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生涯を戦いに焦がし今この瞬間も全てを捧げている。一時子供が産まれ平穏な生活もあったが、それはテツによって壊され再び戦いの人生へと歩みだした。ニノは父と母を葬り去り幾多の敵を斬り伏せきた剣技に絶対の自信と誇りを持っているが、否定され始めている。
魔剣を振り始めていくら時間がたってもテツに届かない。逆に一度加速をつけた魔剣を振り抜いた後に止めた時の筋肉への負荷が増していき痛みが強まり動きにわずかではあるがズレが生まれてきた。
「まったくテツめ」
出会った頃は戦いとは無縁のような平凡な印象だった。才能も欠片も感じられず心も弱い。そんなどうしようもない男が長年の時を経てニノの前で攻撃を避けている。
このままの速度では捕らえられない。しかし速度を落とせば……そんな考えは一瞬で振り払い足腰に力を入れる。腰を回し力を生み出し上半身に伝え、手に入れた腕力と体で魔剣を加速させ更に速く。
「本当に憎たらしい男だ」
腕や関節の痛みを耐え更に加速した攻撃を繰り出してもテツは笑いながら避けてしまう。あんなにも臆病だったテツが変わったなと思いながら渾身の一振りの予感がする。
足を止めようとテツの膝に向かい薙ぎ払うと、後ろに避けるのではなく飛ぶ。それを確認したニノは振り終わる前に体を無理矢理に捻り半回転させた後に上から魔剣を振り下ろす。
「その首頂いたぞテツ!!」
地から足が離れれば動くことは出来ない。魔剣の切っ先はテツの真ん中に狙いを定め振り下ろされていく。腕で防がれても両腕を破壊できる。致命傷さえ与えれば勝てるとニノは捻りきった体の痛みを噛み締め振り抜く。
「見事だニノ」
上から真っ二つになる瞬間にテツがいった言葉は敗北の意味ではなく勝者の余裕の声色だった。
「――テツ」
脳天に切っ先がめり込む瞬間にニノはやけに景色が遅く見えテツの技に見惚れてしまう。切っ先が触れる手前で片手を上げ巨大な魔剣の刀身に横から手を当て横にズラしていく。
魔剣は流されていく。川の中を一枚の葉が決められたルートを流れるように逆らえずテツの横にズラされ地面に叩きつけられた。腕力と魔剣の重さを加えた一撃を片手で一箇所に集約された力を受け流し攻撃を外した……ニノがそう確認した時には懐にテツが飛び込んできていた。
「ふざけてる。テツお前は」
脇腹に二発叩き込まれ腹部に一発貰うとニノは甲冑を粉砕されながら飛ぶ。地面を舐めるように転がりながら考えた。ありえないと、才能ある者ならわかるがテツは才能どころか凡人以下の能力だったはずと。
「元いた世界だと見切りとか受け流しとか言われてた技だ。驚いたろ?」
膝を立て地面に片手をつけ砂まみれの顔でテツを見上げながら思う。才能ではないならとてつもない努力の果てに辿り着いたのであろうと。魔王になって役20年。ひたすらに戦い特訓と実戦を重ね想像が追いつかない領域までテツは行ってしまったのかと笑ってしまう。
「刀身の細い剣なら自信はないが、その馬鹿デカい刀身ならなんなくやれるぜ。ヘヘ格好いいだろニノ」
劣勢になった途端体中の痛みが心臓の鼓動のように激しくなり全身を打ちのめしてくる。そして歳をとり一番劣化した部分も出てきてしまう。
「ハァハァ、格好よすぎて惚れ直したぞテツ」
肩が上下し呼吸が整わない。誰もが避けては通れない体力の低下……しかし目の前のテツは汗一つかかず自慢の技を披露し子供のように笑っていた。




