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裸体を晒す女達の傍に転がしていた鞄を拾うと乱暴に拳で叩く。テツの暴力的なノックに反応するように振る出すと妖艶な女の声が鞄から聞こえてきた。



「終わったの、毎回あんたの汚い尻見せられるこっちの身にもなりなさい。たく最強たる私が……あれ、ニノじゃないの」



「おう相棒早速だがいつもの頼むわ」



「はぁ!! あんた裸じゃないの!! なんで汚い素肌の上から包まなきゃいけいのよ、なんか着なさい!!」



テツと鞄が言い合いしているとニノは魔剣を下ろし溜息をつく。10年以上たっても変わらないコンビの口喧嘩を聞き口元を緩めていると話がついたのかテツに異変が起こる。


首から下は紫色に染め上がり皮膚は無数の鱗に変わっていく。指先は鳥類の爪のように尖り下半身も鱗に覆われていく。腕には分厚い手甲まで出来上がりテツは人間とは別の生物に変わっていた。



「たく人間、むさい男の裸を覆う私の気分がわかるかしら」



「悪い悪い、今は急ぎでな。なんせニノが俺とやろうってんだ」



悪魔という言葉がそのまま形となったような姿をしたテツは両腕を上げる。

古く使い込まれた銀色の甲冑を着込み母の形見である魔剣を構え直すニノ。



「そーいえばシゼルはどーした」



「父親の酷い姿を見せたくなくてな少し遅らせてある。正解だったようだ」



「確かに娘に女とやってる姿見られるのは嫌だわ、気が利くじゃねぇか」



先に動いたのは魔剣を振り回したニノだった。長いリーチを利用し一方的に攻撃を繰り返す。一撃でも当たれば粉砕する自信があり何度も巨大な魔剣を振り抜くがテツは嘲笑うように避けていく。


上から振り下ろされれば左右に体を振りスカし、横から払われれば背中を逸らし霞めるように外していく。下半身はバネのように伸び上半身はゴムのように伸び縮みするような動きで全てを捌く。



「何年立とうが戦い方は変わってないなテツ!!」



ニノの剣撃が遅いわけではない。巨大な魔剣を操るにしては異常なほど速いが、それ以上にテツの反応速度、身体能力が高い。剣で作られた嵐の中でテツは動き全てを避ける。



「歳には勝てないなニノ!! 全盛期より剣のキレが悪いぞ!!」



ニノは40を過ぎ確かに衰えを感じていた。体は無理矢理鍛え上げたが反応が落ちていた。何度も訓練はしていたが衰えは歳と共に侵食していた。魔剣と契約して得た力は腕力のみだったのも致命的だった。



「うるさいわテツ!! 浮気野郎の癖にほざくな!! 今すぐ粉砕してやるぞ」



テツは50を過ぎても反応は衰えるどころか更に上がっていた。体全てをパンドラという悪魔の箱に食らわせ人外になり視力、身体能力、反射神経が飛び抜け常人には捕らえられない動きまで進化していた。


ニノは願う。もっと速くと、悪魔の姿をしたテツに触れるには魔剣の刀身を残像すら残さない速度で振るしかない。回転を上げ続けていると手首と肘に痛みが生まれてしまう。



「どうしたどうしたニノ~動きが鈍っているぞ」



自身の限界異常の速さで攻撃を繰り返した結果、間接と筋肉に負担がかかり腕からわずかな違和感を感じる。常人より回復速度が速くても繰り返せば腕に致命的な障害が発生すると予感するニノだが。



「フハハハ!! こうなれば根競べだテツ!! 捕らえるまで止めはせぬぞ」



何度でも振り抜く。二人の周囲には斬撃の結界で死体や地面は千切られ粉砕されていく。炎を背に笑うテツと戦いの業火に身を焦がしながら攻め続けていくニノ。


ニノの中からテツへの憎しみではなく、どこか懐かしさが生まれ過去の映像が蘇る。学園にきたての頃、いい歳したおっさんが泣きながら戦う姿……無数の剣撃を生み出しながらニノは笑う。



「ハハ、ふはははははははは!!」



ニノもテツも笑う。世界を支配してた夫婦は滅ぼされた国の中で炎のように燃え上がり戦っていく。



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