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バルサスも昔は野望の燃え上がり魔王軍に入りたいと試験を受けた一人だった。幼い頃から戦場を駆け回り師と呼べる人物にも出会わず、ただひたすらに我流で戦い抜いてきたおかげで試験官を殺し魔王軍に入れたのが10年前。


それからは激動の人生だった。部下を従え逆らう国を陵辱し消し去りと呼吸をするように戦った。そんなある日バルサスは連勝連戦でいい気になり魔王テツに挑む。テツさえ倒せば世界の頂点に君臨できると……結果はまるで赤子扱いだった。


叩きつけられ蹴られ笑われと部下の前で慰み者にされと人生で最大の汚点を作りバルサスは誓う。いつか魔王を倒すと。



「はぁはぁ……なんだお前」



バルサスが10人以上傭兵達を殺すと恐怖は伝染し誰一人立ち向かう者がいなくなったと思うと一人の老兵が手を上げ深く被ってたフードをとり素顔を晒すとどこにでもいそうな老人だった。


大きく溜息を漏らしささっと終わらせようと剣を振り抜くとなぜか地面に顔をつけていたのはバルサス自身だった。顔を上げた瞬間に蹴り抜かれ転がり素早く体制を整え構え直すと老兵は笑う。



「試験官殿認めてはくれませんか」



その笑みはテツと瓜二つでバルサスの背筋の汗が冷たくなる。そこからは考えるよりも先に体が動き老兵ソウジに無数の剣撃を繰り出す。しかし避けられ剣速を加速させようと避けられ続けてただ体力を浪費するばかり。



「ハゴォ!!」



腹部に鋼鉄の塊で殴られた衝撃を感じ見ると、甲冑がバラバラに砕かれ破片が飛び散る光景がやけに遅く見えた。鋼鉄の塊である甲冑を砕いたのは拳だった。手甲で固めた拳が貫きバルサスは目を疑う。



「試験殿、できればこれ以上貴方を痛めつけたくない。認めてはくれませんか」



魔王テツの強さは長年積み重ねた経験という強さ。しかしバルサスの目の前にいるのはソウジは質が違う。経験とは程遠い圧倒的な才能。長年の経験を踏みにじる残酷で眩しい才能という輝きを放っていく。



「まだまだ。おい爺さん、なんで魔王軍に入りたいんだ」



「なぁに出来の悪い息子に更に出来の悪い親父が挑むだけよ」



腕を組んで笑うソウジの姿がやけにテツと被ると重い膝立ちから立ち上がると深呼吸し構え直す。冷静に確実に刃を当てなければ死。そう言い聞かせバルサスは挑む。



「――…合格だ」



甲冑は全て砕かれ中に着ていた革のシャツも破かれ骨も何本も折られバルサスは大の字の倒れていた。全力を出し切り全てをぶつけても足元にも及ばなかった。しかも手加減をされ命をとられなかった。



「ハハよかったぜ。いい加減殴り疲れてね」



「馬車を外に用意してある。残りの者全て乗せて移動だ」



無理矢理立つとソウジが肩を貸し馬車まで移動し残りの傭兵が全て乗り込むと走り出す。木製の椅子に向かい合うようにバルサスが座るとソウジを観察する。どこにでもいそうな老人。初めての印象はそうだったが今は違う。


甲冑の隙間から見える筋肉が異常。太さは人間だが密度が人を感じさせない。首も作りがおかしい。喉仏が見えず筋肉が固まっている。体の構造が違う。



「さっきは悪かったな試験官殿。傷は平気か」



「これが平気に見えるか? ここまで完敗だと悔しさすら感じない。お前何者なんだ」



「……ただの駄目親父さ」



馬車は次の古城に向かう。

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