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宿屋でたっぷり睡眠をとり大欠伸を鳴らしまだ青白い空を見上げた。朝早く仕事の仕込みなのか食欲のそそる臭いが鼻を刺激し元の世界のいた頃を思い出す。安アパートで食費と空腹をはかりにかけ毎日食べなれた安物の食事が今では愛おしい。
そんな事を思い出し笑っていると二階のソウジの部屋から複数の傭兵達が宿屋に向かってくるのが見えた。街の生活が馴染んでる傭兵達とは違い。泥と血だらけの甲冑と息を荒げ疲労と空腹が顔に張り付いていた。
「ようソウジ、あいつらも新人だ」
バルサスが腕を組みながら壁によりかかりソウジの背後に現れるとソウジは視線をある一人の男から外さす言う。
「あいつらどっかでやりあってきたのか」
「あぁ試験受けるために移動中に魔王軍に敵対してる連合軍と偶然出会ったらしくそのまま戦ったらしい。んで生き残って勝ったもんだから試験する必要なしでここにきたわけよ」
兜を深くかぶり素顔は見れないが何かが気になり見る。誰よりも甲冑が汚れ砕かれ浅いが傷も多い。宿屋に入っていくと一階の方が騒がしくなる。魔王軍に入れた喜びの声が上げ朝からうるさくなっていく。
「たぶんこの部屋にもう一人くるから上手くやるんだぞ。傭兵ってのはどいつもこいつも血の気が多く自分が気に入らないとすぐ武器を抜きやがる面倒な奴等だからな」
「バルサスお前が言うな。真っ先に武器を掲げて突っ込みそうじゃないかお前は」
「……うるさい」
薬物投与の副作用なのか単純に歳のせいか寝起き体が言う事をきかず部屋にあった木製のコップに水をいれ一気に飲み干すと溜息をつき、一階から聞こえる騒ぎに耳を傾けると……ソウジの鼓動が止まった。
「嘘だろ」
持っていたコップを投げ勢いよく扉を開け階段を落ちるように駆け下り宿屋の一階に行くと数人の傭兵が祝杯を挙げていた。酒を浴びるように飲み踊りながら笑っていた。その中で一際騒いでる男がいた。
甲冑を脱ぎ捨てテーブルにまで登り樽を持ち上げ中身の酒をこぼしながら飲む男。髪は痛みきった長髪の黒。肩まで延び顔を隠しているが見え隠れする目元、なによりその声に聞き覚えがある。
「おい、どけ!!」
騒いでる傭兵を力任せに振り払い宴会の中心へ向かう。いい大人が子供のようにはしゃぎ樽の中身の酒をついには飲まず全身にかけ笑っている。ソウジが近付くと男も気付き上から見下ろす。
その瞬間に二人の視線が交差し先程まで騒ぎ散らしていた男は樽を床に落とし分けてある前髪を上げて目を見開く。周辺は酔っ払い達の宴会騒ぎが続いてるが二人の時間だけが止まる。
「ソウジさん」
自分の名前を呼ばれて涙が出た。ソウジは嬉しかった、もう二度と会えないと思っていた男が目の前に現れ言葉ではなく涙が溢れ出た。絞るように言葉出し最初の挨拶を交わす。
「……遠藤ッ!!」
あの日、10トントラックに弾き飛ばされた交通誘導員二人は異世界のしがない宿屋で再会した。




