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ウィルを訪れ事情を話すと顔のシワをよせ苦い顔をした後に「待ってろ」と言いソウジを外に出す。ソウジの肉体は1日ごとに衰退していき圧倒的な筋肉は見る影もなくなった。丸太のように太かった腕や腰周りも消え失せ歳相応の体へと戻っていく様子をソウジは笑いながら見ていく。
「結局駄目だったか……詰めが甘いんだよな俺」
綺麗な星空とまではいかないが満月が出迎え夜中にしては明るいウィル家の庭で腰を下ろすと正面に二つの影がある。目を凝らし見ていくと見慣れた墓標があった。
一つは石で作られ見慣れた日本の墓だ。「丸山銀二」と刻まれてソウジは驚く、日本人の日本の墓。もう一つはただ一本の槍が地面に刺さり花束が沿えてあるだけ。
「そいつはぁテツの師匠と友人の墓だ」
酒瓶とコップを持ちながらソウジの隣に座ると懐かしむように思い出を語り出す。
「師匠の方は俺が会った時から体が悪くてな。短い間だったが明るい奴だった……友人の方は会った時点で死体だったよ。1年に1回くらいテツがきて墓標の前で笑いながらなんか言ってるぞ」
「あいつもいろいろあったんだな。ウィル、俺は後どれくらい生きられそうなんだ」
コップに酒を入れソウジに渡し軽く乾杯し勢いよく飲み干し酒臭い息を吐いた後に重々しくではなく、笑い話のように軽く言う。
「今死んでもおかしくねぇよ馬鹿野郎が~あんな事までしてテツ逃がすなんて親子揃って間抜けっていうか~救いようのねぇ血筋だなぁ」
「クク……ハハハ!! まったくだ。我ながら情けねぇわ!! なぁウィルそれでもまだ俺には力の絞りカスは残ってるんだろ」
「まぁあるっちゃあるが、化物じみた全盛期のようにはいかねぇぜ。それによぉシゼルどーすんだよ。目の前でニノ殺されて次は爺ちゃんってなったら」
二杯目を飲み干すとソウジも息を吐き勢いよく立ち上がる。
「あいつは鉄一族の中で一番心が強いさ。ニックにも言ってあるし~まぁなんとかなるだろ~……おいジジイ俺が負ける事前提で話をするな」
「てめぇもジジイだろ死に底無い。薬が切れて死ぬ寸前の老体に期待する方がおかしいだろ……ソウジよ。こーやって筋肉を奪われ歳相応になってるお前を見るとテツそっくりだな」
月光に照らされて老人二人は墓標の前で語り明かした。テツの過去。友人とどう出会い師匠に何を教えられたか。ソウジは黙って聞き時折笑い楽しんでいた。
「あの馬鹿息子が魔王を倒したなんてすげぇじゃねぇか。まぁその息子を殺しにいく親父がいるんだ、ろくでもねぇ一族だな」
「まったくだ。駄目人間が力持つとこーなりますって表してるみたいだなガハハハ!! ほれもってけ」
ウィルから渡された鞄の中身を見ると注射器やら怪しい薬がいっぱいに入っていた。
「これで多少は延命できるはずだ。最終確認だ、本当にテツを殺すんだな」
「あぁ、娘も殺され孫にまで危険を及ぼす馬鹿息子は放っておけないしな。正直この世界がどーなろうと知った事ではないが、鉄一族はここで終わらせる」
「ケェッ!! 何を格好をつけた台詞吐いてんだよ!! ようはテツが気に食ねぇからぶっ殺しにいくんだろ!!」
酒瓶を空にし酔いが調度よく回りいい気分になったソウジは笑いながら頷く。雑草と土だけの地面の上で寝転がり月を眺めながらウィルに言葉を言う。
「ありがとうウィル。あんたのおかげで俺ぁ随分いい夢見れたぜ」
「その夢ももうすぐ覚めるってんだから悲しいねぇ~最後の介護式調整終わってるぜ。おい命捨てにいくんだ、どうせならテツをぶっ飛ばしてこいよ」
辺りは夜明け前の薄青い色に染まり二人の老人を照らす。ウィルは二人の魔王を生み出し全ての根源。ソウジは息子と大差ない人生を歩み、絶望の果てに娘と孫と出会った。
突然の死ではなく予定に入ってる死を背負いソウジは動き出す。好き勝手やり幸せの絶頂である息子を殺しにいくという親として最低の行為に歩みだしていく。
死への恐怖も迷いもない。あるのは死んでいったニノの顔と孫のシゼルの思いだけだった。




