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両者打ち合う。互いの拳を何十年ぶりの親子の再会の握手のように打ち合う……その打ち合いはテツにとって皮肉で現実を押し付けられるような物だった。


父ソウジは鉄一族の誰よりも才能に恵まれていた。息子テツとは比べるまでもなく戦いの天才。それは打ち合ってすぐにテツにわかった。異世界にきてまだ1年も立たない相手にテツは互角以上の戦いをされていく。



「糞親父ぃ~」



純粋な戦闘能力が違う。だがテツは昔のように嘆きも悲しみもしない。魔王となり20年以上戦いを重ね圧倒的才能の差を持つソウジ相手に少しづつだが優勢になりつつある。



「ニノの仇だテツ。お前も可愛い子供だが……ニノの方が可愛かったんでだな。殺してやる」



ソウジの拳の速さ、軌道、タイミングがわかってくる。積み重ねた経験というテツの唯一の武器が教えてくれた。鋭く斧のような肘が横から来るのを感じ取り腰を落とす。


頭の上を肘が通過したと同時に目の前の腹に向かい腰を捻り体重を乗せた拳を叩き込む。分厚い筋肉で包まれた脇腹を叩き込むと骨の感触に届きソウジの顔が歪む。



「シャア!!」



やがてテツの中から怒りは消え戦いに身を任せ始めた。見るままに感じるままに体は動き経験の中から最善で相手にとっては最悪の攻撃を選び出し最速で実行……筋肉の要塞ソウジの攻撃は触れも出来なくなっていく。



「ぶ!! はぁはぁ」



異常なほど汗が吹き出しヨダレも垂らしたソウジが後退していくとテツは一度大きく息をつき構え直す。他を寄せ付けない才能は経験に敗北した。



「はぁ~まだまだぁテツ」



甲冑の中から注射器を取り出し腕に打つとソウジの顔つきが変わる。額には青白い血管が浮き出て亀裂が入った甲冑が内部からの押し上げてで砕ける。ソウジの腕は更に太くなっていく。



「化物め」



自分の父親をそう呼ぶと一気に畳み掛けていく。遠間から切り刻むようなジャブで牽制し隙を作った瞬間に顔面を貫く。悪魔の体から生み出される破壊力で今度こそ首から上を消し飛ばしたと思うが感触がない。


貫いたのは顔ではなく皮一枚だった。眉を焦がしながら一撃を避けたソウジの拳はテツの顔へと突き刺さり体ごと宙を泳ぐ。魔王とまで恐れられたテツは飛ぶ、宙で回転しながら飛んでいく。



「はぁはぁ嫌だ」



最終的に追い詰められたのはテツだった。体が言う事を聞かず蓄積されたダメージが一気に利子をつけ自由を奪う。敗北を前にテツは思う。嫌だ、死にたくないと。



「どうしたテツ。魔王とまで呼ばれた男の姿とが思えないな」



テツには積み重ねてきた物がある。それを全て奪われるという事への恐怖が体を蝕み足をすくませた。最後の最後でテツという人間の本性が現れてしまう。小物、小心者、テツの本来への姿へと。



「くるな、くるんじゃねぇええええ!!」



ソウジは拳を握り締め近付いていくと体が崩壊へと進む感触に気付く。骨が踊るように暴れ、臓器が破裂してるにさえ錯覚してしまう。とうとう溜まりに溜まった死という激流がダムを破壊したかと思うが間に合ってくれた。



「なぁに俺も一緒に死んでやるから寂しい思いはさせねぇよ」



「うるせぇ!! てめぇみたいな化物となんざごめんだ!!」



拳を振り上げた瞬間に空気が変わりソウジは何かに気付く。



「ゴァアアアアア!!」



獣の叫び声で大気が震え地面が跳ね上がり二人を囲んでいた炎が消し飛ぶ。音だけで膝をつき押し潰された。



「ヘヘ、ハハハハハ!! 親父ぃ~俺の勝ちだ」



顔を上げるとテツの左右に大きな翼があり後方に巨大な牙を持つ竜がいた。鱗は白く輝き口からは常に炎が見え隠れしソウジは目を疑う。それは絵本の中にいる竜がそのまま現れていた。



「フェルよく間に合ってくれた」



巨大な竜の顔を撫でながら言うとテツは背中に飛び乗る。



「じゃあな親父、あんたみたいな化物に付き合ってられるか」



それは世界の頂点に立つ者とは思えない逃亡だった。ソウジが言葉を出す前に竜は空に羽ばたき消えていった。残されたのは命を使い全てを捧げてテツに逃げられたという結果のみ。


血と骨と悲鳴の中でソウジは膝から倒れこみ今までの代償を払う事になる。年齢から考えられない筋肉。人間離れした反射神経と運動能力。その全てを奪われ、体と命を差し出すように意識が消えていった。

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