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魔王軍の兵達が固める本陣へとニノが突撃していく様はシゼルによく似ていた。ただ娘とは格が違う。シゼルは戦場では野生の虎に見えたがニノはまるで熊だった。魔王軍の雑兵達はニノの前では犬や猫にしか見えないほどに差がある。
分厚い人間の壁をぶち壊し魔剣とまで呼ばれた剣を振り抜くと血の雨ではなく人の雨が降る。ドーピングで高まっていた精神状態のソウジはその後ろ姿を見ただけで恐怖を覚え冷静になってしまう。
「ハハハ!! どうした!! 王妃の御前とはいえ遠慮はいらんぞ!!」
魔王軍の中ではニノの裏切りは広まり発見したら殺しても構わないと命令を受けているが、いざ目の前にすると桁違いの暴力の前に足が震え気付く前に体をバラバラにされていた。
「とんでもねぇ娘もっちまったぜ~ハハハ!! アハハハハ!!」
元の世界で暮らしていた常識もニノを見ていると吹き飛び、命を張っている緊張感と敵を打ち倒す喜び、薬物が脳内を溶かすような感覚でソウジは笑い敵の背中に剣を突き刺す。
ニノが教えてくれた剣術は本物だった。素手だけは戦場では生き残れないと武器の扱いを習い実戦するとわかる。ニノ自身が生涯を通して築き上げた剣術だと。
「オルガァアアアア!! 今いくぞぉおお!!」
体は合理的に動き、敵の動きがスローに見えてくる。頭で考えるよりも何度も繰り返した動きを体が選択し流れるように斬る。ソウジが教わった剣術は思考停止だった。
何も考えず見るままに感じるままに手足を動かし流れるように踊るようにと敵を斬り刻んでいく剣術。型もなく足裁きもなく、およそ剣術と呼べる物ではないが教わり気付く。
「天才の剣か」
技術的ではなく感覚的な動きで他を圧倒する剣。凡人には到達できない領域の剣をニノは長年の経験で気付き作り上げ父に叩き込んだ。
「あぁ~……いい気持ちだぁ」
酔っ払いの千鳥足のようにフラフラと歩いているが敵が斬りかかってくると不思議と避け切っ先を喉元に突きたてる。ソウジには才があった。歳老いた体なだけで戦うという才能はニノをも震わせていた。
「おいニノ!! まだかよ~」
ニノに追い付こうと速度を上げると人の死体と血で道が作られていた。両側に大量の死体とその間に血。ニノの足跡をベッタリ残した死の道が築き上げられいる。
「うぉ~いニノ」
道を辿っていくと足を止め魔王軍に囲まれているニノが息を吐き笑っていた。
「久しぶりだな筋肉馬鹿。そんなにテツがいいのか」
相対しているのは一度見たら忘れない巨漢のオルガ。胸と肩だけに甲冑をつけ腕には手甲をはめ込み指を鳴らしながらニノに近付く。
「本当に腹が立つ女だね。お前が暴れまわらなきゃシゼルを捕らえる事ができたんだよ」
「フハハハそれは残念だったな!! 母親が娘の手助けをして何が悪い、オルガお前ここで死んでもらうぞ」
体格ならオルガ圧倒しているがニノには魔剣がある。いくら筋肉で武装しようとも規格外に巨大な魔剣の直撃を受ければ両断されてしまう。そう考えていたソウジが追い付くとニノが勢いよく背中を叩く。
「よぉし父上。二人であの筋肉女を片付けるぞ」
「ヘヘよっしゃ任せな~……具体的な作戦ないの?」
「とりあえず突っ込んで好き勝手戦え。私が隙をついて魔剣を叩き込む」
オルガは周辺の部下を引かせ指を鳴らしながら笑みを浮かべる。
「なんだいニノ、そんな老人と組むなんてらしくないじゃないかい」
両手に握ってた剣を背中のホルスターに戻すと拳を握り締め間接部分を延ばし数回飛び体を軽くする。恐怖はドーピングで消し力も反応も全てドーピングが与えてくれる。息子に会いにいきブン殴るためにソウジは薬物ジャンキーになり戦う。




