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笑い再会をし涙を流し合った二人は飲み明かした。ただの汚い爺さんとの再会が遠藤は本当に嬉しく叫びながら酒を流し込む。ソウジも泣きながら歳も考えず酒を飲み続けた。やがては宴会は終わり新入りの傭兵達は床に寝転がりいびきを鳴らす。


ソウジと遠藤はテーブルに座り中身がなくなった瓶を何本も置き酔いを醒ましていた。アルコールが抜けてきて冷静になった遠藤はソウジの変わりように気づく、体格は多少違うが体の節々が違う。



「……なぁ遠藤、お前がここにきた時の姿見たんだが、その……殺したんだな」



「えぇぶっ殺してやりましたよ!! 最高でしたよ!!」



ソウジの予想とは逆で落ち込んでる様子はなく自慢する子供のように目を輝かせていた。



「もしもあのまま誘導員続けたら俺ぁ……きっと腐ってたでしょう。たぶんよくて孤独死、悪くて自殺」



それは決して大袈裟ではないとソウジも思う。同業者だからこそわかる苦悩。遠藤の舌は止まらない。



「それがこっちの世界きたら悪い奴や善人ぶってる奴等ぶっ殺せば金は貰えるし評価もされる!! 生まれも学歴も関係ない!! ソウジさん最高じゃないですか」



「遠藤、今更遅いが俺達は殺人を犯してるんだ。たとえ元の世界に戻ったとしてもまともに暮らせないだろ」



意外な意見に遠藤は目を丸くする。首を傾げながら宿屋の古臭いテーブルを軽く指先つつきながら言う。



「俺達が元の世界でまともな生活してましたか? 朝早く起きて役8時間太陽の下で焼かれ誰からも感謝されるどころか邪魔扱いですよ? 俺ぁあんな所に戻るなんて二度とごめんですよ」




ソウジは悲しく思った。長年交通誘導員という仕事で溜まったストレスの反動で殺人という犯罪に対しての感覚が麻痺していると。頬を軽く叩き気持ちを切り替え遠藤に真剣な表情で向き合う。



「遠藤、ここにきたって事は魔王軍に入る事が目的か」



「そうですね。傭兵家業してれば魔王軍は大手企業みたいなもんですよ。幸いにも俺はここまで戦って生き残ってきました、ここから成り上がっていきますよ」



「すまんな遠藤。俺はその魔王を殺しにきたんだ」



ソウジの言葉に吹き出し足を叩き爆笑しながら残った酒を煽り再び吹き出す。



「まぁ信じろって方が無理だろうが魔王は俺の息子なんだ」



ソウジの表情に嘘はなく真実だけを感じ飲みかけの酒瓶を放り投げ割るとテーブルに肘をつき遠藤は問う。



「なら尚更わかんねぇなソウジさん、なんで息子さん殺すんだい」



「義理の娘を殺されてね。孫まで危ないんだこのままだと、まぁ何よりあの馬鹿息子を止めなきゃと思うんだ」




その言葉を聞いた瞬間に遠藤は立ち上がり拳を振り上げた。



「ふさげるな!! あんたの家庭事情なんて知るか!! 本当に親子なら話合って解決するなりあんだろう!!」



「……遠藤よ本音言えよ。今から勤める魔王軍のトップを殺されると都合が悪いからやめてくださいだろ?」



挑発めいた言葉は遠藤の酔いが冷め切ってないプライドに火をつけ腰から剣を抜いた。



「ソウジさん、俺ぁあんたが好きだ。気のいい人だし出来ればこのまま二人で一緒に魔王軍にでもいって楽しくやりませんか」



「そいつは無理だな遠藤。俺は一度魔王に喧嘩売っちまったんだ。俺となんかいたら逆に殺されちまうぜ」



「へぇ~じゃあんたの首もってけば魔王に気に入られるかもな」




遠藤に顔を見上げるとすっかり変わってしまった。目先の欲に飛び付き先程まで泣き抱き合ったソウジに対して迷い無く切っ先を向ける豹変振りに悲しさを覚え立ち上がる。



「外に出ようか。ここじゃやりづらいだろ」



宿屋を出るために遠藤に背中を向けドアを開ける。背中越しから殺気が伝わってくるが襲ってはこない。



「そう焦るな遠藤。広い場所でお前さんがこっちで学び殺人への苦しみから覚えた技術を見てやるから」



「上等だソウジさん。ヘヘ……殺されても文句言うなよ」



たぶん数人ではない。何十という人間を殺して遠藤という人間は変わってしまった。恐ろしさも怒りもない。ソウジはただ悲しかった、あの仕事には真面目で少しいきすぎた遠藤はもういないんだと。




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