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体が軽い。体重を感じさせず水の中で身を任せてるように重さを感じなく強敵オルガの前にしても微塵の恐怖も生まれない。迷いもなく感情も浮かんでこなくソウジは真っ直ぐに歩を進めていく。
父が教えてくれた武術とドーピングで作り上げた体を武器に正面からぶつかっていく。2メートルを越える巨体から繰り出される拳は当然リーチもあり先手はオルガだが空をきる。
空振りだけで空気が振動するがソウジは捕らえられず視線を下に落としソウジを視界に入れた瞬間に顔を跳ね上げられた。巨体がグラつき膝が落ちそうになると同時に再び顔面を打ち抜かれていく。
「父上」
隙あれば魔剣で斬りかかり終わらせようとしたニノは立ち尽くした。二人の体格差で殴り合っているが小さいソウジが殴り勝っている状況に驚き、その姿に魅せられた。
「ジジイイイィイ!!」
オルガが反撃の拳を振るうが見事にカウンターをもらい片方の膝が地面についた瞬間に頬に爪先が突き刺さり、口内から歯が何本か飛び出しオルガが倒れ込む。
「こいつはすげぇや」
イメージしている動きより遥かに速く体は動き、理想の重さの攻撃より何倍もの威力を叩き出す手足にソウジは驚き震える。倒れたオルガの顔を全力で踏みつけ続けていく。何度も何度も、最後はサッカーボールのように蹴り抜く。
「ア、ガ……ッ」
口から血と歯を何本も吐き出し立ち上がったオルガは恐怖より驚きが上回る。テツに教えてもらったボクシング技術の練習を積み重ねた努力にも自信もあり魔王軍の中でも上位の実力を持っていたが……目の前の老人は違う。
動きの速さ、技の繋ぎ、経験。何かも格が違うと感じてしまう。唯一勝ってるのは腕力だが攻撃が触れもしない。奥でニヤニヤと笑っているニノに腹が立ち意地でソウジに立ち向かうが。
「ブッ!! ハッ――ッ!!」
鳩尾に膝蹴りをもらい呼吸が停止した瞬間に近距離で肘を頭に叩き込まれオルガの巨体が揺らぐ。大きな体のおかげで耐えれるが……攻撃は当たらず一方的に打たれ蹴られ続けるオルガは死を予感した。
フック、蹴り上げ、肘打ち、鉄槌。打撃技のオンパレードでサンドバッグにされ続けていく。打撃の嵐の中で顔は老人の癖に体がまともな人間とは思えない発達を遂げたソウジに対して手を伸ばす。
「貴様は、何者だ」
弱弱しく伸びてきた手を払いのけ再び拳と足を動かし打ち出す。何十という打撃を全て的確に打ち抜きオルガの両膝を地面に落とし最後の一撃は顔を両手で掴み勢いをつけた膝を叩き込む。
鼻から大量の血が放物線を描きながら噴き出しオルガは倒れた。顔の形が変わるほどに打たれ徹底的に痛めつけられた。
「ニノォ~……」
痛みで悲鳴を上げる体を起こし手を伸ばすとニノは近付いてくる。
「まさに芸術だな」
ソウジの動きを芸術と言ったニノは魔剣を振りかざし大きく振り抜く。一瞬肉が裂ける音が響くとオルガの首が転がる。
「皮肉だなテツ。お前の努力を全て否定する怪物が実の父とはな……フハハハハ!!」
息子テツは努力を重ね何度も挫折を繰り返した強さだったがソウジは逆だった。持って生まれた才能を老人になり開花させ他を圧倒していく。体は命と引き換えに強くし、わずかな特訓で怪物と豹変したソウジを見てニノは思う。
これならばテツを討てると。悪魔に魂を売ったテツに悪魔そのものをぶつけるようなものだと。かつて初代魔王に自分の正義をぶつけ倒したが今では違う。
正義などない。ただテツが気に食わないから大量の命を奪い虐殺を繰り返していく。魔王の妻は笑う、父親と肩を並べ戦える事がこんなにも嬉しいと笑う。




