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村に入り1週間ソウジはひたすら基礎トレーニングを繰り返していた。予備動作を極限まで減らし、体重を乗せるようなパンチを思い描き森の中でひたすら繰り返す。幼き頃父親に教わった基礎は地味で疲れたが今は違う。


ただ拳を突き出すという行為が楽しい。突き出す拳の先に息子がいると思うと苦痛と疲労は消え何万回だって出来る気分になる。樹木と植物に囲まれた中で老人は人生最後に向かい走り出していた。



「おっとそろそろか」



注射器を取り出し腕に打つと脳が蕩け出し口が半開きする。薬物を投与し続けると体が適応し最初ほど苦しみはなくなったが快楽が倍増していった。一定の時間ごとに体が要求するようになり抜け出せなくなっていく。



「お~いお爺さん、届いたよ」



巨大な甲冑を背中から下ろすと、古臭く汚れが目立つが無骨な外見。ソウジは近付く装着していく。



「ウィルからだよ。サイズも合わせ内部のスプリングも更に強化したって、こんなの使ったら肩やら膝壊しそうだけどね」



「前のはフェルって化物に壊されたからな。どれどんな物か」



試しに目の前の樹木に向かい腰を落とし回転させ全体重とスプリングの加速を載せた拳を打ち出した瞬間に弾けるような音が響く。巨大な樹木の右側がエグりとられたように削れバランスを失い倒れていく光景にソウジの体が歓喜を訴えるように震えだす。



「ハハ見たかシゼル!! よし介護式に体を馴染ませるか」



ただひたすらに繰り返す。若い頃は父親のわけのわからない特訓が嫌だったが58年目にして感謝する。何十年ぶりだろうか、こんなにも楽しく一切の迷いなくただ目標に向かい努力するのは。



「シゼル!!父上!! ここにいたか、きてくれ」



ニノがいつもの高笑い顔ではなく血相を変えて現れると二人を村に戻しテントの中で地図を広げる。



「ここに国があったんだが魔王軍に滅ぼされた」



「ん、結構ここから近くないか」



地図を見ると城らしき絵と拠点とされる森の距離はそこまでない。



「問題はこの城に未だ魔王軍が駐留している事だ」



気付いたシゼルは無言でテントを出て馬を用意し装備を整えていく。頭の回転がそこまでよくないソウジは腕を組みながらニノを言葉を待つ。



「いいかテツは滅ぼした国にしばらくは居座る癖があるのだ。父上よ案外親子の再会は早くなりそうだな」



言葉が上手くでなかった。ほんの少しの距離にテツがいると思うと汗が吹き出し喉が渇く。



「ただ当然魔王軍の壁を突破しなければテツまでいけない。そこまでの兵力も今はない。被害も大きくなるが……どーする」



「敵の大将がいるんだろ。どんなに被害が出てもテツさえやっちまえば問題ないだろ……フフ、アハハハハ!! ゆくぞ娘よ!!」



確かにニノが用意した兵士を全て集めれば戦えなくはなかったが遅すぎる。世界を掌握する魔王が目の前にいるから正義のために戦うという者はソウジの周りにはいなかった。


浮気の復讐のために、馬鹿の父親を殺すために、ただ息子に会いたいがためにと正義の欠片もない。


シゼルに続きソウジも勢いよくテントを出て馬を探す。ニノから習った乗馬術には不安があるがそんな事も言ってられない。



「ふぅ~待ってろよテツ!!」



薬物で強制的に強化し骨格も変わりつつあるソウジは馬に跨り介護式の音を鳴らしながら高鳴る心臓を落ち着かせる。まだここで爆発させてしまうのは勿体ないと言い聞かせ深呼吸し目指す。


ろくな人生ではなかったが最後の最後で希望が見えた。テツを知る前は記憶の中にひっそり留めていた存在だったが知ってしまうと会いたくて仕方ない。自分勝手だと自分を笑いソウジはテツに向かい馬を蹴った。


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