺は成り上がるんだ~……じゃなきゃ俺は本当に死んじまう……心が死んじまうんだ」
歩けなくなり這いながら遠藤を前にソウジは座り止まらない溜息を吐きながら言う。
「お前は戦う術は駄目だがその根性は認めてやる、そんくらいの根性あったら誘導員以外できただろうが」
「ヘヘわかってんだろ、俺ら駄目人間ってのはそんな器用に出来てねぇんだよ~……ちくしょう、そうだよな。こんな所に落ちる前にいくらでもあったよな……うぅ」
体中を叩かれ顔まで変形するほど殴られた38歳の中年男遠藤は泣いた。強がりで殺人を自分のためだと言い聞かせ走り続けてきたが、ソウジの前でようやく振り返る。
自分がいかにおろかで取り返しのつかない事をしてきたのかと。もう戻れない、あの毎朝心底嫌になりながら仕事にいく誘導員時代に。顔を伏せ鼻水をすする音を鳴らしみっともなく遠藤は泣いた。
「なぁ遠藤。俺が魔王をぶっ殺した後にお前を雇ってやるよ、魔王殺せば俺が次期魔王だろ?」
「ハハ何言ってんすかソウジさん、そんな都合よくいきませんよ」
夜は明けた。




