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「一体どれだけの戦いを生き抜いてきたんだ。どれだけの……血を流してきたんだテツ、なぁテツ」



ニノの顔の色は変色し頬の骨は破壊され形さえも変えられていた。紫の痣だらけになり鼻も横に曲げられ殴られ続けていた。テツは表情一つ変えず勢い任せの反撃を回避した後に削るように拳でニノを叩きつける。


首から下も痛めつけ、肋骨を砕き腹部には何度も突き刺すように膝を叩き込みニノの機能を奪っていく。魔剣を盾に何発かは防げるが体力も底をつき、何度も顔を跳ね上げられ視界も半分は失っていた。



「ハッハー!! どうしたニノ!! もうギブアップか~」



大きく振り上げた拳を勢いよく下ろし地面を滑らすように加速していきニノの顎をめがけアッパーを直撃させる。血を宙に撒き散らしながらニノは攻撃し終わり伸びきった腕を掴むと引き寄せた。



「ふ……はは、腕力じゃ私の方が……上だ」



片腕だけでも捕まえれば十分だった。引き寄せるとテツの顔が見えた同時に頭突きをお見舞いする。顔が後方に逃げる次の瞬間には肘を叩き込み、次に拳……片腕を抑えてる限りニノの攻撃は続くはず、本人さえそう思っていたが自然と体が止まってしまう。



「はぁ――…っ!!」



「ニノよ、そろそろ降参してくれねぇか。このままじゃ本当に殺さないといけなくなる」



「ふざげるなっ!!」



片腕を抑え距離を潰してる限りテツに有効な打撃は打てない。組み技も力で捻じ伏せる自信があり空っぽになった体力と体を奮い立たせテツに近距離での肘を叩き込む。



「なぁニノ覚えてるか。初めて会った時を」



強烈なニノの打撃も体力がなくなりボロボロの体では威力は出ずテツは攻撃を受けながら語り出す。



「駅前でアホ顔で俺に近付いてきたっけなぁ~……なぁニノ、本当にこのまま続けていいんだな」



「何を今更、お前ほどの浮気者を許すはずがなかろう」



テツは近距離で打撃技を封じられた拳を振り被る。いくら強化されていても手打ちの攻撃なら何度だって耐える覚悟があると歯を食い縛るが、拳は開かれていく。



「本当に残念だニノ。愛していたんだぜ」



開かれた手は形を変え鋭い指先を尖らせ一気に加速する。ボディブローのような軌道を描き打撃ではなく抜き手。悪魔のような体が作り出した指先と腕の力でニノの腹を突き破る。



「ハ――…グッ!!」



一気に体内に捻り込み捻り上げ更に突き進み、背中まで到達すると貫通した。ニノはテツの顔を掴み血を吐き何かを言いながらしがみ付きながら立っていると、勢いよく抜き手は抜かれ膝から崩れ落ちた。



「ふふ……ははは、テツ完敗だ。見事……だ」



膝立ちで頭を垂らし腹部から血が流れ落ちていく光景を確認しながらテツに語りかけると無言、ただ背中を向け何も言わない。



「まったく酷い最期になってしまったな……おいテツ、何か言う事はないのか」



「感謝はしてるよ。お前が導いてくれたから今こーして人生を楽しめている」



意識が遠のく感覚が伝わり徐々に体の自由がなくなっている事を感じニノは言葉を残す。



「シゼルの事は頼む。あいつの事だ怒りに震え殺しにくるぞ」



「だろうな。まぁ適当にやるさ、ニノお前に免じて殺しはしないさ」



「腹が立つ奴だ……な、その上から目線が……」



膝にも力が入らず倒れテツの背中に手を伸ばし残り少ない時間を必死に言葉に変えていく。



「テツ……嬉しかったんだ」



「ん? お前に夫らしい事なんてした覚えないぞ」



視界はボヤけ炎を背にしたテツの顔が振り返った横顔を見て笑う。



「私がルーファスに処刑されようとした時……助けにきて……ありがとうな、凄い……嬉しかったぞ」



「何年前の話してんだよ!! 今更そんな事言われたら照れるじゃ……ねぇかよ」



テツが振り返った時にはニノは死んでいた、最期の姿は口から血を吐き出し倒れながら手を伸ばし笑顔だった。恨みでもなく恐怖でもなくニノの最期の言葉は感謝だった。


親子喧嘩に巻き込みテツを異世界に召喚し共に戦い、共に傷ついたテツの手で生涯を終わらせたニノの顔は笑っていた。

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