5章
頭を失った魔王軍が壊滅するまでに時間はかからなかった。シゼル率いる傭兵団が勢いに乗り数では負けている魔王軍を一人残らず虐殺し死体の山を築き上げる中でソウジは腰を下ろしドーピングの対価を払っている。
目眩や吐き気など生温く感じるほどに頭の中が蕩けるようにグニャグニャと捻じ曲がる感触と景色を見ながらのたうち回る。食べた物を全て吐きながら地面を転がる姿は娘であるニノの顔を苦しめてた。
「わかっていた事とはいえ酷いな、父上よ。そんなにもテツに会いにいきたいのか」
「あ~ガァアア!! はぁはぁ、そりゃそうだ。こんな俺でも親心もあるし、今更親父顔も出来ないだろうが……会ってみてぇんだよなぁ」
頬がこけ目元にクマを作り全て吐くと一息つきシゼル達が残党を処理してる風景を見ながらニノの隣で語る。
「俺は親以前に人間として最低だからな、息子に会うためにこれから数え切れない命を奪うだろうが、まったく迷いがないんだ!! 他人が死のうが知った事ではない!!」
「こうして見るとそっくりだなテツと、あいつもそんな考え方だったよ。ただ力を手に入れてしまってからは我が侭な子供みたいに自分の力を振り回す奴になったがな」
「テツもろくな人生送ってなかったんだろうな。毎日が退屈で金もなく未来も、ほんの少しの希望もない奴が誰もが逆らえない力手に入れたらそーなるさ、人間ってのは善意よりも悪意の方が遥かに強いからな」
シゼルが二人に気付くと満面の笑みで手を振りながら走ってくる。顔は可愛いらしい孫娘だが首から下が返り血だらけとソウジは笑ってしまう。
「おおおお!! お母さんんんん!!」
「フハハハ久しいな娘よ!! 随分と鍛え込んでるようだな」
親子の感動の再会を見てソウジが笑ってるとシゼルの顔が何か不思議な物を見るような目つきになっていく。
「このモンスターは誰ですか。お母さんペットを飼う趣味ありましたか」
「ふむ、多少薬で体つきが変わっているが我が父ソウジだ」
初めてあったソウジは老人らしく痩せ細っていた。多少鍛えてあっても老人らしい体だった、しかし目の前にいるのは巨大な筋肉を170の身長に詰めに詰めた怪物にも等しい男だった。
「やぁ久しぶり孫娘」
「あぁ……どうもお爺さん」
外見ではまったくの別人どころか違う生物に見えるが声で判断しなんとか挨拶を交わすとニノが手を上げる。
「シゼル、傭兵団を作り上げ指揮してる辺りはさすが我が娘だが、そんな小規模では到底テツに辿りつけない。私についてこい」
戦い終わった傭兵達を纏めてニノについていくと背中が笑っていた。
「フフ、昔の友人と協力してある組織を作ってたな、傭兵協会と名付けたんだが、世界にはいるもんだな魔王軍にもつかず国にも属さず適当にフラフラしてる奴等が」
「お母さんそんな人達集めた理由ってまさか……」
「当然テツの大馬鹿者に鉄槌を喰らわすためだ。今はいろいろ依頼を受けているがその内魔王軍に喧嘩をふっかけるまで大きくするぞ!! こーゆ時に魔王の妻という肩書きが便利で結構集まってきたんだぞ」
シゼルと傭兵団を率いて先頭で進んでいるニノは楽しさで笑い続けていた。血が騒ぎ出す。初代魔王とその妻も戦闘狂だったが娘のニノも戦いに楽しさを見出す凶人だった。
楽しさこそ行動力の源であると父に教わった事を思い出す。楽しければどんな事もやってのける、楽しいだけで強くなれるんだという言葉を思い出しニノは進んでいく。
「さぁ待ってろよ愛するテツよ!! お前の首をすっ飛ばしてやるわ!!」
「娘も孫も凄い事になってるな。まぁいいか」
ソウジにとっても都合がよかった。ニノについていけばテツへの近道になる。会える、血を分けた唯一の息子に会えると思うだけで心が高鳴り心臓が速く鼓動する。
金も名誉もいらない。そんな物を求める年齢ではない。ただ息子に会って言葉を交わしたいだけだった。




